製造業が国産LLMを選ぶ理由は性能より提供形態

日本語のベンチマークで国産LLMと海外の大規模モデルを比べると、用途によっては海外モデルが上回ることも珍しくありません。それでも製造業で国産LLMが検討されるのは、次のような理由からです。

  • オンプレミスや企業専用の閉域環境で動かせる選択肢がある
  • データの処理場所と、学習に使われないことを国内企業との契約で確認しやすい
  • 業種向けのモデルや導入支援を、国内の窓口で受けられる
  • 経済安全保障の観点で、モデルの出自と提供元を説明しやすい

2026年版ものづくり白書によると、経済安全保障の対策を講じている製造業者は55.6%で、2024年度の38.2%から増えました(MONOist、2026年7月8日掲載)。一方、AIクラウドの所在地やモデルの出自を調達基準に入れる議論は、まだ一部にとどまっています。

4つの国産LLMの提供形態

項目NEC cotomiPFN PLaMoELYZA富士通 Takane
公表されている特徴2025年7月の性能強化で最大コンテキスト128K、エージェント性能向上、MCP準拠PLaMo 3.0 Primeはコンテキスト256k、推論型と非推論型。PLaMo翻訳は53言語対応2020年に独自LLM開発。業務AIアプリをノーコードで作れる「ELYZA Works」富士通のAIプラットフォームKozuchiのエージェント基盤のベース
提供形態オンプレミス利用にも対応する方針Microsoft Foundryで企業専用閉域環境(2026年10月)法人向けサービス(KDDIグループ)ソブリンクラウドに対応
業種対応金融・自治体・医療・製造などの業種特化モデルを構築する計画(2023年12月発表)三菱重工と資本業務提携(2026年8月、出資総額100億円)製造業以外で通話要約などの事例を公表購買部門での3エージェント構成の社内実証
製造業での関連PLM「Obbligato」に生成AI連携機能を搭載翻訳、ミッションクリティカルな機械の知能化(三菱重工と共同開発)業務アプリ作成帳票理解・規約解析・適合チェック

各社の数値や機能は同社発表に基づくもので、第三者の評価ではありません。NECはcotomiを使ったクラフトビールの商品開発プロセスの自動化で開発工数を約40%削減したと説明していますが、製造業の生産現場での公開事例は限られています。

選定で確認する5つの軸

国産LLM選定の5つの軸と順序 1 提供形態オンプレ・閉域 2 データ条件学習利用・保存 3 業務適合自社質問セット 4 接続性API・MCP 5 体制サポート・継続性 機密区分で足切り試用で比較
国産LLMの選定は、まずデータの置き場所で候補を絞り、次に業務適合と体制で比べる。
  1. 提供形態:完全オンプレ、閉域クラウド、専用テナントのどれが選べるか。扱うデータの機密区分で必要な形態が決まります
  2. データの条件:入力データの学習利用の有無、処理するデータセンターの地域、ログの保存期間
  3. 業務適合:自社の質問セットでの正答率、根拠の示し方、長い技術文書を読ませたときの安定性
  4. 接続性:社内システムやRAG基盤と接続するAPI、MCP(AIと社内システムをつなぐ共通の接続方式)への対応。cotomiはMCP準拠を打ち出しています
  5. 体制:障害対応の窓口、モデル更新の頻度と事前通知、長期提供の見通し

国産LLMを使う構成の全体像は図面を社外に出さない4つの構成、経済安全保障の論点は図面をどのAIに見せるかで扱っています。

国産と海外を「使い分ける」のが現実解

多くの製造業では、1つのLLMに統一するより、データの機密度と用途で使い分けるほうが合理的です。

  • 一般的な文書作成、メール、調べものは、専用テナントの海外大規模モデル
  • 図面、工程条件、顧客仕様を扱う業務は、オンプレや閉域で動く国産または自社管理のモデル
  • 翻訳は、用語集を適用できる翻訳特化のサービス

使い分けを前提にすると、RAG基盤や社内ポータルは特定のLLMに依存しない作りにしておく必要があります。LLMの切り替えができる構成にしておけば、性能や価格の変化に応じて入れ替えられます。ベンダーロックインを避ける考え方はAIのベンダーロックインを避けるを参照してください。

よくある質問

国産LLMは海外のLLMより日本語の技術文書に強いですか

一般論としては言えません。モデルの版や用途で結果が変わるため、自社の技術文書で比較してください。社内の略語や独自用語への対応は、モデルよりRAGと用語集の整備で決まる部分が大きくなります。

オンプレで動かせる国産LLMはどれですか

公表資料の範囲では、NECがcotomiのオンプレ利用に対応する方針を示しています。提供条件や必要なハードウェアは各社に確認してください。閉域クラウドで足りる場合は、PLaMoのように企業専用環境での提供も選択肢になります。

国産LLMを選べば経済安全保障の対応は十分ですか

十分ではありません。モデルの出自に加え、処理するデータセンターの所在地、運用委託先、ログの管理まで確認する必要があります。モデルが国産でも、動かす基盤が海外事業者のクラウドである場合もあります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。