計画の位置づけ:AI推進法に基づき、毎年見直される

人工知能基本計画は、2025年9月1日に全面施行されたAI推進法に基づく計画で、2025年12月23日に閣議決定されました(BUSINESS LAWYERSの解説による)。内閣府の資料(2025年11月20日)では、AI基本計画は「当面毎年変更」とされています。つまり、今回の計画は固定された方針ではなく、毎年の改定で中身が変わっていく前提の文書です。

令和8年版情報通信白書によると、計画は「信頼できるAI」を基盤に、3つの原則を定めています。

  • イノベーションとリスク対応の両立
  • アジャイルな対応
  • 内外一体の政策推進

4つの基本方針と製造業への波及

同白書によると、計画の4つの基本方針は「AIを使う」「AIを創る」「AIの信頼性を高める」「AIと協働する」です。それぞれが製造業にどう関わるかを、2026年に公表された関連施策と合わせて整理します。施策と方針の対応付けは本サイトによる整理です。

基本方針製造業に関係する主な動き(2026年10月時点)企業にとっての意味
AIを使う2026年版ものづくり白書が紹介する「製造AX拠点構想」:加工・稼働データから製造データベースを整備し、それを使う製造プラットフォームの開発を支援する構想自社の製造データを整備しておくことが、外部の基盤を使う前提になる
AIを創るNEDOの「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」の実施者にNoetraと産総研(2026年6月30日発表)。GENIAC(2024年2月開始)によるモデル開発・データセット構築の支援国産の基盤モデルに、製造業の現場データが求められる
AIの信頼性を高める適正性指針(2025年12月19日決定)、AI事業者ガイドライン、経済産業省の「AI利活用における民事責任の在り方に関する研究会」社内のAIガバナンスと、事故時の責任分界の整理が必要になる
AIと協働する「AIロボティクス戦略」(2026年3月取りまとめ)、フィジカルAIに2040年度までに官民で10.5兆円を投じる計画(2026年6月24日の成長戦略会議)ロボットとAIを組み合わせた現場の自動化に、政策支援が集まる
人工知能基本計画の4方針と製造業 信頼できるAI(基盤) 使う製造AX拠点構想製造データベース 創る国産基盤モデルGENIAC・NEDO 信頼性適正性指針民事責任の研究会 協働AIロボティクス戦略フィジカルAI投資 共通の前提:現場の製造データの整備
4つの基本方針と製造業に関係する施策。データ整備が「使う」と「創る」の両方の前提になっている。

フィジカルAIへの大型投資と「現場データ」の論点

製造業にとって最も規模の大きい動きは、フィジカルAIへの投資です。2026年6月24日の成長戦略会議では、フィジカルAIに2040年度までに官民で10.5兆円を投じる計画が示されました(17戦略分野全体では370兆円規模、MONOist、2026年6月27日)。政府は2040年にAIロボットの売上高約20兆円、世界シェア30%超を目標にしています(@IT、2026年9月11日)。

国産の基盤モデル開発では、経済産業省とNEDOが2026年度にプロジェクト全体へ約3,873億円を支援し、5年間の総額は1兆円規模になる可能性があると報じられています(ITmedia ビジネス、2026年10月5日)。開発を担うNoetraには国内44社が出資しており、ファナック、安川電機、東芝、日本製鉄なども含まれます。

ここで製造業が考えておくべきなのは、基盤モデルが現場のデータを前提にしている点です。どのデータを、どの条件で外部の基盤開発に出すのか、出した場合に自社にどんな見返りがあるのかは、まだ明確な答えが示されていません(本サイトの見立て)。自社の製造データの範囲と、外部に出せるもの・出せないものの区分を、先に整理しておくことを勧めます。営業秘密の扱いは営業秘密・ノウハウを守るAI活用で扱います。

製造業が今やるべき3つのこと

計画が毎年見直される前提に立つと、個々の施策を追いかけるより、どの施策が出ても使える状態を作っておくほうが効果的です。

  1. 製造データの整備:MES・設備データ・品質記録を、外部の基盤やAIにつなげられる形にしておく。「データは取れるがつながらない」状態の解消が、製造AX拠点構想のような取り組みに参加する前提になる(データ基盤の段階的導入ロードマップを参照)
  2. AIガバナンスの最低限の仕組み:AI台帳、利用ルール、責任者を決める。信頼性の方針に沿った体制を説明できるようにしておく
  3. 政策動向の定期確認:年1回の計画改定と、それに伴う公募を確認する担当を決める

よくある質問

人工知能基本計画は企業に義務を課しますか

基本計画は政府の施策の方向を定めるもので、企業に直接の義務を課す文書ではありません。企業の責務はAI推進法の第7条に定められ、努力義務と協力義務で、罰則はありません。

計画の改定はいつ行われますか

内閣府の資料では「当面毎年変更」とされています。改定時期は公表を確認してください。改定で重点が変わると、関連する補助金や実証事業のテーマも変わる可能性があります。

中小製造業にも関係がありますか

フィジカルAIや基盤モデルの開発は大企業が中心ですが、製造AX拠点構想のように、現場のデータを整備し、それを使う基盤を広く提供する方向の施策もあります。データの整備は企業規模にかかわらず効いてきます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。