6種類のデータと使い道
製造業AIで使うデータは、次の6種類に分けられます。
| 種類 | 例 | 主な発生源 | 主な保存先 | AIでの使い道 |
|---|---|---|---|---|
| 1. 画像・動画 | 製品の外観、作業の様子 | カメラ、画像センサー | ファイルサーバー、オブジェクトストレージ | 外観検査、作業分析、安全監視 |
| 2. 時系列(センサー) | 振動、温度、電流、圧力 | センサー、PLC | ヒストリアン、時系列DB | 予知保全、異常検知、品質予測 |
| 3. 実績 | 作業指示、ロット、生産数、停止理由 | MES、生産管理 | MES、データベース | 需要予測、生産計画、学習データの紐付け |
| 4. 品質 | 検査結果、不良コード、測定値 | 検査装置、MES、QMS | MES、QMS | 学習ラベル、品質分析、要因分析 |
| 5. 文書 | 作業手順書、図面、保全記録、不具合報告 | 各部門 | ファイルサーバー、PLM、CMMS | 生成AIでの検索・回答(RAG)、文書作成 |
| 6. 音声・音響 | 設備の動作音、打音、作業者の発話 | マイク | ファイルサーバー、時系列DB | 異音検知、音声入力 |
種類ごとの取り方と注意点
1. 画像・動画
外観検査AIの精度は、撮像条件でほぼ決まります。照明、カメラの解像度、ワークの位置決めを先に固め、欠陥が画像に写ることを確認してから集めます。画像はデータ量が大きいため、全量を長期保存するか、不良と判定されたものだけを残すかを決めておきます。
2. 時系列(センサー)
振動や電流は、サンプリング周期で取れる情報が変わります。ヒストリアンは保存容量を抑えるために変化の小さいデータを間引く(デッドバンド圧縮)ことが多く、その結果、異常の兆候になる高い周波数の特徴が消えることがあります。タグ名が設備ごとにばらばらで単位や設備IDが付いていない、機器間で時刻がずれている、といった問題もよく起きます。
3. 実績
作業指示、ロット、品番、設備、作業者、開始・終了時刻、停止理由といったデータで、MESや生産管理システムが持っています。需要予測では、出荷実績だけでなく受注の実績が望ましいとされます。欠品があると出荷実績では需要が隠れるためです。
4. 品質
検査結果、不良コード、測定値です。AIの学習に使う「正解ラベル」の供給元になります。不良コードの定義が工場や担当者で違うと、ラベルが揺れ、AIの精度に上限ができます。
5. 文書
生成AIで社内の知識を検索・回答する仕組み(RAG)では、作業手順書、図面、保全記録が材料になります。古い版の文書を参照して誤答しないよう、版数や対象設備のメタデータを付けて管理します。詳しくは製造業のRAGの基礎で扱っています。
6. 音声・音響
設備の異音検知では、正常な音だけで学習して異常を見つける方式がよく使われます。日立が公開したMIMIIデータセット(2019年)は、バルブ・ポンプ・ファン・スライドレールの4機種の動作音を8チャンネルのマイクで録音したもので、異音検知の研究の基盤になっています。工場では周囲の騒音が大きいため、マイクの位置と、他の設備の音の混入への対策が要ります。
MESの実績・品質データが「つなぐ鍵」になる
6種類のデータのうち、画像や時系列は単独ではAIに使いにくいデータです。振動データがあっても、それが「どの品番を、どのロットで、どの条件で加工していたときのデータか」がわからなければ、学習にも評価にも使えません。
このコンテキストを持っているのが、MES(製造実行システム)の実績・品質データです。MESは、AIに対して3つの役割を果たします。
- 学習ラベルの供給元:良否、不良コード、停止理由
- データを紐付けるキー:時系列や画像を、ロット・品番・設備・時刻で結び付ける
- 判定結果の出口:AIの判定をホールド、再検査、作業指示として工程に戻す
例えば、射出成形の品質予測を考えます。成形機の圧力や温度の時系列データだけでは、どのショットがどの製品になり、その製品が良品だったか不良だったかがわかりません。MESのロット・品番の実績と、検査の品質データを時刻で突き合わせて初めて、「この圧力の波形のときに、この不良が出た」という学習データになります。
紐付けのためには、時刻の同期(機器間で時計をそろえる)と、品番・設備のマスタの統一が前提になります。具体的な設計はMESのデータをAIに使う方法で扱っています。
よくある質問
どの種類のデータから集めればよいですか
取り組むAIのテーマで決まります。外観検査なら画像と品質、予知保全なら時系列と保全記録、需要予測なら受注と出荷の実績です。どのテーマでも、MESの実績との紐付けは共通して必要です。
MESがない工場ではどうすればよいですか
生産管理システムや日報のデータで、ロット・品番・時刻を記録できていれば代わりになります。紙の日報しかない場合は、まず実績の記録をデジタル化することから始めます。
データはどのくらいの期間保存すべきですか
用途によって違います。需要予測では季節性を見るために最低2周期分(月次なら2〜3年)が目安とされます。画像は容量が大きいため、不良と判定されたものと、評価用のサンプルを優先して残します。
この記事に出てくる用語
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PoCは成功したのに本番で止まる。原因の多くはモデルではなく、MESと設備データの側にある 全130本
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