600人調査の結論:予算はスマート製造へ、ただし作業の主役は人
Deloitteは2025年11月13日、「2026 Manufacturing Industry Outlook」を公表しました。600人の製造業経営幹部を対象にした調査に基づき、2026年の米国製造業の投資と課題を見通しています。
主な数字は次のとおりです(Deloitte Insights、2025年11月)。
スマート製造を競争力の主因とする回答は92%(2019年は86%)、製造方法を変えると見る回答は93%(2019年は83%)で、いずれも過去最高水準です。スマート製造の平均的な効果としては、生産量10〜20%、従業員生産性7〜20%、余力創出10〜15%の改善が報告されています。
フィジカルAI「9%→22%」をどう読むか
フィジカルAI(ロボットや自律機械が物理世界を認識して動くAI)を2年以内に使う予定の製造業は22%で、現状の9%から倍増以上です。ヒューマノイドやAI搭載ロボットへの注目を反映した数字ですが、読み方には注意が要ります。
1つ目に、「使う予定」は計画であり、量産ラインでの本格稼働を意味しません。欧米のヒューマノイド導入は、BMWやMercedes-Benzのような大手でも実証段階が中心です(Figure 02のBMW稼働データの検証)。
2つ目に、「フィジカルAI」の範囲が広い点です。AIで経路を判断するAMR(自律走行搬送ロボット)や、AIビジョンで掴み方を決めるピッキングロボットも含まれうるため、22%の多くは既存の産業ロボットにAIを足す形だと考えられます(推測)。日本の工場でも、当面の現実解はヒューマノイドではなく既存ロボットへのAI追加です。
「作業時間の81%超は人間主導」の意味
同じDeloitteが、製造業の作業時間の81%超は今後も人間主導で残ると分析している点は重要です。別のエージェント型AIレポート(2025年9月)では、産業機械・航空宇宙防衛について同様の推計を示しています。
予算の80%がスマート製造に向かい、フィジカルAIの利用予定が倍増しても、作業の大部分は人が担うということです。これは矛盾ではなく、AIが「人を置き換える」より「人の判断と作業を支える」位置に入るという見立てです。米Traxの記事(2025年12月9日)も、経営幹部の37%が技術ではなく「従業員へのスキル付与」を最大の懸念に挙げたと伝えています。
関連するDeloitteの数字と外部環境
同じ時期のDeloitteの調査・レポートからは、次の数字も確認できます。
| 資料 | 数字 | 時期 |
|---|---|---|
| 2025 Future of Manufacturing | 87%が生成AIパイロットを少なくとも1件開始 | 2025年 |
| Agentic AI in manufacturing(MLC調査を引用) | エージェント型AIを使う製造業は6%、2年以内に使う予定は24% | 2025年9月 |
| 2026 State of AI in the Enterprise | 約4分の3が2年以内にエージェント型AI導入を計画、準備が整ったモデルを持つのは5社に1社 | 2026年 |
| 2025年の報告 | 40%が今後2年でデータ分析への投資を計画 | 2025年 |
パイロット(試行)は87%が始めている一方、エージェント型AIの実利用は6%にとどまります。試すことと使い続けることの間に大きな差がある点は、日本の「PoC止まり」の議論と同じ構造です。エージェント型AIの導入率はエージェント型AI利用6%の記事で詳しく比較しています。
外部環境として、全米製造業者協会(NAM)の2025年第3四半期調査では、製造業の78%が通商の不確実性を最大の懸念に挙げました。関税や通商政策が読めない中で、それでもスマート製造に予算を振り向けている点は、設備投資よりソフトと人への投資を優先する動きとも読めます(推測)。
日本の工場が読み取るべき3点
- 予算配分の目安:改善予算の20%以上をスマート製造に充てるという水準は、日本の工場が自社の投資配分を考えるときの1つの参照点になります。ただし米国の回答は大企業中心と考えられます
- 人への投資を計画に入れる:作業の8割超が人間主導で残るなら、AIツールの導入費用と同じ重みで、現場がそれを使えるようにする教育・配置の費用を計画に入れる必要があります
- フィジカルAIは既存設備から:ヒューマノイドの話題に引きずられず、既存ロボット・搬送設備にAIを足す計画から始めるのが現実的です
よくある質問
Deloitteの見通しは日本の製造業にも当てはまりますか?
調査対象は米国の製造業経営幹部が中心です。予算配分や人材懸念の傾向は参考になりますが、人手不足の度合いや投資余力は日本と異なるため、数字をそのまま当てはめず、方向性の参考として使います。
フィジカルAIとは何を指しますか?
自律機械が物理世界を知覚・理解し、行動するためのAIを指します。ヒューマノイドに限らず、AIで動作を判断する産業ロボットやAMRも含まれる広い概念です。調査の22%もこうした広い範囲での利用予定と考えられます。
- 2026 Manufacturing Industry Outlook(Deloitte Insights, 2025年11月13日)
- From vision to value: agentic AI in manufacturing(Deloitte Insights, 2025年9月23日)
- Manufacturing's AI tipping point(Trax, 2025年12月9日)
- Agentic AI is scaling in manufacturing, but infrastructure gaps remain(Manufacturing Dive, 2026年6月22日)
- Agentic AI & Talent Gaps: Deloitte on Manufacturing in 2026(Manufacturing Digital, 2026年1月5日)
