ISA-95の階層と時間軸

ISA-95(ANSI/ISA-95、国際規格としてはIEC 62264)は、企業の業務システムと製造制御システムを統合するための規格群です。パーデューモデル(Purdue Enterprise Reference Architecture)に基づき、工場のシステムを次の5階層で整理します。規格が主に扱うのは、L3とL4の間のインターフェースです。

階層名称主なシステム時間軸
L4事業計画・物流ERP、需要計画、SCM日〜月
L3製造オペレーション管理(MOM)MES、品質管理、保全管理、スケジューリング、ヒストリアン秒〜日
L2監視・監督制御SCADA、HMI、DCSサブ秒
L1センシングと操作PLC、センサ、アクチュエータミリ秒
L0物理的な生産プロセス設備・材料そのもの連続

時間軸はOPC FoundationのISA-95共通オブジェクトモデル仕様(OPC 10030)に基づきます。同仕様では、L2がサブ秒単位のリアルタイム制御、L3が秒〜日単位で保全・品質・在庫移動を扱い、L4は日〜月単位とされています。ISA-95はPart 1〜8で構成され、Part 1は2025年版(ANSI/ISA-95.00.01-2025)が最新です。

この時間軸がAIの置き場所を決めます。タクト内に判定が必要なAIをL4のクラウドに置けば間に合いませんし、全工場の需要予測をL1のPLCで回す意味もありません。

階層ごとのAIの置き場所

L4からL1までの階層と、それぞれに置くAIの例、応答時間を示すピラミッド状の図 L4 事業計画(ERP)日〜月需要予測・生産計画の最適化・調達リスク L3 製造オペレーション(MES)秒〜日品質予測・ロット判定・保全判断・スケジューリング・生成AI L2 監視・制御(SCADA)サブ秒エッジの外観検査推論・異常検知・ソフトセンサ L1 センシングと操作(PLC)ミリ秒スマートセンサ内の前処理・特徴量抽出(AI本体は置かないことが多い) L0 物理プロセス(設備・材料)
ISA-95の階層ごとのAIの例。下の階層ほど応答時間が短く、上の階層ほど扱う範囲が広い。

L1〜L2:リアルタイム推論

タクト内に結果が必要なAIはL2に置きます。外観検査AIの推論、振動や電流のリアルタイム異常検知、測定できない品質値を他の測定値から推定するソフトセンサなどです。ネットワーク越しにクラウドへ送ると遅延と通信断のリスクがあるため、ライン近くのエッジ機器で推論します。

L1(PLC)にAIの推論そのものを置くことは、現時点では少数です。ただし、センサ内で特徴量(振動の実効値や周波数成分)を計算してからデータを上位に送る形は増えています。

L3:品質・保全の判断

L3のAIは、時系列データとMESの文脈(ロット・品番・作業指示)を組み合わせて判断します。ロット単位の品質予測、予知保全の点検判断、スケジューリングの最適化、作業手順書の検索などの生成AIもここに入ります。秒〜分単位の応答で足り、MESへの結果の書き戻し(ホールド・作業指示)と直結するのがL3の特徴です。

L4:計画最適化

需要予測、全社の生産計画、調達・在庫の最適化など、日〜月単位で複数工場をまたぐAIはL4に置きます。クラウドで運用するのが一般的です。工場のデータは、L3で集計・文脈付与した形でL4に渡します。

階層をまたぐデータの流れ

AIの多くは、ひとつの階層では完結しません。外観検査AIを例にとると、データは次のように階層をまたぎます。

  1. L2のエッジで画像を推論し、判定とスコアを出す
  2. 判定結果をL3のMESに送り、ロットに紐付けてホールドや再検査につなぐ
  3. 画像と判定の履歴をL3〜L4のデータ基盤(レイクハウス)に蓄積する
  4. 誤判定のデータを集めてクラウドで再学習する
  5. 新しいモデルを検証後、L2のエッジに配布する

推論(L2)、業務連携(L3)、学習(L3〜L4)で置き場所が違うことが分かります。このため「AIはエッジかクラウドか」という問いは、推論と学習を分けて考える必要があります。判断のフローは推論はエッジかクラウドかで扱います。

階層ごとに責任者が違う

ISA-95の階層は、組織の責任分担とも対応しています。L1〜L2は生産技術や設備保全、L3は製造部門と品質保証、L4は生産管理・経営企画や情報システム部門が持つことが多いはずです。AIを置く階層によって、誰が精度に責任を持ち、誰が停止時に対応するかが変わります。

この3つが揃うと、階層が決まり、必要なデータの経路と運用体制も決まります。MESがAIに果たす役割はMESとAIの関係、ISA-95の情報モデルでAI用データを設計する方法はISA-95の4つの情報モデルでAI用データを設計するを参照してください。

よくある質問

ISA-95の階層どおりにシステムが分かれていない工場でも使えますか?

使えます。実際の工場では、MESとSCADAが一体になっている、MESがなくERPが現場の実績まで持っている、といった構成も多くあります。階層は「時間軸と責任範囲の区分」として使い、自社のシステムをどこに当てはめるかを決めてください。

Unified Namespace(UNS)はISA-95の階層をなくすのですか?

UNSは階層間のポイント・ツー・ポイント接続を減らすデータ流通の仕組みで、階層そのものをなくすわけではありません。UNSのトピック階層自体もISA-95の資産モデル(企業・拠点・エリア・ライン・セル)に沿って設計するのが一般的です。

生成AIはどの階層に置きますか?

作業手順書の検索や不具合報告の下書きなど、現場の業務を支援する生成AIはL3、経営・計画の分析支援はL4に位置づけるのが自然です。MESや設備のデータに生成AIからアクセスさせる場合は、読み取り専用から始め、書込みは承認を経由させてください。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。