この記事は はじめての製造業AI 第3章「データを整えて製品を選ぶ」の 3-1 です。次に読む:AIに必要な学習データ量の目安:外観検査・予知保全・需要予測の3用途別

「取っている」と「使える」の差を埋めるのがデータ準備

2026年版ものづくり白書の図表によると、一連の製造プロセスのデータを取得している事業者は66.0%、取得データを活用しているのは51.4%、効果が出たのは43.9%でした(RIETI BBL資料のテキストから読み取った値で、図との対応は推定)。データを取っていても、その2割強は活用に至っていません。

製造プロセスのデータを取得
66.0%
2026年版ものづくり白書の図表値(RIETI BBL資料、2026年6月)
取得データを活用
51.4%
同上
「データの標準化が難しい」と答えた企業
36.8%
IPA「DX動向2026」(2026年7月、全産業)

取っているのに使えない理由は、ほとんどが次のような地味な問題です。設備ごとにタグの名前が違う、時刻がずれている、通信が切れた期間が欠けている、どのロットのデータか分からない。AIのモデルは、これらの問題を自動では解決してくれません。PoCの前にデータの状態を点検し、直すべきものを直しておくことが、AI導入の期間と費用を左右します。

7つのチェック項目

AI導入前に確認する項目は、次の7つです。対象のテーマに必要なデータだけを点検すれば十分で、工場の全データを一度に整える必要はありません。

#項目確認することよくある不備
1所在と所有者どのシステムに何年分あり、誰が管理しているか担当者の個人PCのExcelにしかない
2タグ命名と意味タグ名から設備・計測点・単位が分かるか「D100」「温度1」のように意味が分からない
3時刻設備・MES・検査装置の時計が揃っているかPLCと検査装置で数分ずれている
4欠損と粒度欠けている期間、サンプリング周期、圧縮の有無ヒストリアンの圧縮で高周波の変化が消えている
5ロット・品番との紐付け時系列データが、どのロット・品番・工程のものか分かるか設備データと生産実績をつなぐキーがない
6正解ラベル良否・不良コード・停止理由が、一貫した基準で記録されているか「その他」が多い、人によって分類が違う
7マスタの整合品番・設備ID・不良コードが、システム間・期間で一致しているか品番の改番で同じ製品が別の番号になっている

項目1〜4:データそのものの状態

  1. 所在と所有者:データがどのシステム(PLC、ヒストリアン、MES、検査装置、Excel)にあり、何年分残っていて、誰が取り出せるかを一覧にします。所有者が分からないデータは、品質に責任を持つ人がいないため、後で問題が起きたときに直せません。
  2. タグ命名と意味:PLCのアドレスやヒストリアンのタグ名が、設備・計測点・単位を示しているかを確認します。設備ごとに命名が違うと、複数の設備を横断したAIが作れず、横展開のたびに対応表を作り直すことになります。
  3. 時刻:設備、MES、検査装置、ラボの分析値の時刻が揃っているかを確認します。時刻が数分ずれていると、ある不良がどの工程条件のときに起きたかを正しく結び付けられません。各機器がNTPなどで時刻を同期しているかを確認します。
  4. 欠損と粒度:通信断やPLCの更新で欠けた期間、サンプリング周期、ヒストリアンの圧縮(変化が小さいと記録しない設定)を確認します。予知保全で振動の高周波成分を使いたいのに、ヒストリアンには1秒に1点しか残っていない、ということがよくあります。

項目5〜7:データをAIに使える形にする条件

  1. ロット・品番との紐付け:AIの学習には、データが「どのロット・品番・工程・設備・作業者のときのものか」という文脈が必要です。この対応を持っているのは多くの場合MES(製造実行システム)です。設備の時系列データとMESの実績を、時刻と設備IDで結び付けられるかを確認します。
  2. 正解ラベル:外観検査の良否、不良の種類、設備の停止理由など、AIが学ぶ「正解」が一貫した基準で記録されているかを確認します。停止理由の半分が「その他」だったり、検査員によって不良の分類が違ったりすると、AIはその揺れまで学習します。
  3. マスタの整合:品番の改番、設備の入れ替え、不良コードの体系変更で、同じものが期間によって別のコードになっていないかを確認します。
設備の時系列データとMESのロット実績・品質判定を時刻と設備IDで結合し、AIの学習データにする流れ 設備・センサの時系列温度・圧力・振動(項目2〜4) MESの実績・品質ロット・品番・良否(項目6〜7) 結合(項目5)時刻 × 設備ID × ロット AIの学習データ文脈付きの特徴量+正解
設備データにMESの文脈を付けて、AIが学習できるデータにする流れ。項目5〜7はこの結合部分の点検にあたる。

点検の進め方:テーマ1つ分から始める

工場全体のデータ基盤を先に作ろうとすると、目的が曖昧なまま時間と費用がかかります。最初のテーマに必要な範囲から点検し、そこで決めた命名規則や紐付けの方法を、次のテーマにも使える標準にしていく進め方が現実的です。

40項目のチェックリストはデータ準備チェックリストで配布しています。データ品質の問題の詳しい直し方は製造データ品質の10の問題、MESのどのデータがAIに使えるかはAI学習に使えるMESデータ一覧で扱っています。

よくある質問

データ準備にはどのくらいの期間がかかりますか?

点検だけなら1テーマで2〜4週間程度です(編集部の想定)。点検で×が多く、センサの追加やタグの整理が必要になると、3〜6か月かかることもあります。PoCの計画は、点検結果を見てから立てます。

紙の記録しかない場合はどうすればよいですか?

過去の紙の記録をすべてデータ化する必要はありません。まずこれからの記録をデジタル化(タブレット入力、計測器からの直接取り込み)し、必要な期間分を貯めます。過去分が必要な場合は、AI-OCRで重要な項目だけを読み取る方法もあります。

MESがない工場ではAIは使えませんか?

使えますが、ロットや品番との紐付けを別の方法で作る必要があります。生産日報、バーコード、ロット番号の手入力などで、設備データがどの製品のものかを分かるようにします。外観検査のように1つの画像で判定が完結する用途は、MESがなくても始めやすいテーマです。

この記事に出てくる用語

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。