IEC 62443の全体像

ISA/IEC 62443は、産業用自動化・制御システム(IACS)のセキュリティを扱う規格群で、14の文書が4つの階層に分かれています。

階層主な読み手AI・データ基盤で関係する主なパート
62443-1 一般全員用語、概念
62443-2 ポリシーと手順アセットオーナー(工場側)2-1 セキュリティプログラム、2-4 ソリューションサプライヤーの要件
62443-3 システムシステムインテグレータ・工場側3-2 リスク評価とシステム設計(ゾーン・コンジット)、3-3 システムのセキュリティ要件とSL
62443-4 コンポーネント製品サプライヤー4-1 安全な開発ライフサイクル、4-2 コンポーネントの技術要件

データ基盤とAIを工場に入れる側(アセットオーナー)にとって中心になるのは、3-2のゾーンとコンジットの設計、3-3のセキュリティレベル、そして機器選定で参照する4-2です。

7つの基本要件(FR)は、識別と認証制御、使用制御、システム完全性、データ機密性、データフローの制限、イベントへの適時対応、資源の可用性です。AIのデータ連携では、とくに「データフローの制限」と「データ機密性」が設計の中心になります。

ゾーンとコンジットで考える

ゾーンは、共通のセキュリティ要件を持つ資産のまとまりです。コンジットは、ゾーン間の通信チャネルを論理的にまとめたものです。IACSのすべての資産は、いずれかのゾーンに属します。

制御ゾーン、製造オペレーションゾーン、DMZゾーン、企業・クラウドゾーンの4層と、ゾーン間のコンジットを示す構成図 企業・クラウドゾーン(L4〜)ERP・レイクハウス・AI学習基盤 DMZゾーン(L3.5)データ中継サーバ・MQTTブローカー・ヒストリアン複製・パッチ配布 製造オペレーションゾーン(L3)MES・SCADA・ヒストリアン・エッジAI機 制御ゾーン(L1〜L2)PLC・DCS・センサ コンジットC1:OPC UA(読み取り) コンジットC2:外向きのみ(MQTT/TLS等) コンジットC3:外向きのみ(HTTPS)
AIのデータ連携を加えたゾーン構成の例。L3.5のDMZを経由して、外向き一方向でクラウドへ出す。

AIのデータ連携で押さえる設計の原則は次の4つです。

  1. DMZ経由の外向き一方向を基本にする:L2/L3からクラウドへの通信は、L3.5のDMZを経由し、内側から外側への接続だけを許可します。クラウド側から工場内へ接続を張る構成は作りません
  2. MQTTブローカーやエッジゲートウェイはコンジットの一部として扱う:これらは単なるサーバではなく、ゾーン間の通信を担う機器です。誰が設定を変えられるか、どのトピックを誰が書き込めるかを、コンジットの要件として定義します
  3. 推論結果で設備に書き込む場合は別のコンジットとして設計する:AIの判定で設定値を変えたり停止させたりする通信は、上位から制御ゾーンへの書き込みになり、要求されるSLが高くなります。承認フローとインターロックを設け、読み取りのコンジットとは分けます
  4. 学習データの持ち出しは機密性の要件として扱う:製品画像やレシピをクラウドへ送る場合は、どのゾーンからどのデータを出してよいかを、データの分類と合わせて決めます

Trend Microのガイドラインは、1つのコンジットに多数の複雑なプロトコルが流れている場合はゾーンが大きすぎる兆候なので見直すべきだとしています。データ基盤を後付けすると、既存のDMZに次々とプロトコルを通しがちなので注意が必要です。

セキュリティレベル(SL)の目標を決める

IEC 62443-3-3では、セキュリティレベルを4段階で定義しています。

SL守る対象の脅威
SL1偶発的な事象
SL2単純な手段・少ない資源・一般的なスキル・低い動機の意図的な攻撃
SL3高度な手段・中程度の資源・特定のスキル・中程度の動機の攻撃
SL4高度な手段・豊富な資源・特定のスキル・高い動機の攻撃

ゾーンごとに目標のSLを決め、そのゾーンに置く機器とコンジットがその水準を満たすように設計します。AIのデータ基盤を追加するときは、新しく置く機器(エッジAI機、ブローカー、ゲートウェイ)がどのゾーンに属し、そのゾーンの目標SLを下げていないかを確認します。

エッジAI機器の選定で確認すること

エッジAI機器は、62443-4-2(コンポーネントの技術要件)の観点で選びます。具体的には次の点を確認します。

  • 認証:初期パスワードの変更強制、個別アカウント、証明書による機器認証
  • 更新:OS・ライブラリ・モデルの更新を署名付きで配布できるか。サポート期間はどのくらいか
  • ログ:ログイン、設定変更、モデルの入れ替えの記録が残り、外部に転送できるか
  • 不要機能の無効化:使わないポートやサービスを止められるか

エッジAIの運用面はエッジAIとはで扱っています。

よくある質問

IEC 62443の認証を取る必要がありますか?

アセットオーナーとして認証取得が義務づけられているわけではありません。ただし、ゾーンとコンジット、SLという共通の言葉で設計すると、社内の情報システム部門、設備ベンダー、SIerとの議論が早く進みます。機器やソリューションの調達では、サプライヤー側の62443-4-1や2-4への対応を要件に入れる企業が増えています。

双方向の通信が必要な場合はどうしますか?

クラウドで学習したモデルをエッジに配布する、設定を変更するなど、内向きの通信が必要な場合は、DMZのサーバが外へ取りに行く(プル型)構成にするのが一般的です。外から工場内へ直接接続を張る構成は避けます。

NIST SP 800-82との関係は?

NIST SP 800-82 Rev.3(2023年9月)は、OT全般を対象にした米国のセキュリティガイドで、IEC 62443の考え方も参照しています。併用する考え方はNIST SP 800-82 Rev.3とはで扱います。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。