計画が使われないのは、計画が「間違っている」から

計画AIの計画が現場で修正される、あるいは使われなくなる理由は、ほとんどの場合、計画担当者から見てその計画が実行できないからです。熟練の計画担当者は、マスタやシステムに書かれていない多くのルールを守りながら計画を作っています。

  • 高温で加工する品目は設備が温まった朝一番に流さない(または逆に朝一番に流す)
  • 新人が多い夜勤には難しい品目を入れない
  • 特定の顧客向けの品目は、検査員が揃う曜日に作る
  • 金型の保管場所が遠い品目は、まとめて作る

GNNを使ったスケジューリング研究のサーベイ(Smitら、arXiv 2406.14096、2024年)も、学習方策の説明性の不足を実用上の課題に挙げています。計画の理由を説明できないことと、現場のルールが入っていないことは、同じ「現場が納得しない」問題として現れます。

暗黙ルールを聞き取る

暗黙ルールは「ルールを教えてください」と聞いても出てきません。本人も意識していないからです。次の方法で引き出します。

  1. 過去の計画の修正記録を見る:計画担当者がシステムの初期計画をどう修正したかを見て、修正ごとに理由を聞く
  2. AIの計画を見せて指摘をもらう:最適化した計画を見せ、「これではだめな理由」を挙げてもらう。指摘の一つ一つが暗黙ルールになる
  3. 失敗事例から聞く:過去に計画どおり作れなかった日の原因を聞く

2の方法が最も効率的です。完璧でない計画を早めに見せ、指摘をもらって取り込むサイクルを何度も回します。

ルールを3種類に分類する

聞き取った暗黙ルールを絶対制約、ペナルティ、参考情報の3種類に分類して計画AIに取り込む 聞き取った暗黙ルール 絶対制約破ると品質・安全問題例:アレルゲン順序 ペナルティ破ると効率が落ちる例:高温品は朝一番 参考情報理由が不明・古い検証してから判断
暗黙ルールの分類と取り込み方。絶対制約は少なく、ペナルティを多くするのが運用しやすい。
分類定義取り込み方
絶対制約破ると品質事故・安全問題・顧客契約違反になる制約として必ず守らせる
ペナルティ破ると効率が落ちる、作業者の負担が増える違反したときのコストとして目的関数に入れる
参考情報理由が不明、昔の設備の名残、担当者の好みすぐには入れず、守らなかった場合の影響を検証

絶対制約が増えすぎると、解が存在しない(すべての制約を同時に満たせない)状態になりやすく、計算も重くなります。多くのルールはペナルティとして扱い、重みで優先度を表すほうが運用しやすくなります。

参考情報に分類されたルールの中には、昔の設備の制約が設備更新後も習慣として残っているものがあります。検証して不要と分かれば、計画の自由度が上がり、それ自体が改善になります。

段階的に取り込む

最初から全ルールを入れようとすると、聞き取りに何か月もかかり、その間に計画担当者の関心が薄れます。次の順序で進めます。

  1. 絶対制約と、影響の大きいペナルティ上位5〜10個だけを入れて最初の計画を作る
  2. 計画担当者に見せて指摘をもらい、ルールを追加する(1〜2週間ごと)
  3. 計画担当者の修正率(AI計画をどれだけ手直ししたか)を記録し、下がっていくことを確認する
  4. 修正率が十分下がったら、AI計画を初期値として正式運用する

修正率は、計画AIの受け入れ度を測る指標として有効です。KPI全般は生産計画AIの評価指標を参照してください。

ルールの台帳を作る

聞き取ったルールは、計画AIのコードの中に埋め込むだけでなく、台帳として管理します。台帳がないと、モデルにどのルールが入っているかを計画担当者が確認できず、ルールの追加・削除の判断もできません。

台帳の項目記入例
ルールID・内容R-012:高温品(150℃以上)は朝8時台に開始しない
理由設備の温度が安定するまでに約1時間かかるため
分類ペナルティ(重み:中)
提案者・確認者計画担当A、製造課長B
対象範囲成形ライン2・3
登録日・見直し日2026年10月登録、2027年4月見直し

見直し日を設けるのは、設備更新や工程改善でルールの前提が変わることがあるためです。台帳は計画担当者が読める場所に置き、モデルの変更と台帳の更新を必ず同時に行います。

ルールの記録は技能伝承にもなる

聞き取った暗黙ルールを、理由とともに文書化しておくと、計画AIのためだけでなく、計画担当者の後継者育成にも使えます。熟練計画者の退職で計画業務が回らなくなるリスクは多くの工場が抱えており、計画AIのプロジェクトはその知識を残す機会になります。技能伝承の全体像は技能伝承AIで扱います。

よくある質問

暗黙ルールを機械学習で自動的に学習できませんか?

過去の計画データから傾向を学習することは可能ですが、なぜそのルールがあるのかは分かりません。絶対制約を誤って学習しない、不要なルールを再生産しないためにも、聞き取りと組み合わせるのが安全です。

計画担当者が複数いて、ルールが人によって違う場合は?

違いを一覧にして、関係者で議論する場を設けてください。ルールの違いは、どちらかが正しいのではなく、優先する目標の違いであることが多く、その合意自体が計画業務の標準化になります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。