手順の全体:候補を出す → AIで解かない課題を外す → 4軸で採点する
テーマ選定は、次の3段階で進めます。
- 候補を出す:現場の困りごとを、不良・停止・工数・在庫・属人化の5分類で集める。1工場で10〜20件程度を目安にする
- AIで解かない課題を外す:ルールや設備改善で解ける課題、データが原理的に取れない課題をこの段階で除く
- 4軸で採点して優先順位を付ける:効果額・データの有無・現場の受け入れ・横展開性で点数を付ける
最初から「どのAI技術を使うか」で候補を出すと、技術ありきのテーマが並び、効果の小さい課題に投資することになります。必ず課題から出発します。
AIで解く課題ではないものを先に外す
候補の中には、AIを使わない方がよい課題が必ず含まれています。次のいずれかに当てはまるものは、AIテーマの候補から外して別の手段で解きます。
| 外す条件 | 例 | 代わりの手段 |
|---|---|---|
| 判定基準が数値で明確 | 寸法が公差内か、温度が上限を超えたか | 閾値管理、SPC(統計的工程管理) |
| 原因が分かっていて対策も明確 | 治具の摩耗で位置ずれが起きる | 設備改善、保全周期の見直し |
| 必要なデータが原理的に取れない | 画像に写らない内部欠陥を外観で判定したい | 検査方式の変更(X線、超音波) |
| 発生頻度が極端に低く、効果も小さい | 年1回の書類作業 | 手作業のまま、または手順書の整備 |
| 業務の流れ自体が決まっていない | 誰が判定するか決まっていない検査 | 業務設計と標準化を先に行う |
4つの評価軸と採点基準
残った候補を、次の4軸でそれぞれ1〜5点で採点します。
| 評価軸 | 見ること | 5点の目安 | 1点の目安 |
|---|---|---|---|
| 効果額 | 課題が年間いくらの損失を生んでいるか | 年数千万円以上の不良・停止・工数 | 年数十万円程度 |
| データの有無 | 必要なデータが、ロットや設備に紐付いた形で残っているか | 2年分以上がMESやヒストリアンに整理されている | データがない、または紙のみ |
| 現場の受け入れ | 結果を受け取る部署と担当者が決まり、困りごととして認識しているか | 現場から改善要望が出ている | 現場は困っておらず、本社主導 |
| 横展開性 | 他のライン・工場・品種に同じ仕組みを広げられるか | 同じ設備・工程が複数拠点にある | その1ライン固有の課題 |
効果額は、不良なら「不良率 × 生産量 × 1個あたりの損失」、停止なら「停止時間 × 1時間あたりの損失」、工数なら「作業時間 × 人件費」で概算します。この段階では精密な試算は要りません。桁が合っていれば十分です。
データの有無は、「データがあるか」ではなく「使える形であるか」で採点します。2026年版ものづくり白書の図表によると、製造プロセスのデータを取得している事業者は66.0%ですが、活用しているのは51.4%でした(RIETI BBL資料からの読み取り値)。取っていても、時刻がずれていたり、どのロットのデータか分からなかったりすると使えません。
採点結果の読み方:点数が割れたときの判断
4軸の合計点だけで決めると、判断を誤ることがあります。典型的な3つのパターンと判断は次のとおりです。
- 効果額が大きく、データが不足:AIのテーマとしては有望でも、すぐにPoCをしても評価できません。センサの追加やタグの整理など、データ整備を先に3〜6か月行い、その後PoCに進む計画にします。
- 効果額が小さく、データが揃っている:開発費をかけず、既製品やツールで小さく試します。社内でAIの使い方を覚える練習台として価値があります。
- 現場の受け入れが1点:他の3軸が高くても、最初のテーマにはしません。結果を受け取る人がいないAIは、本番に載っても使われなくなります。現場との合意を先に作ります。
横展開性は、最初のテーマでは重みを上げることをおすすめします。McKinseyの2019年の資料では、インダストリー4.0のパイロットを始めた企業の78%がその先に進めませんでした。理由の1つは、1ラインの成功が他に広がらず、投資を正当化できなかったことです。同じ仕組みを複数のラインに広げられるテーマなら、2つ目以降の費用が下がり、全体の投資回収が早まります。
選定の場に誰を集めるか
採点に使えるExcelシートは製造業AI導入テーマ選定シートで配布しています。テーマが決まったら、PoC設計で合格ラインと中止条件を先に決めます。
よくある質問
最初のテーマは外観検査がよいと聞きますが、本当ですか?
外観検査は既製品が多く、効果も見えやすいため、最初のテーマになりやすいのは事実です。ただし検査工数や流出不良の金額が小さい工場では、効果が費用を下回ります。用途の人気ではなく、4軸の採点で判断してください。
候補が1つしかない場合はどうすればよいですか?
候補が少ないのは、現場から課題を集める範囲が狭いことが多いです。製造・品質・保全・生産管理の各部門に、不良・停止・工数・在庫・属人化の5分類で困りごとを出してもらうと、10件以上集まるのが普通です。
採点の点数は誰が最終決定しますか?
各軸の採点は担当部門が行い、最終的な優先順位はDX推進の責任者か工場長が決めます。点数が近い候補が並んだときは、横展開性の高いもの、またはデータ基盤の整備が他のテーマにも使えるものを優先します。
