2つの製品を同じ9項目で並べる

Pokaの共同創業者でCEOのAntoine Bisson氏は、AI Studioについて「AIを作る力を工場長の手に直接渡すもの」という趣旨を述べています。Pokaは現場作業者向けの業務基盤で、発表文では「IFSの一社」と名乗っています。2026年10月14日、米オーランドで開かれたIFS Unleashedで、ノーコードのエージェント作成環境「AI Studio」と、MCP(Model Context Protocol、AIと外部システムをつなぐ共通仕様)のサーバーを発表しました。業界メディアへの配信は15日付のものもあります。

同じ「現場向けのノーコード・エージェント」を掲げる先行製品がTulip AI Agentsです。Tulipのサポート文書(2026年8月13日付)ではオープンベータの扱いになっています。下の表は、両社が公開している資料だけで9項目を埋めたものです。資料に書かれていない項目は「記載なし」とし、推測で埋めていません。

項目Poka AI StudioTulip AI Agents
提供状況2026年10月14日に発表。「Poka Advanced AI」の一部として提供オープンベータ。r350以降またはLTS 16が必要
作り方ノーコード。テンプレートか白紙から作るノーコード。目標・指示・ツールの3要素を設定
用意されたひな形未処理の課題を定期的に見直して上げる担当へ回すエージェント、帳票の異常値を拾うエージェントなどTulip Libraryの既製エージェント、作成補助のAgent Building Assistant
起動のしかたチャット、既存の業務フローから起動、定期実行文書が説明しているのはチャット(ファイル添付可)。定期実行の記載なし
主に扱うデータ作業指示書、トラブル対応手順、技能認定、帳票、課題、朝会ボード、実行履歴分析、ステーション、テーブル、ユーザー・グループ・ロール
他システムとの接続Pokaが接続済みのERP・MES・CMMS・QMSと連携既存のコネクタ関数経由でSAPやPostgresなどを読む
権限ロールベースのアクセス制御。読めるデータと実行できる操作を指定エージェントのツール設定と、呼び出した人の権限の重なりに限定
人の承認実行前に作業者や監督者の承認を必須にできる文書に承認ステップの記載なし
監査各ステップの監査証跡、出典つきの回答Activity Feed、テーブル記録の履歴(ユーザー・エージェント・会話ID)、管理者によるチャット履歴の確認

出典:Poka AI Studio製品ページ、Intelligent HQとAdvanced Manufacturingの報道(2026年10月14〜15日)、Tulipサポート文書(2026年8月13日付)。いずれも同社発表または同社資料です。

表から読み取れる違いは3つあります。起動のしかた、扱うデータ、承認の置き場所です。以下で順に見ていきます。

起動のしかた:定期実行の有無で用途が分かれる

Pokaは定期実行を最初から用意しています。発表で例に挙がった「未処理の課題を見直して上げる担当へ回すエージェント」は、人が呼ばなくても動く前提の使い方です。夜勤明けに残った不具合票を朝会の前に整理する、といった定常業務の代行に向きます。

Tulipの文書が説明しているのはチャットでの利用で、ファイルはCSV、TXT、PNG、JPEGを5MBまで添付できます。生産技術や改善担当が、テーブルに貯めた実績をその場で集計させたり、ステーションの設定を確認させたりする対話型の使い方が中心になります。Tulipには別にアプリ作成を補助する機能の系譜があり、その流れはTulip AI Composerとはで整理しています。

定期実行するエージェントは、誰も画面を見ていない時間に動きます。動作の記録と止め方を先に決めておかないと、誤った振り分けが朝まで続きます。この点は表の「監査」の行と合わせて評価してください。

扱うデータ:人の作業記録か、アプリのテーブルか

Pokaが根拠にするのは、作業指示書、トラブル対応手順、技能認定、帳票、課題、朝会ボードといった「人の作業」の記録です。同社は12年分の現場ワークフローのデータの上に作ったと説明し、MarsとNestléが早期利用プログラムで工場単位の検証をしたとしています(同社発表)。

