成立から全面施行、指針の決定まで

AI推進法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)の経過は次のとおりです(BUSINESS LAWYERSの解説による)。

時期出来事
2025年2月28日国会に提出
2025年5月28日成立
2025年6月4日公布・施行(第3章・第4章を除く)
2025年9月1日全面施行
2025年12月19日第13条に基づく「適正性指針」を決定
2025年12月23日人工知能基本計画を閣議決定

法律に基づいて内閣にAI戦略本部が置かれ、本部長は内閣総理大臣、構成員は全ての国務大臣です(内閣府資料、2025年11月20日)。AI基本計画は「当面毎年変更」とされており、政策の中身は毎年更新されていく前提です。基本計画の内容は人工知能基本計画の要点で扱います。

事業者に何が求められるか:努力義務と協力義務

製造業がAIを使う立場で関係するのは、主に第7条です。BUSINESS LAWYERSの解説によると、第7条は活用事業者に対し、AI活用の努力義務と、国・自治体の施策に「協力しなければならない」協力義務を課しています。いずれも罰則はありません。

ただし、罰則がないことは、何もしなくてよいことを意味しません。同解説によると、第16条に基づき、国は事業者に対して指導・助言・情報提供を行うことができ、事業者名の公表も検討されうるとされています。

また、国会の附帯決議は、事業者に過度な負担や開示を求めないこと、営業秘密・知的財産を保護することを政府に求めています。製造ノウハウを扱う製造業にとっては、この点も押さえておく価値があります。

適正性指針の5分野を工場の言葉に置き換える

第13条に基づく適正性指針は、2025年12月19日に決定され、AIガバナンス、透明性、安全性、事業継続、関係者への配慮の5分野を扱います。法的拘束力はありません(BUSINESS LAWYERS)。

5分野を製造業の工場に当てはめると、点検すべき内容は次のようになります。これは本サイトによる読み替えであり、指針の原文そのものではありません。指針の具体的な記載は原文で確認してください。

分野工場での具体的な点検項目(読み替えの例)
AIガバナンス社内で使っているAIの一覧(AI台帳)があるか。導入の承認者と、問題が起きたときの責任者が決まっているか
透明性AIが何を根拠に判定しているかを、品質保証部門や顧客に説明できるか。AIを使っていることを関係者が知っているか
安全性AIの誤判定が品質や作業者の安全にどう影響するかを評価したか。人の確認や停止の仕組みがあるか
事業継続AIやクラウドが止まったときに、人の作業に戻せるか。モデルの版とデータを管理しているか
関係者への配慮作業者のデータを扱う場合の説明と同意、取引先から預かったデータの扱いが決まっているか
適正性指針の5分野と工場の仕組み AIガバナンス 透明性 安全性 事業継続 関係者への配慮 AI台帳承認フロー 判定根拠の記録顧客への説明 リスク評価人の確認・停止 代替手順モデルの版管理 作業者への説明データの取扱規程
適正性指針の5分野と、製造業で対応する社内の仕組み。既存の品質・安全・情報管理の仕組みに組み込む。

製造業での対応の進め方

法律実務の解説記事は、企業の対応策として、AIポリシーの整備、説明可能性の確保、契約書の見直し、社内研修を挙げています(モノリス法律事務所)。製造業では、これを既存の仕組みに組み込む形で進めるのが現実的です。

  1. AI台帳を作る:工場・本社で使っているAI(外観検査、予知保全、生成AIツールなど)を一覧にし、用途・データ・責任者を記録する
  2. 既存の品質マネジメントに組み込む:AIの導入・変更を、工程変更や変更管理の手続きに含める。モデルの再学習も「変更」として扱う
  3. 生成AIの利用ルールを作る:入力してよい情報、出力の検証責任を決める(生成AIの社内利用ルールの作り方を参照)
  4. 契約を見直す:AIベンダーとの契約で、データ・モデルの権利と責任分界を明確にする
  5. 研修を行う:AIを使う社員に、限界と禁止事項を教える

これらは新しい組織を作らなくても、品質保証・情報システム・法務の既存の役割分担の中で始められます。社内体制の全体像は製造業のAIガバナンス体制で扱います。

よくある質問

AI推進法に違反すると罰金がありますか

AI推進法には罰則はありません。ただし、第16条に基づく指導・助言の対象になりえ、事業者名の公表が検討されうるとされています。また、既存の法律(個人情報保護法など)は従来どおり適用されます。

EUのAI Actとは何が違いますか

EUのAI Actは、AIをリスクで区分し、高リスクAIに具体的な義務と罰則を課す規制法です。日本のAI推進法は推進を目的とする法律で、罰則のある義務は定めていません。EU向けに製品を輸出する場合はAI Actへの対応が別途必要です(EU AI Actと日本の製造業を参照)。

中小企業も対応が必要ですか

第7条の活用事業者の責務は、企業規模で区別されていません。ただし附帯決議は過度な負担を求めないことを政府に求めています。中小企業では、AI台帳と生成AIの利用ルールなど、軽い仕組みから始めるのが現実的です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。