3カ月で26万回:ConnectAIの公表データ

パナソニックコネクトは2023年2月、Azure OpenAI Serviceをベースにした社内AIアシスタント「ConnectAI」を約1万3,400人の社員に導入しました。2023年4月からは、グループ版「PX-AI」(旧PX-GPT)を国内のグループ社員約9万人に展開しています(PC Watch、2023年6月)。

導入3カ月の結果として、同社は次の数字を公表しました。

導入3カ月の利用回数(1日約5,800回)
26万回
パナソニックコネクト発表(約1万3,400人対象、2023年6月)
用途のうち「質問」の割合
59.7%
同上
約1,500件のアンケート分析にかかった時間
9時間→6分
同上(同社が挙げた個別例)

用途の内訳は、質問59.7%、プログラミング21.4%、文書作成10.1%、翻訳4.9%でした。寄せられた質問には、回路設計の知識や、特定の条件を満たす樹脂材料の列挙といった技術的な内容も含まれていたと報じられています(MONOist、2023年7月)。

1日約5,800回という数字は、対象者約1万3,400人に対して1人あたり1日0.4回程度です。全員が毎日使っていたわけではなく、使う人と使わない人がいたと読むのが自然です。この「二極化」は他社の調査でも確認されています。エクサウィザーズの利用実態調査(2026年10月公表)では、上位10%のユーザーがメッセージ量の約半分を占めていました。

段階を踏んだ展開:全社展開→業務特化→自社データ連携

ConnectAIの進め方で参考になるのは、最初から全業務に効くAIを作ろうとせず、段階を分けた点です。

第1段階の全社展開、第2段階の業務特化、第3段階の自社データ連携へと進む階段状の図 1. 全社展開汎用の対話AIを安全な環境で配る 2. 業務特化部門ごとの使い方・型を整える 3. 自社データ連携社内文書・業務システムを参照
社内生成AIの段階的な展開。段階ごとに、必要なデータと体制が変わる。
  1. 全社展開:まず社外にデータが出ない環境で汎用の対話AIを配り、全社員が触れる状態を作る。利用ログから、どの部門がどんな用途で使うかが分かる。
  2. 業務特化:利用の多い用途や部門を見極め、その業務向けの使い方(プロンプトの型、手順)を整える。
  3. 自社データ連携:社内の文書やデータを参照させる(RAGなど)。ここで初めて「自社の事情を知っているAI」になる。

段階を分けることには、投資判断の面でも利点があります。第1段階は比較的少ない費用で始められ、利用ログという判断材料が手に入ります。第3段階の社内データ連携は、文書の整理や権限設計に工数がかかる高い投資ですが、第1・第2段階のログで「どの部門のどの業務に需要があるか」が分かっていれば、投資先を絞れます。最初から全社の文書をつなごうとして、整備に時間がかかり利用が始まらない、という失敗を避けられます。

第1段階の利用ログは、第2・第3段階で何をするかを決めるための材料になります。ConnectAIで「質問」が6割を占めたことは、社員が調べ物にAIを使いたがっていることを示しており、社内文書を検索できるようにする第3段階の必要性を裏づけるデータになります。

製造業の工場で同じことをするときの違い

本社部門と工場では、展開の条件が違います。パナソニックコネクトの数字はオフィスワーカーを含む全社の数字で、工場の現場作業者がどれだけ使ったかは公表されていません。工場に展開するときは、次の点が追加で問題になります。

論点本社部門工場
端末1人1台のPC共用端末、または端末なし
知りたいこと一般知識、文書作成自社設備・自社製品の手順と過去事例
必要なデータ社外の一般知識で足りることが多い手順書・保全記録・品質記録(社内データが必須)
誤りの影響文書の手直し設備停止、品質不良、安全

工場では、第1段階の汎用AIだけでは使われにくく、早い段階で第3段階(自社の手順書や保全記録の参照)が必要になります。また、手順書の版管理が不十分なまま参照させると、旧版の内容をAIが答える事故が起きます。作業手順書を参照させる方法は作業手順書RAGの作り方、利用率が伸びない原因は生成AIを社内に定着させるで詳しく扱っています。

よくある質問

ConnectAIのような社内AIを作るには、どれくらいの期間がかかりますか?

クラウドのLLMサービスを社内専用環境で使う第1段階は、比較的短期間で始められます。時間がかかるのは第2・第3段階で、業務ごとの型づくりや社内文書の整備に数カ月以上かかるのが普通です。

工場の作業者にも同じAIを配るべきですか?

配ること自体はよいのですが、汎用の対話AIだけでは工場の業務に直接役立ちにくいのが実情です。手順書や保全記録を参照できる仕組みと、現場で使える端末をセットで用意することをおすすめします。

パナソニックの事例は最新の状況ですか?

本記事の数字は2023年に公表されたものです。その後の展開状況については、本記事の参照資料では2025年以降の一次情報を確認できていません。段階的な進め方の参考として読んでください。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。