失敗の多くは技術ではなく運用設計で起きる

予知保全AIのプロジェクトが止まる理由を並べると、アルゴリズムの性能不足で止まる例は意外に少なく、多くはデータの準備と、アラームを受け取った後の運用の設計で止まっています。デジタル製造の取り組み全般についても、McKinseyの2018年の調査(7市場・700社超)では全社展開できた企業は約30%にとどまり、障壁として人材、ROIの不明確さ、IT環境の不備が挙がっていました。予知保全は、この傾向が特に表れやすい用途です。

6つの失敗パターンを、発生する段階ごとに整理すると次のとおりです。

段階失敗パターン典型的な症状
データ1. 故障事例が少なく評価できないPoCで検知できたか判断できないまま終わる
データ2. 保全記録が使えない自由記述で故障ラベルが作れない
データ3. センサの取付・周期が不適切狙った故障が信号に現れない
運用4. 誤報が多すぎる数か月でアラームが無視される
運用5. アラームが保全作業につながらない誰が何をするか決まっていない
組織6. 効果を示せず予算が続かない停止の回避が数値で示せない

データ段階の失敗(1〜3)

1つ目の故障事例の不足は、予知保全の宿命とも言えます。重要設備ほど壊れる前に部品を替えるため、故障まで運転したデータはほとんど残りません。PoCの期間中に実際の故障が起きなければ、検知できたかどうかを確かめられません。打ち手は、正常データだけで学ぶ異常検知から始めること、同型設備のデータをまとめること、過去の保全記録から故障前の期間を探してデータが残っていないか確認することです。

2つ目の保全記録の問題は、記録が自由記述で、設備IDや故障の発生時刻が曖昧なために、センサデータとの突き合わせができないことです。AIの検討より先に、故障コード体系と記録ルールを整えることが近道になります。具体的な手順は保全記録(CMMS)を予知保全AIの教師データにするで解説しています。

3つ目のセンサの問題は、故障モードを考えずにセンサを選んだ結果、狙った故障が信号に現れないケースです。温度センサだけで軸受の初期傷を捉えようとする、マグネット固定の振動センサで高周波を見ようとする、といった例があります。故障モードから逆算してセンサを選ぶ方法は予知保全のセンサ選定を参照してください。

運用段階の失敗(4〜5)

4つ目の誤報は、最も多く、最も気づかれにくい失敗です。PoCでは担当者が熱心にアラームを確認しますが、本番で誤報が続くと、保全担当者はアラームを見なくなります。McKinseyは誤報率10%で予知保全プログラムの節約効果が消えた例を挙げています(Reliable誌による二次情報)。打ち手は、PoCの段階で「1か月に対応できる空振り点検の件数」を決め、その範囲に収まる閾値で評価することです。詳しくは予知保全は閾値管理で足りるかで扱っています。

5つ目は、アラームが保全作業につながらないことです。アラームが画面やメールで届いても、誰が確認し、どの基準で点検に行くか、点検の結果をどこに記録するかが決まっていなければ、何も起きません。

アラーム、担当者の確認、判断基準、作業指示、点検結果の記録、評価と閾値見直しの流れ アラーム 担当者が確認 判断基準で点検を決定 作業指示(CMMS/MES) 点検結果をコードで記録 的中・誤報を集計し見直し PoCで抜けやすいのは「判断基準」「作業指示との連携」「結果の集計」の3か所
アラームから保全行動までの流れ。点線の部分が抜けると運用が止まる。

この流れを作るには、保全部門の業務の中にアラームの扱いを組み込む必要があります。具体的には、アラームの受け手(設備ごとの担当者)、確認までの目標時間、点検に行く判断基準、作業指示の発行先(CMMSやMES)、点検結果のコードを決めておきます。最後の結果の記録がないと、誤報率も的中率もわからず、閾値の見直しもできません。

組織段階の失敗(6)

6つ目は、効果を示せずに予算が続かないことです。予知保全の効果は「起きなかった停止」なので、数値で示すのが難しく、1年目の評価で「何が良くなったのかわからない」と判断されがちです。

打ち手は、停止の回避件数だけでなく、毎月測れる先行指標を最初から報告対象にすることです。アラームの的中件数、計画停止に置き換えた件数、点検の前倒しで見つかった劣化の件数、誤報率などです。また、PoCの段階で1時間あたりの停止損失を経理部門と合意しておくと、回避した停止の金額換算に説得力が出ます。試算の方法は予知保全のROI試算で示しています。

計画段階で確かめる6項目

予知保全AIの計画を立てるときに、次の6項目を確認しておくと、上の失敗の多くを事前に防げます。

  1. 対象設備の過去3年の故障のうち、兆候が測れる故障モードは何件あったか
  2. 保全記録に設備ID(部位まで)・発生時刻・故障コードが残っているか
  3. 選んだセンサと取付位置で、狙った故障モードの信号が取れるか
  4. 1か月に対応できる空振り点検の件数は何件か
  5. アラームの受け手、判断基準、作業指示の発行先、結果の記録方法が決まっているか
  6. 毎月報告する先行指標と、停止損失の金額換算の方法が合意されているか

よくある質問

PoCで故障が1件も起きなかったらどうすればよいですか?

正常期間の誤報率と、運用の流れ(アラームから記録まで)が回るかを評価対象にします。故障の検知能力は、過去に記録された故障前後のデータや、意図的に異常を作れる設備で補完的に確認します。

予知保全AIをやめるべきかの判断基準はありますか?

6か月運用して、誤報率が許容範囲に収まらず、的中したアラームも0件の場合は、対象設備やセンサの選び方を見直す時期です。技術を変える前に、故障モードとセンサの対応が適切だったかを確認してください。

失敗した予知保全プロジェクトのデータは無駄になりますか?

無駄になりません。設備の正常時のデータと運転条件の記録は、閾値の見直しや別の分析手法を試すときの基盤になります。データの保存と設備IDの整理だけは続けておくことを勧めます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。