29%は誰に何を聞いた数字か

米国の消費財メーカーでは29%、中国の規模以上の製造業では30%超。2026年に出たこの2つの数字は近く見えますが、片方は「AIが中核業務と意思決定に端から端まで組み込まれている」と答えた回答者の割合で、もう片方は政府が会見で示した「AI技術の応用普及率」です。測っているものが違います。

29%を出したのはSchneider Electricです。2026年10月19日、シカゴで開かれた包装・加工機械の展示会PACK EXPO Internationalに合わせて、米国の消費財(CPG)メーカー向けの追加データを発表しました。調査は英国の調査会社Censuswideが行い、対象は米国の製造部門の上級意思決定者252人です。

この発表は、同社が2026年4月15日に出した世界調査「2026 Industrial AI in CPG Survey」の補足という位置づけです。世界調査のほうは14か国の1,453人が対象で、米国も14か国に含まれています。数字の性格を見るには、まず2本の調査の条件を並べるのが早道です。

項目4月の世界調査10月の米国データ
発表日2026年4月15日2026年10月19日
回答者数1,453人252人
対象国英・米・独・仏・伊・北欧・中東など14か国米国のみ
回答者の属性経営層25%、製造部門の上級意思決定者75%製造部門の上級意思決定者
対象業種ライフサイエンス、食品・飲料CPGメーカー(業種の内訳は記載なし)
実査期間2026年2月26日〜3月24日記載なし
調査会社Censuswide(Schneider Electricの委託)Censuswide
設問の文言・誤差公表なし公表なし

表の右列には「記載なし」が3つあります。252人が4月の1,453人の一部なのか、別に集めた回答なのかも、10月の発表文からは分かりません。

米国と世界の差を指標ごとに見る

10月の発表は、6つの指標で米国と世界を並べています。損失の割合は、ダウンタイム・廃棄・遅延・手直し・設備の使い切れなさで失っている売上を、回答者が見積もったものです。

指標米国世界数字の性格
AIが中核業務と意思決定に全面的に組み込まれている29%13%現状の自己申告
複数の拠点・工程にAIを展開している52%27%現状の自己申告
2030年までにAIが業務の中核になると見込む67%37%将来の見通し
失っている売上の割合(現在)20%15%回答者の見積もり
同(2027年の見込み)27%21%回答者の予想
同(2030年の見込み)34%29%回答者の予想

出所:Schneider Electric(2026年10月19日発表、米国252人/世界は1,400人超と記載)。世界の数字は4月の発表(15.2%、21.37%、29.14%)を丸めた値と一致します。

米国はどの指標でも世界の約2倍です。ただ、損失の見積もりも米国のほうが大きいことに目を向けてください。AIを深く入れているはずの米国の回答者が、失っている売上を世界より大きく見積もっています。AIの組み込みが進んでいる企業ほど損失を細かく計測できている、という読み方もできますし、回答者の母集団が違うだけという読み方もできます。どちらが正しいかは、公表された情報では決められません(推測の域を出ません)。

この数字で言えること、言えないこと

確かめた条件から、引用してよい範囲を分けておきます。

言えること言えないこと
米国の回答者は、世界の回答者よりAIの組み込みが進んでいると自己評価している米国のCPGメーカーの29%でAIが全工程に入っている
世界の回答者では「全面組み込み」が13%にとどまる13%は4月から10月の間に変わっていない(10月の世界の数字がいつの調査か不明)
回答者は2030年に向けて損失が増えると見ている損失が実際に増えている
世界調査では、導入の壁として人材不足43.0%、旧来の自動化設備37.5%、文脈付きの稼働データの不足36.3%が挙がった米国の回答者も同じ壁を挙げた(米国の内訳は公表なし)

最後の行は、当サイトの関心に直結します。4月の世界調査で3番目に多かった壁は「文脈付きの稼働データの不足」で、36.3%でした。センサーの値はあるのに、どの品番・ロット・工程条件のときの値かが分からない状態を指します。AIの性能より手前の、データのつなぎ方の問題です。

ここで冒頭の中国の数字に戻ります。工業和信息化部は2026年7月20日の国務院新聞弁公室の会見で、規模以上の製造業企業のAI技術応用普及率が30%を超えたと示しました。報道を見るかぎり、算出方法や「応用」の基準は説明されていません。AIを何らかの形で使っている企業の割合と読むのが自然で(推測)、Schneider Electricの「全面組み込み」とは物差しが違います。米国29%と中国30%超を並べて「米中は同水準」と書くのは誤りです。中国側の数字の読み方は中国の灯塔工場101拠点の記事でも、全体の水準と分けて扱っています。日本の調査を含めた比べ方は製造業のAI導入率はどこまで進んだかにまとめました。

自工場の「組み込み度」を数字で確かめるには

調査の29%を自社と比べたくなったら、自己評価ではなく記録で測るほうが確かです。「AIが意思決定に組み込まれている」とは、実務に置き換えると、AIの出力が作業指示・判定・計画のどれかを実際に変えていて、その事実が記録に残っている状態です。

3つ目が低いままだと、1つ目と2つ目は伸びません。AIのモデルを替えても、どのロットのデータかが分からなければ学習にも評価にも使えないからです。3つの割合を導入前後で比べるときの注意点は製造業AIの効果測定に書きました。食品・飲料の工場に固有の論点は食品工場のAI活用で扱っています。

なお、Schneider Electricは産業用ソフトウェアとAIを販売する企業で、この調査は自社の発表に添えたものです。損失が膨らむという結論は同社の製品の訴求と方向が一致します。調査会社がESOMARなどの基準に従っているとしても、設問の文言が公表されていない以上、数字の強さは割り引いて読むのが妥当です。

よくある質問

29%は米国の消費財メーカー全体の実態と考えてよいですか?

いいえ。米国の製造部門の上級意思決定者252人の自己申告で、企業数でも工場数でもありません。発表は「代表性のある調査」としていますが、抽出方法や設問の文言は公表されていません。

世界の13%は4月の調査と同じ数字ですか?

4月15日の発表でも13%が示されており、10月の発表の世界の数字と一致します。ただし10月の発表は世界の回答者を「1,400人超」と書いており、4月の1,453人と同一の集計かどうかは明記されていません。

中国の「AI応用普及率30%超」と比べられますか?

比べられません。中国の数字は工業和信息化部が2026年7月20日の会見で示した規模以上製造業企業の割合で、「全面的な組み込み」ではなく応用の有無に近い指標とみられます(算出方法は公表なし)。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。