3つのアプローチは段階的に進める

製造業の省エネ・CO2削減でAIを使う方法は、次の3つに分かれます。後の段階ほど効果は大きくなりますが、必要なデータと仕組みも増えます。

アプローチAIの役割必要なデータ効果の出方
1. 見える化と異常消費の検知生産量や外気温で補正した基準からの外れを知らせる設備別の電力、生産実績、稼働状態待機電力、エア漏れ、設定ミスの発見
2. 設備運転の最適化空調・熱源・コンプレッサの運転条件を予測に基づいて調整する設備の運転データ、温度・圧力、外気条件ユーティリティ設備の消費削減
3. 生産計画との連動電力単価やCO2排出係数の時間変化を計画に反映する生産計画、設備ごとの消費特性、電力契約ピーク抑制、デマンドレスポンス

アプローチ1:見える化と異常消費の検知

最初の段階は、設備ごとの電力を測り、生産量で割ったエネルギー原単位で比べることです。生産量や外気温で補正した基準(ベースライン)を回帰モデルで作り、そこから外れた消費をAIで検知すると、休日の待機電力、エア漏れ、設定値の戻し忘れなどが見つかります。

米国エネルギー省(DOE)は、エネルギーマネジメントシステムの国際規格ISO 50001の認証や同省の50001 Readyを実践する施設では、3年でエネルギー性能を最大30%改善でき、産業プラントでは実施開始から15か月で平均約12%のエネルギーコストを削減したとしています。無償または低コストの運用改善だけで年3.6万〜93.8万ドルを節約できたともしており、AI以前の見える化と運用改善の効果が大きいことを示しています。

アプローチ2:設備運転の最適化

空調、熱源、コンプレッサ、冷却塔などのユーティリティ設備は、運転条件を変えても製品の品質に直接影響しにくく、AIによる最適化を試しやすい領域です。Google DeepMindは2016年7月、データセンターの数千個のセンサー(温度、電力、ポンプ速度、設定値)の履歴で深層ニューラルネットを学習し、冷却エネルギーを40%、PUE(電力使用効率)のオーバーヘッドを15%削減したと発表しました。

国内では、横河電機とJSRが2022年に強化学習AIで化学プラントの蒸留塔を35日間自律制御し、廃熱を熱源として使うことで省エネとCO2削減につなげたと発表しています。東京ガスとエイシングは熱源機器の最適制御AIを開発し、基礎研究で約5%の省エネを確認したとしています(エイシング公表)。

データセンター冷却エネルギーの削減
40%
Google DeepMind発表(2016年7月)
50001 Ready実践開始15か月での産業プラントのエネルギーコスト削減(平均)
約12%
米国エネルギー省(DOE)
エネルギー・水消費の平均削減
25%
WEFライトハウス 2025年1月コホート(AI以外の改革を含む)

アプローチ3:生産計画との連動

時間帯で電力単価やCO2排出係数が変わる場合、電力を多く使う工程(熱処理、乾燥、溶解など)をどの時間に動かすかで、コストと排出量が変わります。生産計画の最適化に電力の制約や目的を加えると、納期を守りながらピークを抑える計画を作れます。ここで使うのはAIの予測(電力単価、需要、天候)と数理最適化の組み合わせです。

WEFのグローバル・ライトハウス・ネットワークの2025年1月コホートは、エネルギー・水の消費を平均25%、Scope1・2の排出を30〜50%削減したと報告しています。Valeo(深圳)の拠点はエネルギーを27.1%削減しました。これらは先進工場の、AI以外の改革も含んだ成果です。

設備別電力計とMESの稼働状態と生産実績を紐付けたデータを土台に、見える化、運転最適化、生産計画連動の3段階が積み上がる図 土台:エネルギーデータと生産実績の紐付け設備別電力計 × MESの稼働状態・品番・生産数 × 外気条件(時刻を合わせる) 1 見える化と異常消費の検知原単位・ベースライン回帰・待機電力やエア漏れの発見 2 設備運転の最適化空調・熱源・コンプレッサの予測制御 3 生産計画との連動電力単価・排出係数を計画へ
3つのアプローチの前提になるデータの紐付け。電力の時系列を、MESの稼働状態と生産実績に結びつける。

前提はエネルギーデータと生産実績の紐付け

3つのアプローチに共通する前提は、エネルギーデータを設備単位で取り、それをどの品番を何個作っていたときのものかに結びつけることです。計測点が受電点しかないと設備別に分けられず、生産実績と結びつかないと原単位が出せません。

典型的な失敗は、計測点が足りないこと、生産量の変動を補正していないこと、品質や安全の制約を無視した設定値をAIが提案することです。設備の稼働状態(加工中・待機・停止)はMES(製造実行システム)や稼働監視から取れるため、電力のデータと時刻を合わせて結ぶ設計を最初に入れておくと、見える化から最適化まで同じデータを使い回せます。

よくある質問

省エネにAIを使うと何%削減できますか

条件によって大きく変わるため、一律の数字はありません。米DOEは産業プラントで15か月平均約12%のエネルギーコスト削減を報告していますが、これはAIに限らない運用改善を含む数字です。自社のベースラインを作ってから目標を決めてください。

CO2排出量の算定にもAIは使えますか

排出量の算定そのものは、エネルギー使用量と排出係数の計算で、AIは必須ではありません。AIが役立つのは、データの欠損補完、製品ごとの排出量の按分、削減施策の効果予測などです。

古い設備でもエネルギーデータは取れますか

取れます。クランプ式の電流センサーや後付けの電力計なら、設備の制御に触れずに設備単位の消費を測れます。稼働状態も電流値から推定できるため、見える化の第一歩として向いています。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。