この記事は はじめての製造業AI 第2章「テーマを選んでPoCを設計する」の 2-1 です。次に読む:製造業のAI導入手順8ステップ:構想からPoC・本番・横展開までの流れ

手順の全体:候補を出す → AIで解かない課題を外す → 4軸で採点する

テーマ選定は、次の3段階で進めます。

  1. 候補を出す:現場の困りごとを、不良・停止・工数・在庫・属人化の5分類で集める。1工場で10〜20件程度を目安にする
  2. AIで解かない課題を外す:ルールや設備改善で解ける課題、データが原理的に取れない課題をこの段階で除く
  3. 4軸で採点して優先順位を付ける:効果額・データの有無・現場の受け入れ・横展開性で点数を付ける

最初から「どのAI技術を使うか」で候補を出すと、技術ありきのテーマが並び、効果の小さい課題に投資することになります。必ず課題から出発します。

AIで解く課題ではないものを先に外す

候補の中には、AIを使わない方がよい課題が必ず含まれています。次のいずれかに当てはまるものは、AIテーマの候補から外して別の手段で解きます。

外す条件例代わりの手段
判定基準が数値で明確寸法が公差内か、温度が上限を超えたか閾値管理、SPC(統計的工程管理)
原因が分かっていて対策も明確治具の摩耗で位置ずれが起きる設備改善、保全周期の見直し
必要なデータが原理的に取れない画像に写らない内部欠陥を外観で判定したい検査方式の変更(X線、超音波)
発生頻度が極端に低く、効果も小さい年1回の書類作業手作業のまま、または手順書の整備
業務の流れ自体が決まっていない誰が判定するか決まっていない検査業務設計と標準化を先に行う

4つの評価軸と採点基準

残った候補を、次の4軸でそれぞれ1〜5点で採点します。

評価軸見ること5点の目安1点の目安
効果額課題が年間いくらの損失を生んでいるか年数千万円以上の不良・停止・工数年数十万円程度
データの有無必要なデータが、ロットや設備に紐付いた形で残っているか2年分以上がMESやヒストリアンに整理されているデータがない、または紙のみ
現場の受け入れ結果を受け取る部署と担当者が決まり、困りごととして認識しているか現場から改善要望が出ている現場は困っておらず、本社主導
横展開性他のライン・工場・品種に同じ仕組みを広げられるか同じ設備・工程が複数拠点にあるその1ライン固有の課題

効果額は、不良なら「不良率 × 生産量 × 1個あたりの損失」、停止なら「停止時間 × 1時間あたりの損失」、工数なら「作業時間 × 人件費」で概算します。この段階では精密な試算は要りません。桁が合っていれば十分です。

データの有無は、「データがあるか」ではなく「使える形であるか」で採点します。2026年版ものづくり白書の図表によると、製造プロセスのデータを取得している事業者は66.0%ですが、活用しているのは51.4%でした(RIETI BBL資料からの読み取り値)。取っていても、時刻がずれていたり、どのロットのデータか分からなかったりすると使えません。

採点結果の読み方:点数が割れたときの判断

4軸の合計点だけで決めると、判断を誤ることがあります。典型的な3つのパターンと判断は次のとおりです。

効果額とデータの有無の2軸による4象限の判断マトリクス データ整備から着手効果大・データ不足PoCの前に3〜6か月収集 最優先でPoCへ効果大・データあり現場の受け入れを確認 見送り効果小・データ不足 既製品で小さく試す効果小・データあり開発費をかけない データの有無(右ほど整っている)→ 効果額(上ほど大きい)→
効果額とデータの有無の2軸で候補を4つに分け、それぞれの扱いを決める。
  • 効果額が大きく、データが不足:AIのテーマとしては有望でも、すぐにPoCをしても評価できません。センサの追加やタグの整理など、データ整備を先に3〜6か月行い、その後PoCに進む計画にします。
  • 効果額が小さく、データが揃っている:開発費をかけず、既製品やツールで小さく試します。社内でAIの使い方を覚える練習台として価値があります。
  • 現場の受け入れが1点:他の3軸が高くても、最初のテーマにはしません。結果を受け取る人がいないAIは、本番に載っても使われなくなります。現場との合意を先に作ります。

横展開性は、最初のテーマでは重みを上げることをおすすめします。McKinseyの2019年の資料では、インダストリー4.0のパイロットを始めた企業の78%がその先に進めませんでした。理由の1つは、1ラインの成功が他に広がらず、投資を正当化できなかったことです。同じ仕組みを複数のラインに広げられるテーマなら、2つ目以降の費用が下がり、全体の投資回収が早まります。

選定の場に誰を集めるか

採点に使えるExcelシートは製造業AI導入テーマ選定シートで配布しています。テーマが決まったら、PoC設計で合格ラインと中止条件を先に決めます。

よくある質問

最初のテーマは外観検査がよいと聞きますが、本当ですか?

外観検査は既製品が多く、効果も見えやすいため、最初のテーマになりやすいのは事実です。ただし検査工数や流出不良の金額が小さい工場では、効果が費用を下回ります。用途の人気ではなく、4軸の採点で判断してください。

候補が1つしかない場合はどうすればよいですか?

候補が少ないのは、現場から課題を集める範囲が狭いことが多いです。製造・品質・保全・生産管理の各部門に、不良・停止・工数・在庫・属人化の5分類で困りごとを出してもらうと、10件以上集まるのが普通です。

採点の点数は誰が最終決定しますか?

各軸の採点は担当部門が行い、最終的な優先順位はDX推進の責任者か工場長が決めます。点数が近い候補が並んだときは、横展開性の高いもの、またはデータ基盤の整備が他のテーマにも使えるものを優先します。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。