Atlas AIはナレッジグラフを土台にしたエージェント基盤

Cognite Atlas AIは、ノルウェーのCogniteが2024年6月27日に発表した「産業エージェントのワークベンチ」です。同社の産業データ基盤Cognite Data Fusion(CDF)を拡張する位置づけで、発表時の構成は次のとおりです(同社発表、Automation.com掲載)。

  • 事前構築されたエージェントのライブラリ
  • ローコードのエージェントビルダー
  • 意味づけされた産業ナレッジグラフを使う「Context Augmented Generation」
  • タスクに応じてモデルを自動選択する「autoLLM」

作ったエージェントは、CDF上だけでなくMicrosoft Copilot、自社アプリ、サードパーティのアプリからも実行できるとされています。

Atlas AIの特徴は、LLMに渡す文脈を文書検索ではなくナレッジグラフから組み立てる点です。設備、センサのタグ、作業指示、図面、保全記録が「どの設備のどの部品に関する情報か」という関係でつながっていれば、「ポンプP-101の過去半年の振動傾向と、同型ポンプの故障履歴を比べて」といった質問に、関係をたどって答えられます。通常のRAG(文書検索で関連部分を取り出してLLMに渡す方式)では、この「関係」の情報が落ちやすいのです。

OT・IT・文書データがCognite Data Fusionでナレッジグラフ化され、その上でAtlas AIのエージェントが動く3層構成 Atlas AI:エージェントビルダー/事前構築エージェント/autoLLMCDF・Microsoft Copilot・自社アプリから実行 産業ナレッジグラフ(設備 ⇄ タグ ⇄ 図面 ⇄ 作業指示 ⇄ 保全記録)Cognite Data Fusionのコンテキスト化 OT:ヒストリアン・SCADA IT:ERP・MES・保全 文書:P&ID・図面・手順書
Atlas AIの構成。エージェントの回答の質は、下層のナレッジグラフ(コンテキスト化)で決まる。

Schneider Electricの買収とAVEVA CONNECTへの統合

Schneider Electricは2026年6月30日、Cogniteを約31億ドル(全額現金)で買収すると発表しました。発表時点でCogniteは従業員800人超、2025年の売上高1.7億ドル超、ARRブッキングは前年比36%増とされています。買収後、CogniteのデータプラットフォームとAtlas AIは、Schneider傘下のAVEVAの産業インテリジェンス基盤「CONNECT」に統合される計画です(Automation.com、2026年7月)。

Schneider ElectricによるCognite買収額(全額現金)
約31億ドル
Schneider Electric発表(2026年6月30日)
Cogniteの2025年売上高
1.7億ドル超
同上
CogniteのARRブッキング伸び率
36%増
同上

調査会社Verdantixは、AVEVAがすでにCrosserを買収済みで、TwinThreadの買収も保留中である点を指摘し、AVEVA・Cognite・Crosser・TwinThreadの製品の重複をどう整理するかが課題だと分析しています(2026年7月3日)。データ基盤とエージェントを一社で垂直統合する動きは、欧米の大手で続いています。

導入検討中の企業が確認すべき4点

買収そのものは製品の継続性を高める可能性もありますが、統合期には製品名、ライセンス体系、ロードマップが変わりやすくなります。検討中の企業は次の4点を確認してください。

確認項目理由
CDFとAtlas AIの単独提供が続く期間CONNECTへの統合後、単独製品の扱いが変わる可能性がある
ナレッジグラフのデータモデルの持ち出し将来別基盤へ移る場合に、コンテキスト化の成果を再利用できるか
既存のAVEVA PI Systemとの関係ヒストリアンにPIを使う工場では、統合後の接続方式が変わりうる
日本での導入支援体制統合期の窓口とパートナー網がどう再編されるか

Atlas AIが向く工場、向かない工場

ナレッジグラフ型の基盤は、設備とデータの関係を一度整理すれば強力ですが、その整理(コンテキスト化)に工数がかかります。Atlas AIが向くのは、プラントや大規模ラインで、設備台帳、タグ命名規則、P&IDがある程度整っている企業です。石油・化学・電力などのプロセス産業での採用が多いのはこのためです。

逆に、組立中心の多品種少量工場で、設備データの取得自体がこれからという段階では、ナレッジグラフを構築する前にデータ収集とMES側の実績記録を整えるほうが先です。データ基盤側の整理はCognite Data Fusionの解説、グラフでRAGを強化する考え方はGraphRAGとナレッジグラフで扱っています。

よくある質問

Atlas AIはどのLLMを使っていますか?

発表時の説明では、autoLLMという仕組みでタスクに応じてモデルを自動選択するとされています。特定のLLMに固定されない設計ですが、自社の契約で利用できるモデルやデータの送信先は個別に確認が必要です。

買収で既存ユーザーの契約は変わりますか?

2026年7月時点の公表情報では、CONNECTへの統合計画が示されているのみで、既存契約の扱いの詳細は明らかになっていません。更新時期が近い場合は、ロードマップと価格体系の書面での提示を求めることをおすすめします。

ナレッジグラフは自社で作れますか?

小規模ならグラフDBとオープンソースのツールで作ることは可能です。ただし設備・タグ・文書の対応付けを維持し続ける運用が最大の負担になります。製品を買うか作るかは、この保守を誰が担うかで決めるのが現実的です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。