再計画の質は「いま何が起きているか」を何分で知れるかで決まる

計画系(APSや最適化ソルバー)が再計画するには、現時点の仕掛・完了数量・設備の稼働状態・作業者の配置が必要です。これらを持っているのはMES(製造実行システム)で、ERPには日次や締め単位でしか入ってきません。再計画が遅い工場の多くは、ソルバーではなくこの「実績の取り込み」で詰まっています。

実務で起きる典型は次の3つです。

  • 実績の計上がシフト終了時の一括入力で、計画系が見ている仕掛が数時間前の姿になっている
  • 設備停止がMESに理由コードつきで入らず、「止まっている」ことはアンドンで分かっても、復旧見込みが計画系に渡らない
  • 標準時間と実績時間の差を計画マスタに戻しておらず、組み直した計画も最初からずれている

最後の点は再計画以前の問題です。実績が取れないと標準時間の誤差がそのまま計画の誤差になるため、生産計画AIに必要なマスタ整備と並行して、実績時間の収集を先に整える必要があります。

MESから実績と設備状態を取り込み、トリガー判定、凍結区間設定、再計画、MESへの作業指示配信を循環させる流れ MES実績・停止・仕掛 トリガー判定閾値・イベント 凍結区間の設定直近N時間は固定 再計画部分 or 全体 計画者の承認 作業指示の差し替えをMESへ配信 再計画の遅れ = 実績取込の遅れ + 判定 + 求解 + 承認
MES実績を起点にした再計画ループ。トリガー判定と凍結区間の設定を挟んでから最適化に渡す。

再計画トリガーは「イベント」と「ずれの累積」の2系統で決める

再計画を常時回すと、現場の作業順が頻繁に変わり、段取りの準備や材料の引当てが追いつきません。トリガーを明示的に決めることが設計の中心です。

種類例判定に必要なMESデータ推奨する再計画の範囲
イベント型設備の突発停止(復旧見込み30分超)停止開始時刻、停止理由コード、復旧見込み当該設備と後工程のみ部分再計画
イベント型特急オーダーの割込み受注、品目、ルーティング割込み先設備の後続ジョブ
イベント型材料欠品・不良による作り直し在庫引当、不良数、ロット当該品目に関わる工程
累積型実績が計画から一定以上遅れた工程別の完了時刻、実績時間遅れ幅が閾値を超えた時点で全体
定時型シフト切替時全仕掛、作業者配置次シフト分を全体再計画

ポイントは、停止理由コードと復旧見込みが入力されないとイベント型トリガーが機能しないことです。停止理由コードの設計が粗いままだと、「短時間で戻る停止」と「段取り替えを含む長時間停止」を区別できず、毎回全体再計画に倒れます。

凍結区間(フリーズ)を設けないと現場が計画を信用しなくなる

凍結区間とは、再計画しても動かさない直近の時間帯です。すでに段取りを始めている、材料を払い出している、作業者に指示が出ているジョブを動かすと、計画は理論上よくなっても現場の手戻りが増えます。

決め方の目安は次のとおりです。

  • 段取り準備(金型・治具の段取り、材料の払い出し)にかかる最長時間を下限にする
  • 開始済みジョブは原則として凍結し、中断を許すのは設備故障時だけにする
  • 特急オーダーで凍結区間を破る場合は、計画者の承認を必須にし、MESに理由を記録する

部分再計画と全体再計画の使い分け

ジョブショップの最適化はCP-SATなどの制約プログラミングで解くのが実務の第一選択です。VUアムステルダムの研究者によるOSSライブラリPyJobShopの評価(arXiv 2502.13483)では、9,000以上のインスタンスでCP-SATの平均最適性ギャップが3.40%と報告されています。ただし再計画では「最適解」より「数分以内に、現計画からの変更が少ない解」が求められます。

  • 部分再計画:影響を受けた設備と後工程だけを解き直す。求解が速く、変更範囲が小さい。停止や割込みのたびに使う
  • 全体再計画:全ジョブを解き直す。シフト切替や遅れの累積時に使い、目的関数に「現計画からの変更数」を罰則として加える

深層強化学習(DRL)とグラフニューラルネットワークによる方策は、学習済みなら推論が一瞬で終わるため、リアルタイム再計画の候補として研究されています。ただし2024年6月のサーベイ(Smit et al., arXiv 2406.14096)は、静的な問題での最適性ギャップが約6〜20%でトップのヒューリスティクスに及ばないこと、処理時間の確率的変動や順序依存の段取りが未解決の課題であることを指摘しています。詳しくは強化学習による生産スケジューリングで整理しています。

効果は「再計画にかかった時間」と「計画の安定性」の両方で測る

日立は日立ハイテクの半導体製造装置の生産計画で、制約プログラミングを使った自動立案により、月最長5日かかっていた立案作業を月1日以内にしたと2023年5月に発表しています(同社発表、2022年4月導入)。このように立案時間は分かりやすい指標ですが、再計画の評価にはもう一つ、計画の安定性が必要です。

  • 再計画の所要時間(トリガー発生から承認まで)
  • 1日あたりの作業順変更回数と、凍結区間を破った件数
  • 納期遵守率と段取り時間の推移
  • 計画者が手で修正した件数

変更回数が多いのに納期遵守率が上がっていなければ、トリガーが敏感すぎます。指標全体は生産計画AIの評価指標を参照してください。

よくある質問

MESがない工場でも再計画の仕組みは作れますか

作れますが、実績の取り込みを手入力に頼る限り、再計画の頻度は入力の頻度を超えません。まずは設備の稼働信号と工程完了の入力(バーコードやタブレット)だけでも自動化し、仕掛の状態を数十分以内に把握できるようにするのが先です。

凍結区間は何時間に設定すればよいですか

一律の正解はありません。段取りと材料払い出しにかかる最長時間を下限にし、運用しながら「凍結区間外の変更で現場の手戻りが出た件数」を見て調整します。多品種の組立なら数時間、プロセス系ではバッチ単位で考えるのが一般的です。

再計画を完全に自動化してよいのはどんな場合ですか

計画者の承認率が高く、承認後の手直しがほとんどない状態が数か月続いた場合です。それまではソルバーの案を提示し、人が承認する運用を続けたほうが、現場の信頼を失わずに済みます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。