低予算では「作らない」が原則

予算が100万円以下なら、AIを開発しないことが原則です。カメラの設置、データの整備、モデル開発、システム連携を含む受託開発は、この予算に収まりません。代わりに次の3つを組み合わせます。

  1. 既製ツール:AI機能付きの画像センサー、AI-OCR、生成AIのサービス、稼働監視の後付けキットなど
  2. 補助金:既製ツールの購入費や利用料の一部を補う
  3. 社内のデータ整理:紙の記録をなくす、品番や不良コードをそろえるといった、費用のかからない準備

3つ目は見落とされがちですが、効果が大きい作業です。データが整っていれば、次の段階でAIを使うときの費用が下がります。

使える補助金と、その範囲

中小製造業のAI導入で候補になる主な補助金は次のとおりです(2026年10月時点で中小機構の補助金活用ナビに掲載の内容)。

制度補助上限補助率対象AIでの使いどころ
デジタル化・AI導入補助金(通常枠)業務プロセス1〜3つで5万〜150万円、4つ以上で150万〜450万円中小1/2(最低賃金近傍の事業者は2/3)登録されたITツール登録済みのAI-OCR、生成AIサービス、生産管理ツールなど
中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)最大1,500万円1/2以内カタログに登録された製品登録済みの省力化機器
中小企業省力化投資補助金(一般型)最大1億円1,500万円までは1/2(特例2/3)、超える部分は1/3個別現場に合わせた設備・システムAI外観検査など。詳細な事業計画が必要

2026年度から、IT導入補助金は「デジタル化・AI導入補助金」に名称が変わりました。申請は登録された「IT導入支援事業者」を通す必要があり、補助対象は登録済みのITツールに限られます。このため、受託開発のAIや自社開発のAIは原則として対象にしにくい点に注意が必要です。

予算100万円以下の取り組みでは、デジタル化・AI導入補助金の通常枠で、登録済みツールの購入費や利用料の一部を補うのが最も現実的です。2026年10月7日に公表された採択結果では、通常枠4次の申請1,836者に対し採択は816者(約44%)でした(中小企業庁)。申請すれば通るものではないため、補助金がなくても実行できる計画にしておきます。各制度の詳細は補助金の全体像を参照してください。

100万円の使い方の例

予算の配分は、テーマによって変わります。例えば、紙のチェックシートのデータ化と、取り違えの防止を同時に進める場合、次のような考え方になります。

低予算でのAI導入の3段階 1 社内のデータ整理品番・不良コードの統一記録様式の見直し費用:社内工数のみ 2 既製ツールの導入登録済みツールを選ぶ補助金の申請費用:購入費・利用料 3 効果の測定導入前後の時間・件数次のテーマの判断費用:社内工数のみ
低予算での進め方。費用のかからない社内のデータ整理を先に行い、既製ツールを補助金で導入する。
  • 社内のデータ整理:チェックシートの様式を見直し、記入欄を1文字ずつの枠にする、品番の表記をそろえる。AI-OCRの読み取り精度は、帳票の設計で大きく変わります。PFUのコラム(2025年7月23日)は、読み取り範囲と字種を限定する、1文字ずつの枠にする、適切な解像度でスキャンする、の3つを精度向上策に挙げています
  • 既製ツール:AI-OCRのサービスと、AI機能付きの画像センサー1台。補助金の対象になる登録済みツールかを、IT導入支援事業者に確認する
  • 効果の測定:導入前の1枚あたりの入力時間と、取り違えの件数を記録しておき、導入後と比べる

金額の内訳は製品と構成で大きく変わるため、複数の販売事業者から見積もりを取ってください。

最初の成果を次につなげる

低予算の取り組みの目的は、大きな効果を出すことより、「データを取り、効果を測り、次の判断をする」という流れを社内で一度回すことです。そのために、導入前に次の3つを記録しておきます。

  • 対象業務の現状の時間や件数(1枚あたりの入力時間、月あたりの取り違え件数など)
  • 誰がどのツールを使うか、使い方のルール
  • 導入後に同じ指標を測る時期(1か月後、3か月後など)

記録がないと、効果があったかどうかを社内で説明できず、次の投資の判断材料になりません。AI-OCRで紙の記録がデータになれば、不良の傾向を集計できるようになり、次に品質分析のAIを検討する材料になります。

よくある質問

補助金を使えば実質の負担はいくらになりますか

補助率が1/2なら、対象経費の半分が補助されます。ただし補助対象にならない経費(社内工数、交付決定前の支出など)もあるため、総額の半分になるとは限りません。

自社に合うツールが補助金の対象かどうかはどう調べますか

デジタル化・AI導入補助金の公式サイトで登録ツールを検索できるほか、IT導入支援事業者に問い合わせると確認できます。

100万円以下で外観検査AIは導入できますか

判別しやすい対象で、AI機能付きの画像センサーで要件を満たせるなら可能な場合があります。照明や治具の新設、難しい欠陥の検出が必要なら、この予算では難しくなります。

この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。