2系統の生成AI:設計環境と現場HMI

Rockwellの生成AIは、大きく2つの系統に分かれます。

系統製品主な利用者基盤
設計・エンジニアリングFactoryTalk Design Studio Copilot制御設計者・PLCエンジニアMicrosoft Azure OpenAI Service(クラウド)
現場オペレーションFactoryTalk Optix(Food & Beverageモデルなど)機械オペレーターMicrosoft Phi-3ベースの小型言語モデル(エッジ)

2024年12月の報道では、FactoryTalk Design Studio(SaaS型の設計環境)に生成AI Copilotが追加され、自然言語でのコードやラダーロジックの生成、説明、トラブルシュートができるとされました。同じ時期、FactoryTalk Optix Food & BeverageモデルがMicrosoftのAIモデルカタログに追加され、包装機のオペレーターにエッジでAIガイダンスを提供すると発表されています。

設計環境のCopilotと現場HMIのSLMの2系統の構成図 FactoryTalk Design Studio CopilotAzure OpenAI Service(クラウド) コード・ラダー生成/説明/トラブルシュート利用者:制御設計者出力は人が検証・試験してからPLCへ FactoryTalk OptixPhi-3ベースSLM(エッジ) オペレーターへのガイダンス利用者:包装機などのオペレーター工場内で動き、通信の制約に強い Automation Fair 2025:NVIDIA Nemotron-Nano-9B-v2ベースのSLMを産業エッジに載せる取り組みを紹介
Rockwellの生成AIの2系統。設計はクラウドのLLM、現場はエッジの小型言語モデル。

Design Studio Copilot:公式ヘルプが制約を明記

Design Studio Copilotについて、Rockwellの公式ヘルプは、Copilotが「不正確な情報を表示する可能性がある」と明記し、オンラインヘルプとの照合を求めています。また、会話の文脈として参照するのは直近5往復のみとされています。ベンダー自身が制約を公式文書に書いている点は、利用者にとって判断しやすい材料です。

実務上の意味は2つあります。1つ目は、生成されたラダーロジックやコードは、人が書いたものと同じレビューと試験を通す必要があることです。研究でも、汎用LLMはそのままでは有効なPLCプログラムを生成できず、コンパイラや形式検証を組み込んだ反復で成功率が47%から72%に上がったと報告されています(LLM4PLC、2024年)。2つ目は、会話の文脈が短いため、長い設計の議論を1つの会話で続けると、前提が抜け落ちることです。要件や制約は、毎回明示して指示する使い方が向いています。

Siemensとの比較はPLC開発Copilot比較で詳しく扱っています。

FactoryTalk OptixとエッジSLM:クラウドに出さない選択

もう1つの系統である現場HMI向けでは、Rockwellは小型言語モデル(SLM)をエッジで動かす方針をとっています。FactoryTalk Optix Food & BeverageモデルはMicrosoftのPhi-3をベースにしたもので、包装機のオペレーターにエッジでガイダンスを提供します。2025年11月のAutomation Fair 2025では、NVIDIAのNemotron-Nano-9B-v2をベースにしたSLMを産業エッジに載せる取り組みも紹介されました。FactoryTalk OptixにはCopilotが搭載され、エッジAI向けのMLOps機能も追加されています。

エッジで動かす理由として考えられるのは、工場内のネットワークがクラウドに常時つながらない環境があること、応答の遅延を抑えたいこと、機械の稼働データを社外に出したくないことです。クラウドのLLMを前提にした日本の議論とは異なる方向で、日本語圏ではまだあまり取り上げられていない論点です。動向の詳細は工場のエッジで動く小型言語モデルで扱っています。

RockwellのAI全体の中での位置づけ

Rockwellは生成AI以外にも、モータ駆動装置(VFD)の電気信号から設備異常を検知するFactoryTalk Analytics GuardianAIを2024年に発表し、日本でも2024年7月に一般提供を開始しています。PlantPAx DCSやFactoryTalk Data MosaixにもAIを組み込み、自社工場では、AIによるスケジューリングと制御でコンタクタの完全自律生産ラインを公開しました。一方、ARCはAutomation Fair 2025について、名前の付いた新しいAI製品の発表はなく、組み込みAI、AI外観検査、AIエネルギー監視がテーマだったと評価しています。

よくある質問

Studio 5000を使っていても、Design Studio Copilotは使えますか

Design Studio CopilotはSaaS型の設計環境FactoryTalk Design Studioの機能です。既存のStudio 5000環境との関係やプロジェクトの移行条件は、Rockwellに確認してください。

SLMはLLMより精度が低いのではないですか

汎用の知識量ではLLMに劣りますが、特定の機械や業務に絞ったガイダンスであれば、追加学習や参照データで実用的な精度を出せる場合があります。用途を絞ったうえで、自社の質問集で評価するのが確実です。

生成したラダーのレビューは誰が行うべきですか

通常のプログラムと同じく、制御設計の有資格者または社内で認定されたエンジニアが行います。生成AIを使ったことをレビュー記録に残しておくと、後の不具合調査で役立ちます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。