コンテキスト化に強い産業DataOps基盤

Cognite Data Fusion(CDF)は、設備の時系列データ、保全記録、P&ID(配管計装図)などの図面、文書、3Dモデルといった、形式の違う産業データを集め、それらの関係を産業ナレッジグラフとして結び付ける基盤です。製品群の位置づけは「産業DataOps」と呼ばれ、データを集めるだけでなく、データ同士を意味のある形でつなぐ「コンテキスト化(文脈付け)」に重点を置いています。

工場のAIで問題になるのは、データがあっても「このセンサはどのポンプのもので、そのポンプの図面と保全履歴はどこにあるか」がつながっていないことです。CDFが得意とするのは、このつながりを作る部分です。

ポンプP-101という設備を中心に、時系列データ、P&ID図面、保全記録、マニュアル、上位の系統がつながったナレッジグラフの例 設備ポンプ P-101 時系列:吐出圧・振動 図面:P&ID 保全記録・作業票 マニュアル・仕様書 上位:冷却水系統
産業ナレッジグラフの考え方。設備を中心に、時系列・図面・文書・保全記録を関係で結ぶ。

この関係があれば、AIや人が「P-101の振動が上がっている。過去に同じ症状で何をしたか、図面上で上流にある機器は何か」を一度に引けます。プロセス産業(石油・化学・電力)で導入が多いのは、図面と設備の対応関係が複雑で、このつながりの価値が大きいためと考えられます(編集部の見立て)。

Atlas AI:ナレッジグラフ上のエージェント

Cogniteは2024年6月27日、低コードで産業向けAIエージェントを構築する「Cognite Atlas AI」を発表しました。発表によると、事前構築したエージェントのライブラリ、ローコードのエージェントビルダー、意味的な産業ナレッジグラフを使う「Context Augmented Generation」、モデルを自動選択する「autoLLM」を備えます。エージェントはCognite Data Fusion上のほか、Microsoft Copilot、自社アプリ、サードパーティのアプリ上でも実行できるとされています。

生成AIの回答の質は、参照するデータのつながり方に大きく左右されます。Atlas AIの考え方は、汎用の文書検索(RAG)ではなく、ナレッジグラフで結ばれた設備・データ・文書を根拠に回答させるという点にあります。詳しくはCognite Atlas AIとはで扱います。

Cogniteのパートナーページでは、Tulipとの連携ソリューションについて、不良70%削減、生産能力40〜45%増、支援スタッフの時間50%削減という成果が掲げられています。これはベンダーの主張で、対象企業・期間・条件は示されていません。

Schneider Electricによる買収

Schneider Electricは2026年6月30日、Cogniteを約31億ドル(全額現金)で買収すると発表しました。発表時点でCogniteは従業員800人超、2025年の売上は1.7億ドル超、ARRブッキングは36%増とされています。買収後、CogniteのデータプラットフォームとAtlas AIは、Schneider傘下のAVEVAの産業インテリジェンス基盤「CONNECT」に統合される計画です。

Schneider ElectricによるCognite買収額(全額現金)
約31億ドル
Automation.com(2026年7月1日)
Cogniteの2025年売上
1.7億ドル超
同上
Cogniteの従業員数
800人超
同上

調査会社Verdantixは2026年7月3日の分析で、AVEVAがストリーム処理のCrosserを買収済みで、産業AIのTwinThreadの買収も保留中であることを挙げ、AVEVA・Cognite・Crosser・TwinThreadの製品の重複をどう整理するかが課題だと指摘しています。

観点買収で期待できること確認が必要なこと
製品の持続性大手の傘下で開発投資が続くCDF単体の製品として提供が続くか、CONNECTに吸収されるか
他社基盤との連携AVEVAのヒストリアンやエンジニアリング製品との連携が強まるMicrosoft・AWSなど他社基盤やAtlas AIの他社アプリ上での実行が維持されるか
価格と契約統合による品揃えの拡大ライセンス体系の変更、既存契約の扱い

買収の業界全体への意味は産業データ基盤の大型再編、ニュースとしての経緯はSchneiderのCognite買収で扱っています。

工場で使うときの論点

  • 組立加工の工場での適用:CDFの事例はプロセス産業が中心です。ロット・シリアル単位の品質管理が中心の組立加工では、MESとのつなぎ方が設計の要になります
  • MESとの役割分担:作業指示やロットの正本はMESにあり、CDFはそれを参照して文脈付けする側です。どちらが何の正本かを決めておきます
  • 図面のデジタル化の状態:P&IDや設備図面が画像やPDFのままの場合、図面からの設備の抽出・対応付けの作業量が導入工数を左右します

よくある質問

Cognite Data Fusionはヒストリアンの代わりになりますか?

CDFは時系列データも扱いますが、主な価値はデータのコンテキスト化です。既存のヒストリアンを残し、そのデータをCDFに取り込んで文脈を付ける構成が多く見られます。ヒストリアンの役割は時系列DBとヒストリアンの選び方を参照してください。

日本で導入できますか?

調査コーパスでは、日本での提供体制は確認できませんでした。検討する場合は、日本の販売・導入パートナーとサポート体制を、買収後の体制も含めて確認してください。

中小規模の工場にも向いていますか?

CDFは大規模なプラントや多拠点のデータを対象にした基盤で、導入には一定の規模とデータ整備の体制が前提になります。中小規模の工場では、より軽量な収集・可視化の製品から始める方が現実的です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。