何が変わるか

EU機械規則(EU)2023/1230は2023年6月14日に採択され、2027年1月20日から適用されます。それまでは従来の機械指令2006/42/ECに従います。欧州委員会は、この規則が「AIを用いた安全機能を持つ機械」に関する規定を取り込み、ソフトウェアと安全制御システムのサイバー安全性も追加したと説明しています。

AIに関わる変更の要点は次の3つです。

  1. 「安全部品」の定義にソフトウェアを含めた(第3条(3):物理的またはデジタル的な部品)
  2. 機械学習で自己進化する挙動を持ち、安全機能を確保するシステムを、第三者評価が必要な高リスク機械カテゴリー(Annex I)に置いた(前文(54))
  3. 第三者評価の対象を、自己進化するシステムに限り、学習しないソフトウェアは対象外とした(前文(55))

線引きは「学習して挙動が変わるか」

前文(55)の線引きは、AIを組み込む機械の設計に直接関わります。第三者評価の対象になるのは、機械学習を使って完全または部分的に自己進化する挙動を持ち、かつ安全機能を確保するシステムです。出荷後に学習しないソフトウェアは、AIの技術を使っていても、この第三者評価の対象には入りません。

前文(54)は、自己進化する挙動を持つ安全機能システムを高リスクカテゴリーに置く理由として、データ依存性、不透明性、自律性、接続性を挙げています。出荷後に現場のデータで学習し続けるシステムは、メーカーが出荷時に検証した状態から外れていく可能性があるため、追加の評価を求めるという考え方です。

機械に組み込むAI安全機能か出荷後に学習するか第三者評価(自己進化条項)
人の侵入を検知して停止するAI(出荷時に学習済み・固定)はいしない対象外(ただし他の安全要件は適用)
人の侵入を検知して停止するAI(現場データで再学習)はいする対象
加工条件を最適化するAI(現場で学習)いいえする対象外
外観検査AI(品質判定のみ)いいえどちらでも対象外
ロボットの速度・力を学習で調整するAIはいする対象

※当サイトによる例示です。個別製品の該当性は、条文と整合規格、ノーティファイドボディとの協議で判断してください。

機械規則における自己進化する安全機能の判定 安全機能を担うか 出荷後に学習し挙動が変わるか Annex I高リスク機械第三者適合性評価 自己進化条項は対象外 対象外(前文55)通常の安全要件は適用 はい はい いいえ いいえ
機械規則の自己進化条項の判定。安全機能で、かつ出荷後に学習する場合に第三者評価が必要になる。

なお、Annex I Part Aの該当項目(自己進化する挙動を持つ安全部品・機械)の条文本文は、今回の調査では取得範囲外で確認できていません。趣旨は前文(54)(55)で確認したものです。

サイバーセキュリティとの接続

機械規則は、制御システムの安全性と信頼性に、サイバー攻撃への耐性も含めています。第20条(9)は、Cybersecurity Act(EU 2019/881)に基づく認証を受けた機械は、Annex IIIの1.1.9(破損からの保護)と1.2.1(制御システムの安全性・信頼性)に適合していると推定されると定めています。

ネットワークにつながり、外部からモデルを更新できるAI搭載機械は、モデルの改ざんや不正な更新が安全機能に影響しうるため、この要件と密接に関わります。AI搭載のコネクテッド機械は、別の法律であるサイバーレジリエンス法(CRA)の対象にもなりえます(EU Cyber Resilience Act)。

AI Actとの関係

機械の安全部品として使われるAIは、AI ActのAnnex I(Section B第21項に機械規則が明記)を通じて、AI Actの高リスクAIにもなりえます。AI Omnibusにより、AI ActのAnnex I型の高リスク義務は2028年8月2日からになりました。機械規則(2027年1月20日)のほうが1年半以上早く適用されます。

Omnibusは、AI Actと機械規則などの製品安全法との重複関係を明確にしたとされています。機械メーカーは、まず機械規則の準備を進め、その技術文書やリスク評価をAI Actの要件にも使えるよう設計しておくのが効率的です(EU AI Omnibusで期限延期)。

設計段階で決めておくこと

この線引きを踏まえると、AIを組み込む機械の設計では、次の選択を早い段階で行う必要があります。

  1. 安全機能にAIを使うか、従来の安全制御(安全PLC、安全センサー)で担うか
  2. 安全機能にAIを使う場合、出荷時にモデルを固定するか、現場で学習させるか
  3. 現場で学習させる場合、第三者評価を受ける前提で設計・文書化するか
  4. 品質・最適化のAIと安全機能のAIを、ソフトウェア構成上分離できるか

実務的には、安全機能は従来の安全制御で担保し、AIは品質や効率の改善に使って安全機能から分離する設計が、評価の負担を最も小さくします。AIを安全機能に使う場合も、出荷時に固定したモデルを、版管理された形で更新する運用のほうが、出荷後に自律的に学習させるより扱いやすくなります。機械メーカー向けの実務はEU機械規則2023/1230とAI(管理・規制)でも扱っています。

よくある質問

2027年1月20日より前に出荷した機械はどうなりますか

2027年1月19日までは機械指令2006/42/ECに従います。それ以降に市場に出す機械が機械規則の対象です。経過措置の詳細は条文で確認してください。

協働ロボットのAI機能も対象ですか

協働ロボットで、人との接触を避ける・力を制限するなどの安全機能をAIが担い、その挙動が学習で変わる場合は、自己進化する安全機能に当たる可能性があります。ロボットの安全規格(ISO 10218:2025)とあわせて確認してください。

学習しないAIなら何の要件もかかりませんか

自己進化条項による第三者評価の対象外になるだけで、安全部品としてのソフトウェアには、機械規則の一般的な安全要件がかかります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。