Tulipのエージェントが読み書きするのは、主にTulipのテーブルとステーションです。テーブル内のファイルや画像は読めず、アプリは読み取りのみ、自動化や変数には対応していないと文書に明記されています。対応範囲の境界がはっきり書かれている点は評価できます。

MESとつなぐ側から見ると、どちらも「工程・設備・品番」の情報をMESとは別に持つことになります。PokaのMCPサーバーが公開する対象には、ライン、設備、製品が含まれます。これらのマスタがMES側と食い違っていると、エージェントは古い品番や存在しない設備名で回答や起票をします。製品の不具合ではなく、マスタを二重に持つ構成から来る問題です(編集部の推測)。

権限と承認:誰の判断を挟むか

Pokaは、エージェントの操作の前に作業者や監督者の承認を必須にできると製品ページで説明しています。承認ゲート、ロールベースのアクセス制御、監査証跡をまとめて「企業のガードレールの内側に置く」という位置づけです。

Tulipは、エージェントが使える範囲を「設定したツール」と「呼び出した人の権限」の重なりに限定します。エージェント経由で利用者の権限を超えることはできません。既定ではOperatorのロールにアクセス権がなく、編集はAccount OwnerやAdministratorなどに限られます。現場作業者が直接使う道具というより、管理側が扱う道具として始まっている設計です。

承認の仕組みが必要になるのは、エージェントが記録を書き換える、作業を割り当てる、といった書き込みをする場面です。IFSが2026年10月13日に公表した14か国2,200人超の調査では、AIが支える判断に人の監督や承認を必須にした組織は4%にとどまりました(同社発表)。その背景はIFS調査で人の承認を必須にした企業は4%で扱っています。MESやERPへの書き込みまで広げる場合の段階設計はAIエージェントにMES・ERPを操作させる権限設計を参照してください。

外部AIとの接続と提供条件

PokaのMCPサーバーは、Microsoft Copilot、ChatGPT、Claude、Gemini、自社モデルなどの社内AIアシスタントからPokaのデータを呼べるようにします。製品ページによると読み取りと書き込みの両方に対応し、呼び出しのたびに認証、権限の絞り込み、ロールベースのアクセス制御がかかります。対象は手順の検索、課題、タスク、帳票、朝会ボード、ライン、設備、製品、ユーザー、チームです。発表では「今週切り替え目標を外したラインはどこで、なぜか」という問いの例が示されました。

TulipはMCPサーバーを2025年6月にオープンソースで公開しています。自社で立てる方式で、APIトークンに与えた権限の範囲でしか動きません。テーブルの読み取りだけを許せば、AIは記録を作ることも消すこともできないと同社は説明しています。2026年10月にはプラットフォームに組み込むMCPコネクタをプレビューで発表しており、経緯はTulip、Authoring AgentとMCP接続を発表にまとめました。

提供条件は両社とも価格を公開していません。PokaはAdvanced AIの一部、TulipはAccount Ownerが機能を有効にする必要があり、GovCloudと中国拠点の顧客には提供されていません。中国に工場を持つ企業は、Tulipを全拠点で同じ構成にできるかを最初に確かめる必要があります。

よくある質問

PokaとTulipはMESの代わりになりますか?

どちらもMESの代わりとしては発表されていません。Pokaは作業手順や課題などの人の業務、Tulipは現場アプリとそのデータを扱う層です。ロット実績や品番マスタはMESを正本にし、そこから同期する構成が現実的です。

2週間で最初のエージェントが動くというのは本当ですか?

Pokaは製品ページで、多くの顧客が2週間のパイロットで最初のエージェントを立ち上げると説明しています。同社発表であり、対象業務や工場の条件は示されていません。帳票や手順がすでにPoka上に揃っている工場の話だと読むのが妥当です。

MCPサーバーを使うと社内のAIアシスタントから現場の記録を書き換えられますか?

PokaもTulipも書き込みに対応しています。ただし権限は呼び出しごと(Poka)またはAPIトークンの範囲(Tulip)で絞れます。最初は読み取りだけを許し、書き込みは承認つきの操作に限るのが安全です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。