価格予測は外れる前提で、予測区間を判断に使う

市況価格の予測は、需要予測よりも難しい問題です。原料価格、為替、各国の在庫、政策、投機的な取引など、社内から観測できない要因で動くからです。どれほど手の込んだモデルでも、数か月先の鋼材や樹脂の価格を一点で当て続けることはできません。

それでも価格予測AIに意味があるのは、予測区間(上振れ・下振れの幅)を出せるからです。「3か月後に上がる確率が高く、上振れ幅は大きい」と分かれば、前倒し発注や価格固定の契約を検討できます。「方向感が出ない」と分かれば、分割発注で平均化するという判断になります。価格予測AIの役割は、購買判断のための確率的な見通しを出すことで、価格を当てることではありません。

予測区間と購買判断の対応 上昇傾向・区間が狭い 前倒し発注・価格固定 方向感なし・区間が広い 分割発注・スライド条項 下落傾向・区間が狭い 必要量のみ発注・短期契約
予測区間の形で購買判断を変える。点予測ではなく区間の幅と傾きを見る。

素材別に効く入力データ

価格予測のモデルは、対象とする素材ごとに入力データが変わります。社内の購買単価の履歴だけで予測しても、市況の転換点は捉えられません。

素材主な入力データ価格の決まり方の特徴
鋼材鉄鉱石・原料炭の価格、スクラップ価格、メーカーの価格改定発表、為替国内は高炉メーカーと需要家の交渉で四半期ごとに決まる部分が大きい
樹脂ナフサ価格、原油価格、為替、主要国の需給ナフサ連動の価格フォーミュラで決まる契約が多い
電子部品半導体の需給指標、納期(リードタイム)の推移、在庫水準価格より先に納期が伸びる。納期の変化が先行指標になる
非鉄金属LME等の国際相場、為替、在庫相場連動で毎月変わる。予測より相場ヘッジの領域

国内の鋼材のように交渉で価格が決まる素材では、原料価格の変化が何か月遅れで製品価格に反映されるかという遅れの構造を学習させるのが中心になります。樹脂のようにフォーミュラが決まっている場合は、フォーミュラの入力となるナフサ価格と為替を予測すれば、購入価格がほぼ計算できます。電子部品では価格そのものより納期の延びが先に動くため、サプライヤーリスク検知と同じく、取引先の回答納期の推移を監視するのが有効です。

予測を購買判断に落とす3つの使い方

  1. 発注タイミングの判断:上昇の見通しが強いとき、在庫の保管余地と資金の範囲で前倒し発注する。下落の見通しなら必要量のみを発注する
  2. 契約形態の選択:価格固定、市況スライド条項付き、分割発注のいずれを選ぶかを、予測区間の幅から決める。区間が広いほどスライドや分割の価値が上がる
  3. 原価見積と販売価格への反映:製品の見積に使う材料単価を、予測区間の中央値と上振れ値で2通り出し、価格改定の条項を顧客と交渉する材料にする

3つ目は購買部門だけでは完結しません。営業・原価管理と同じ数字を見る仕組みにすると、予測の価値が大きくなります。

体制とデータの置き場所

価格予測を継続して使うには、市況データの取得と更新を誰が担うかを決めておく必要があります。購買部門が個別にWebサイトから数字を拾っている状態では、データの欠けや取り違えが起き、予測の再現もできません。市況指数・為替・購買単価の履歴を1つのデータベースに日付つきで蓄積し、予測モデルと購買会議の資料が同じデータを参照する形にします。

購買単価の履歴は、品目コードと仕様(材質・寸法・グレード)で整理されていないと、同じ素材の価格推移として比べられません。品目の改番や仕様変更の対応表を持つことが、価格予測でもマスタ整備の出発点になります。

運用では、月次の購買会議に「今月の予測区間」「前月の予測と実績の比較」「その予測に基づいて取った判断」をセットで出すのが効果的です。予測が外れた月にも、なぜ外れたか(政策の変更、為替の急変、需給の想定外の変化)を記録しておくと、モデルの入力を見直す材料になり、購買担当者の市況を読む力も上がります。予測の当たり外れより、判断の記録を積み上げることに価値があります。

評価の仕方:平均単価と市況の差で見る

価格予測AIの効果は、予測誤差(MAPEなど)だけで評価しても意味がありません。購買判断の結果を、次のように比べます。

  • 期間中の平均購買単価と、同期間の市況平均(または従来ルールで発注した場合の試算値)の差
  • 前倒し発注で増えた在庫の保管費と資金コスト
  • 欠品や緊急調達の件数

在庫の資金コストを差し引いて初めて、前倒し発注が得だったかどうかが分かります。在庫の考え方は在庫最適化AIと共通です。

よくある質問

価格予測AIはどのくらい当たりますか

数か月先の市況価格を一点で当て続けることは期待できません。予測の価値は方向感と予測区間の幅を示すことにあり、それを発注タイミングや契約形態の判断に使います。

社内の購買単価の履歴だけで予測できますか

転換点は捉えにくいです。購買単価は市況から遅れて動くため、原料価格・為替・メーカーの価格改定などの外部データを入れて、遅れの構造を学習させる必要があります。

効果はどう測ればよいですか

1年間の平均購買単価と市況平均(または従来ルールでの試算値)の差を見て、前倒し発注で増えた在庫の保管費・資金コストを差し引きます。予測誤差だけでは効果は分かりません。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。