前提:AprisoはAIの「文脈」と「出口」を持つMES

DELMIA Aprisoは、Dassault SystèmesのDELMIAブランドで提供されるMES・MOM(製造オペレーション管理)製品です。作業指示、ロット・シリアルの系譜、品質記録、設備状態、作業者の実績を1つのデータモデルで持ち、複数の工場で同じ業務プロセスを展開するグローバル展開の用途で使われることが多い製品です。

AIとの関係で見ると、Aprisoに限らずMESは次の2つの役割を果たします。

  1. AIの学習データに「文脈」を与える:どのロット・品番・工程・設備・作業者のときのデータかを持っている
  2. AIの判定結果の「出口」になる:判定結果をホールド、再検査、作業指示、アンドンといった業務の動きに変える

Aprisoを使っている工場の強みは、この2つが既にシステムとして存在することです。一方で、AIのモデル自体を学習・運用する機能はMESの守備範囲ではありません。Dassault Systèmesは2026年に3DEXPERIENCE上のAI「Virtual Companions」を発表していますが(同社発表)、これは主に設計・エンジニアリング領域のもので、工場のMESデータを使った品質予測や異常検知を、そのままAprisoの中で完結させるものではありません。製品単体のAI機能は、導入しているバージョンとライセンスで何が使えるかを、販売元に個別に確認する必要があります。

現実的な構成:データを外に出し、結果を戻す

実装の現場で現実的なのは、Aprisoのデータを外部のデータ基盤(レイクハウスやDWH)に出し、そこでAIを学習・推論し、結果をAprisoの業務フローに戻す構成です。

設備データとAprisoのデータを外部基盤に集約し、AIの推論結果をAprisoのホールドや作業指示に戻す構成 設備・PLCOPC UA・ヒストリアン DELMIA Apriso作業指示・系譜・品質ホールド・作業者画面 データ基盤レイクハウス・DWH結合・特徴量化 AI学習・推論モデルの版管理 判定結果を業務に戻す(ホールド・再検査・作業指示)
DELMIA AprisoとAIをつなぐ一般的な構成。学習は外部基盤で行い、判定結果はAprisoの業務フローに戻す。

Aprisoからデータを出す方法は、主に次の3つです。

方式内容長所制約・注意点
DBの複製を参照AprisoのDB(SQL ServerやOracle)を読み取り用に複製し、そこから抽出する早く始められる。過去データをまとめて取れるテーブル構造は製品内部の都合で決まっており、バージョンアップで変わりうる。本番DBへの直接クエリは性能に影響する
連携機能・APIで出力Business Integratorなどの連携機能やWebサービスで、決めた形式のデータを出す出力の形式を固定でき、バージョンアップの影響を受けにくい出力の設計と開発の工数がかかる。項目追加のたびに改修が要る
イベントで配信作業完了・検査結果・ホールドなどのイベントを、メッセージブローカー(MQTTなど)に配信するリアルタイムに近い。UNS(統合名前空間)とつなぎやすい配信の欠落や再送の扱いを設計する必要がある。過去分は別途取得

3つの方式の一般的な比較はMESとAIをつなぐ3方式で扱っています。Aprisoに限った実務上の勧めは、学習用の過去データは複製DBから取り、本番運用の推論と結果の戻しはAPIやイベントで行う、という使い分けです。

Aprisoのデータで何ができるか

Aprisoが標準的に持つデータの範囲で、AIの用途につながるものは次のとおりです。実際に何が記録されているかは、導入時の設定とカスタマイズで大きく変わるため、まず自工場のAprisoに何が入っているかを棚卸しします。

  • 系譜(ジェネオロジー)と品質記録:部材ロットから完成品までの親子関係と検査結果を、要因分析や品質予測の学習データにする。手順は製品系譜で不良の真因を追うを参照
  • 設備状態と停止記録:停止の開始・終了と理由コードを、OEEの要因分析やチョコ停の分析に使う。停止理由のコード体系が粗いと分析できない
  • 作業実績と作業者:作業時間のばらつきを、標準時間の見直しや教育の優先度付けに使う
  • 判定結果の戻し先:AIが品質リスクを高いと判定したロットにホールドをかける、作業者画面に追加検査の指示を出す。ここはAprisoの業務プロセスの改修として実装する

導入前に見積もるべき制約と工数

AprisoとAIの連携でよく見落とされる工数は、AIのモデル開発ではなく、MES側の改修とデータの整備です。

AIの判定でホールドをかける場合は、どのモデルのどの版で判定したかを、ロットの履歴に残すことを勧めます。後で品質監査やクレーム対応で判定の根拠を問われたときに必要になります。この考え方は工場向けMLOpsで扱っています。

よくある質問

Aprisoの標準機能だけでAIは使えますか?

データの収集・記録と、AIの結果を業務に反映する部分はAprisoで担えますが、AIモデルの学習と運用は外部のツールや基盤で行う構成が一般的です。導入済みのバージョンとライセンスで使える機能は、販売元に個別に確認してください。

DBを直接読んでAIに使うのはやめた方がよいですか?

PoCや過去データの一括取得には有効です。ただし、本番運用で常時使う連携をDBの直接参照で作ると、バージョンアップ時の影響や性能面の問題が出やすくなります。本番はAPIやイベント配信に切り替える前提で計画します。

他のMESと比べてAI連携で有利・不利はありますか?

MES製品ごとにデータモデル、API、イベント配信の機能が違うため、一概には言えません。Aprisoに限らず、MESを選ぶときはデータの出口(API・イベント・履歴の保持)を確認することが大切です。確認項目はAIを見据えたMES選定で整理しています。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。