3つの保全方式は「いつ手を打つか」の違い

事後保全は、壊れてから直す方式です。予防保全(時間基準保全、TBM)は、稼働時間や暦日で決めた周期で点検・部品交換をします。予知保全(状態基準保全、CBM)は、振動や温度などの状態を測り、劣化の兆候が出たときに手を打ちます。

方式手を打つきっかけ向く故障主なコスト
事後保全故障の発生停止しても影響が小さい設備、安価で予備がある部品突発停止の損失、緊急対応
予防保全(TBM)周期(時間・回数・暦日)摩耗など経年で進む故障まだ使える部品の交換、点検工数
予知保全(CBM)状態の変化ランダムに起きる故障、兆候が測れる故障センサ・データ基盤・分析と運用の体制

どれが優れているかではなく、故障の起き方と設備の重要度に合わせて組み合わせるものです。AIが関わるのは主に予知保全ですが、予知保全を入れる設備を正しく選べるかどうかは、この3方式の違いを理解しているかにかかっています。全体像は予知保全AIとはで整理しています。

故障の82%がランダムという数字の意味

ARC Advisory Groupは、故障のうち経年に起因するものは18%で、82%はランダムに起きるとしています(Reliable誌による2026年のまとめ)。時間基準の予防保全は「一定期間使えば壊れやすくなる」という前提に立つため、経年型の18%には効きますが、ランダム型には周期を短くしても効果が出にくくなります。

ランダム型の故障でも、多くは突然ゼロから壊れるわけではなく、軸受の傷が広がる、潤滑が切れて温度が上がるといった兆候の期間があります。この期間を測って捉えるのが予知保全です。逆に、兆候の期間がほとんどない故障(電子部品の突発的な破損など)は、予知保全でも捉えにくく、冗長化や予備品で備える領域です。

経年型故障は予防保全、兆候のあるランダム故障は予知保全、兆候のない突発故障は冗長化と事後保全で備える関係 経年型の故障 摩耗・疲労が周期で進む → 予防保全が有効 兆候のあるランダム故障 振動・温度・電流に前兆 → 予知保全が有効 兆候のない突発故障 前兆を測れない → 冗長化・予備品・事後保全 どの区分かは設備・部品ごとの保全記録から判断する
故障の起き方と有効な保全方式。兆候の期間がある故障が予知保全の守備範囲。

数字で見る3方式の差

NIST(米国国立標準技術研究所)は米国製造業の保全実態を調べ、2016年時点で機械保全の平均45.7%が事後保全だったと報告しています。事後保全の比率が上位25%の事業所は、下位25%の3.3倍の停止時間がありました。同じNISTの調査(Thomas & Weiss、2021年)では、予知保全への依存が高い群は予防保全中心の群に比べて計画外停止が18.5%少なかったとされます。

米エネルギー省(DOE)のO&Mベストプラクティスガイドは、予知保全のコスト削減を予防保全比で8〜12%、事後保全比で30〜40%としています。Reliable誌はこの数字を保守的で予算説明に向く値と評価しています。

設備ごとに方式を割り当てる4つの手順

  1. 設備の重要度を決める:止まったときの損失(生産停止時間×時間あたり損失、品質影響、安全影響)で、A・B・Cなどに区分する
  2. 主要な故障モードを洗い出す:過去の保全記録から故障の部位と現象を集計し、FMEAで影響度を評価する
  3. 故障モードを3区分に分ける:経年型か、兆候のあるランダム型か、兆候のない突発型か。保全記録で故障間隔のばらつきを見ると判断しやすい。間隔が揃っていれば経年型、ばらついていればランダム型の可能性が高い
  4. 方式を割り当てる:重要度が高く兆候のあるランダム型が多い設備に予知保全を集中させる。重要度が低い設備は事後保全で構わない

ここで多くの工場がつまずくのが2と3です。保全記録が自由記述で、故障部位や現象がコード化されていないと、故障間隔の集計ができません。予知保全AIの検討より先に、故障コード体系と記録ルールを整えることが近道になります。具体的な整備手順は保全記録(CMMS)を予知保全AIの教師データにするで解説しています。

データ基盤から見た3方式の違い

事後保全と予防保全に必要なのは、保全記録と稼働時間の管理です。予知保全では、これに加えて状態データの収集・保存・分析の仕組みが必要になります。振動の生波形は数kHz以上の高頻度データで、ヒストリアンの通常の圧縮設定では特徴が失われます。

予知保全のアラームが現場で使われるためには、状態データと保全記録、MESの稼働実績(品種・負荷・停止理由)を同じ設備IDで結べることが前提です。運転条件の違いを知らずに振動の変化を評価すると、品種切り替えのたびに誤報が出ます。設備IDの体系が保全システムとMESと計測系でばらばらな工場は、まずIDの統一から始めてください。

よくある質問

予防保全をやめて全部予知保全にすべきですか?

勧めません。経年型の故障には周期交換が安くて確実です。予知保全はセンサと運用の体制にコストがかかるため、重要度が高くランダム型の故障が多い設備に絞って入れるのが合理的です。

事後保全は悪い方式ですか?

悪くありません。止まっても生産への影響が小さく、修理が安い設備では、監視や定期交換にかけるコストより事後保全の方が安く済みます。意図して事後保全を選んでいるか、管理できずに事後保全になっているかの違いが重要です。

状態基準保全(CBM)と予知保全は同じ意味ですか?

ほぼ同じ意味で使われます。厳密には、状態を測って保全時期を決める考え方全体がCBMで、その中で将来の状態変化を予測する部分を予知保全と呼ぶこともあります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。