6ブロックは予知保全システムの「共通の地図」

ISO 13374は、機械の状態監視と診断のデータ処理について、オープンなソフトウェア仕様の基本要件を定めた規格です。同じ考え方は業界団体MIMOSAのOSA-CBM(状態基準保全のためのオープンシステム構成)として知られ、ISO 13374-1の附属書でMIMOSAの仕様が参照されています。

この規格が示す6つの機能ブロックは、次のとおりです。

  1. データ取得(Data Acquisition):センサやPLCから信号を取り込む
  2. データ処理(Data Manipulation):フィルタ、周波数分析、特徴量の計算
  3. 状態検知(State Detection):閾値との比較、異常の検知とアラーム
  4. 健全性評価(Health Assessment):劣化の度合い、故障部位の診断
  5. 予後評価(Prognostics Assessment):将来の状態、余寿命の予測
  6. 保全推奨(Advisory Generation):保全行動の提案

ベンダーによって呼び方や製品の区切りは違いますが、どの製品もこの6ブロックのどこかを担っています。提案を受けたら、まず「どのブロックを、どこまで担う製品か」を6ブロックの上に書き込むと、比較の土台ができます。予知保全の全体像は予知保全AIとはで整理しています。

ブロックごとの置き場所と既存システムの対応

6つの機能ブロックがエッジ、分析基盤、CMMSとMESのどこに置かれ、どのシステムとつながるかを示した図 エッジ・制御側(L1〜L2) 分析基盤(オンプレ・クラウド) 業務システム(L3〜L4) 1 データ取得センサ・PLC 2 データ処理FFT・特徴量 3 状態検知 4 健全性評価 5 予後評価 6 保全推奨CMMSの作業指示・停止計画 ヒストリアン・時系列DB高頻度データは特徴量化して送る 運転条件(品種・負荷)MESの実績から取得 保全記録の結果→ 3〜5の評価と再学習へ戻す 点検結果のフィードバックがないと3〜5の精度を評価できない
ISO 13374の6ブロックとISA-95の階層、既存システムの対応。ブロックの境目がそのまま連携点になる。

1と2のブロックは、データ量の都合でエッジ側に置くことが多くなります。振動の生波形は数kHz以上の高頻度データで、すべてを分析基盤に送ると通信量と保存量が膨らむためです。エッジで周波数分析や特徴量計算まで済ませ、特徴量と、異常時の生波形だけを送るのが一般的な構成です。

3〜5のブロックは分析基盤に置きます。ここで必要になるのが、センサデータと同じ時刻の運転条件(品種・負荷・回転数)です。この情報はMESの作業実績や制御系のタグにあるため、分析基盤はMESや制御系とつながっている必要があります。

6の保全推奨は、保全管理システム(CMMS)やMESの作業指示につながって初めて意味を持ちます。アラームを画面に出すだけで、誰がいつ何をするかが決まらない構成は、運用が定着しません。ISA-95の階層で言えば、1〜2がレベル1〜2、6がレベル3の保全オペレーション管理にあたります。

責任分界を決める:誰がどのブロックを持つか

6ブロックで整理すると、社内外の責任分界も決めやすくなります。

ブロック社内の主な担当外部に頼む場合の例
1 データ取得設備保全・生産技術(センサの取付、PLCのタグ)センサメーカー、設備メーカー
2 データ処理生産技術・情報システム(エッジ機器の管理)エッジ機器ベンダー、SIer
3〜5 検知・評価・予後設備保全とデータ分析の担当の共同予知保全SaaS、分析ベンダー
6 保全推奨設備保全(作業指示と記録の運用)CMMSベンダー、MESベンダー

特に3〜5のブロックは、ベンダー任せにすると閾値や判定ロジックがブラックボックスになり、誤報が増えたときに自社で調整できなくなります。閾値の変更やアラームの結果の記録を、自社の保全担当者が操作できる設計にしておくことが重要です。

製品比較での使い方

予知保全の製品は、6ブロックのどこまでをカバーするかで大きく3つに分かれます。

1つ目は、センサから分析まで(1〜5)を一体で提供するサービス型です。後付けの無線センサとクラウド分析を月額で提供するもので、導入は速い一方、他社センサのデータや既存のヒストリアンのデータを取り込めるかは製品によります。

2つ目は、分析ソフト型(3〜5、場合によって2も)です。既存のセンサやヒストリアンのデータを使って分析するもので、データ取得の仕組みが既にある工場に向いています。

3つ目は、保全管理システム(CMMS)に異常検知や推奨機能を追加した型(3と6)です。作業指示とのつながりは強い一方、高頻度データの分析は外部に頼ることが多くなります。

比較するときは、各製品がカバーしない範囲を誰が埋めるかを必ず確認します。ブロックの境目、特に5と6の間(推奨を作業指示にどう渡すか)と、2と3の間(他社データを取り込めるか)が、後から最も手間のかかる連携点です。具体的な比較軸は予知保全AI製品の比較で示しています。

フィードバックの流れを設計に入れる

6ブロックは左から右への一方向の流れとして描かれがちですが、運用で重要なのは右から左への戻りです。保全推奨にもとづいて点検した結果(異常があったか、何が見つかったか)を3〜5のブロックに戻さなければ、誤報率も検出率もわかりません。

このため、保全記録の書式に「アラームの番号」と「点検結果のコード」を入れ、分析基盤がその結果を取り込めるようにしておきます。この流れがあると、アラームごとの的中・誤報が自動で集計でき、閾値の見直しや機械学習モデルの再学習の材料になります。保全記録の整備については保全記録(CMMS)を予知保全AIの教師データにするを参照してください。

よくある質問

ISO 13374に準拠した製品を選ぶ必要がありますか?

準拠をうたう製品は多くありません。規格は製品選定の条件というより、構成と責任分界を整理するための共通の枠組みとして使うのが実用的です。

既存のヒストリアンのデータは使えますか?

温度や電流の傾向監視には使えることが多いです。ただしヒストリアンは圧縮(デッドバンド)設定で小さな変化を捨てていることがあり、振動のような高周波データは入っていないのが普通です。使う前に、サンプリング周期と圧縮設定を確認してください。

6ブロックのうち最初にどこから整備すべきですか?

1のデータ取得と6の保全推奨・記録の両端です。真ん中の分析は後から入れ替えられますが、データの取り方と保全記録のルールは後から変えると過去のデータが使えなくなります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。