延期後のスケジュール

AI Omnibusは、欧州委員会が2025年11月19日にデジタル簡素化パッケージの一部として提案し、2026年5月7日に政治合意、2026年7月27日に発効しました。高リスクAIの義務の適用開始日が次のように延期されています。

Annex III(用途型)高リスク義務の適用開始
2027年12月2日
AI Act第113条(AI Omnibus後、2026年閲覧)
Annex I(製品組込み型)高リスク義務の適用開始
2028年8月2日
AI Act第113条(AI Omnibus後、2026年閲覧)
時期適用される内容製造業への関係
2024年8月1日AI Act発効―
2025年2月2日禁止AI慣行、AIリテラシー義務(第4条)AIを使う全事業者にリテラシー確保義務
2025年8月2日汎用AI(GPAI)モデルの義務、ガバナンス規定基盤モデルの提供者が主な対象
2026年7月27日AI Omnibus発効高リスク義務の期限を延期
2026年8月2日一般適用開始、透明性ルールと執行生成AIの出力表示などの透明性義務
2027年12月2日Annex III高リスク義務作業者監視AI、重要インフラの安全部品
2028年8月2日Annex I高リスク義務機械などの安全部品として組み込むAI
EU AI Actの適用スケジュール(AI Omnibus後) 2024.8発効 2025.2禁止・リテラシー 2025.8GPAI 2026.7〜8Omnibus発効一般適用 2027.12Annex III作業者監視等 2028.8Annex I機械の安全部品 当初の高リスク適用予定
AI Actの適用スケジュール。Omnibusで高リスク義務の2つの期限が後ろに動いた。

Omnibusが変えたもう一つの点:製品安全法との重複整理

欧州委員会は、OmnibusがAI Actと機械規則などのEU製品安全法との重複関係を明確にしたと説明しています。機械に組み込むAIは、AI Actと機械規則(EU)2023/1230の両方の対象になりえ、どちらの手続きで適合性を評価するかが実務上の論点でした。

機械規則自体は2027年1月20日から適用されます。AI ActのAnnex I高リスク義務(2028年8月)より先に機械規則が適用されるため、機械メーカーにとっては機械規則の準備が先に来ます。機械規則には、機械学習で自己進化する安全機能に第三者評価を求める規定があり、AIを組み込んだ機械の設計に直接関わります。詳しくはEU機械規則2023/1230とAIで扱っています。

延期されなかった義務

延期は高リスクAIの義務に関するもので、すべての義務が先送りになったわけではありません。

  • AIリテラシー(第4条):2025年2月2日から適用済み。AIを提供・利用する事業者は、AIを操作・利用するスタッフのリテラシー確保措置を講じる必要がある
  • 禁止AI慣行:2025年2月2日から適用済み
  • 透明性ルールと執行:2026年8月2日から開始
  • サイバーレジリエンス法(CRA)の報告義務:AI Actとは別の法律で、2026年9月11日から適用開始(EU Cyber Resilience Act)

準備計画をどう組み直すか

延期を受けて、準備の順番を次のように組み直すのが現実的です。

  1. 2026年中:AIリテラシーの社内研修(適用済み)、AI台帳の作成、高リスク該当性の一次判定
  2. 2026年9月〜:CRAの報告体制(適用済み)
  3. 2027年1月まで:機械規則への対応(機械メーカー)
  4. 2027年12月まで:作業者監視AIなどAnnex III該当の用途の対応(欧州拠点)
  5. 2028年8月まで:製品組込み型の高リスクAIの対応(機械・装置メーカー)

延期で生まれた時間は、AI台帳の整備に充てるのが効果的です。工場や製品に入っているAIを一覧にし、用途、組み込む製品、使うデータ、出力を誰が何に使うかを記録しておけば、高リスク該当性の判定も、CRAや機械規則の確認も、同じ台帳から進められます。AIの数が少ないうちに台帳を作っておくと、後から現場に散らばったAIを探し回る手間を省けます。

高リスクの判定方法はEU AI Actは製造業AIをどこまで縛るかで詳しく扱っています。

よくある質問

Omnibusで高リスクの要件そのものは緩くなりましたか

今回確認した一次情報で明らかなのは、適用期限の延期と、製品安全法との重複関係の明確化です。要件の中身の変更の有無は、改正後の条文で個別に確認してください。

さらに延期される可能性はありますか

現時点ではAI Omnibus後の期限が法的に有効なスケジュールです。追加の延期を前提に準備を止めるのは避けるべきです。

日本の機械メーカーは何から始めればよいですか

2027年1月20日に適用される機械規則への対応が先に来ます。自社の機械に組み込んでいるAI機能のうち、安全機能に関わるものと、機械学習で挙動が変わるものを洗い出すところから始めてください。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。