中小製造業の事例に共通する3つの特徴

中小機構の「省力化ナビ」や各社の公開事例を並べると、中小製造業の成果には共通点があります。

  1. AIそのものより、データの一元化・ペーパーレス化・動画化が先にある
  2. スクラッチ開発ではなく、既製のツール(AI画像センサ、動画マニュアル、ノーコード基盤)を使っている
  3. 社内に専任のAI人材はいないが、現場の担当者がツールを使いこなし、アプリを内製するところまで進んでいる

規模による差も数字に出ています。2025年版ものづくり白書を解説したMONOistの記事によると、製造工程でデジタル技術を活用している割合は従業員301人以上で67.9%、50人以下で31.5%と、36.4ポイントの差があります。製造工程にAIを導入済みの企業は全体で12.2%(大企業31.3%)でした(JILPT調査、2025年5月)。中小製造業はまだ「デジタル化」の段階にある企業が多く、事例もそこから始まっています。

製造工程にAIを導入済みの企業(大企業は31.3%)
12.2%
JILPT調査(2025年5月)、2025年版ものづくり白書で引用
製造工程のデジタル活用率の差(301人以上67.9%、50人以下31.5%)
36.4pt
2025年版ものづくり白書(MONOistの解説、2025年6月)

用途別の事例12件

品質・検査の事例

#企業(業種・規模)取り組み成果(発表元)
1平田精工ジャパン(プラスチック成形、50人)成形データの一元管理、工程能力算出、CAE流動解析工程内不良率1.36%から0.5%、試作人員12名から8名、立ち上げリードタイム半減、売上15%増(令和元〜5年、中小機構)
2群馬合金(非鉄ダイカスト、125人)AI画像センサで型式を自動判別、自社製の生産実績モニタ異品の取り違えをなくし、手書き日報を廃止(中小機構)
3金井重要工業(不織布)既製の外観検査AIで不織布検査を自動化見落とし95%削減(ベンダーの導入事例として公表)
4ワキ製薬(医薬品)既製の外観検査AIで錠剤シート検査検査を45%高速化(ベンダーの導入事例として公表)

平田精工ジャパンの不良率改善は、AI単独ではなくデータの一元管理と工程能力の算出を含む取り組み全体の成果です。それでも、成形条件のデータを集めて見える化したことが、後の解析の土台になっている点は参考になります。3と4はベンダーの事例ページの数字で、測定の条件は公表されていません。

省人化・段取り・技能伝承の事例

#企業(業種・規模)取り組み成果(発表元)
5天昇電気工業(プラスチック、三重工場140人)動画マニュアルと動画比較ツール組立人員約75名から約50名、熟練者レベルまでの習熟期間約7分の1(中小機構)
6昭芝製作所(自動車プレス部品、108人)RFIDによる金型探索システム500型の棚卸しが約16時間から約0.5時間(中小機構)
7箔一(金箔工芸、職人約100人)スマホ動画によるナレッジ動画手元の動き・道具の角度・力加減を動画で伝承(2026年10月報道)
8三木プーリ製造ノウハウをAIエンジニアに説明できる人材の育成AIベンダーと共同で育成(2021年1月、ベンダー公表)

5〜7はAIではなく動画やRFIDの事例です。ただし、作業の動画や金型の所在データは、将来AIで作業分析や異常検知を行うときの学習データになります。技能伝承のAI活用は 技能伝承AIのガイド で扱っています。

業務のデジタル化・内製の事例

#企業(業種・規模)取り組み成果(発表元)
9大本染工(捺染、32人)受発注と生産管理のデジタル化繁忙月の残業が半分以下に。従業員がアプリを内製できるように(中小機構)
10山岸製作所(金属加工)ノーコード基盤で指導書管理アプリを内製梱包ミスのクレーム0件、材料探索を1日約2時間短縮。今後ローカルAIとの連携を構想(2026年10月報道)
11川島製作所(包装機、約300人)部品調達サービスと生産管理システム見積から納品まで約2.5か月から約0.5か月、部品コスト約25%減(中小機構)
12青柳総本家(和菓子)IoT基盤で社員食堂システムの内製から工場DXへ工場DXを1か月で実現(ベンダー公表)
中小製造業のAI活用の進み方 紙・記録のデジタル化日報・受発注・指導書 データの一元化成形条件・実績・所在 既製AIツール画像センサ・検査AI 分析・内製要因分析・ローカルAI 事例 9・10・12 → 1・6 → 2・3・4 → 1・10(構想)
中小製造業の事例は、データ化から始めてAIへ進む順番になっている。

海外の中小企業の現在地

中国でも、中小企業のAI活用は道半ばです。中国信通院の2025年調査では、AIを使う中小企業(サンプル6,000超)のうち、全業務プロセスに組み込んでいる企業は4%にとどまりました(南方財経の報道、2026年7月)。地方政府は中小企業向けに計算資源とモデル利用のバウチャー(算力券・模型券)を配ってコストを下げる施策を取っています。日本の中小製造業が「部分的な既製ツールの利用」から始めているのは、海外と比べても特別に遅れているわけではありません。

自社に当てはめる手順

中小製造業のAI導入テーマの選び方は 中小製造業のAI導入:従業員50人以下でも始められる5つのテーマ で、予算の組み方は 予算100万円以下で始める製造業AI で扱っています。補助金の全体像は 製造業AIで使える補助金の全体像 を参照してください。

よくある質問

従業員50人以下の工場でもAIは導入できますか

できます。ただし事例を見る限り、最初からAIを入れるより、記録のデジタル化と既製ツールの活用から始める工場が成果を出しています。大本染工(32人)や平田精工ジャパン(50人)は、データの一元化から成果を出しました。

社内にAI人材がいなくても進められますか

既製ツールの範囲なら進められます。事例の工場の多くは、専任のAI人材ではなく、現場の担当者がツールを使いこなしています。カスタム開発が必要になった段階で外部の支援を検討します。

中小製造業の事例はどこで探せますか

中小機構の「省力化ナビ」は、取り組みの経緯・期間・成果を事例ごとにPDFで公開しており、製造業の事例も含まれます。ベンダーの事例ページより前提条件が分かりやすい資料です。

この記事に出てくる用語

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。