MESデータの8種類とAI用途の対応表

MESのデータは、AIにとって「特徴量(入力)」「ラベル(正解)」「紐付けのキー」のいずれか、または複数の役割を持ちます。次の表は、MESの代表的なデータを8種類に分け、使えるAI用途を整理したものです。

#データ主な項目AIでの役割主な用途
1作業指示品番、数量、工程、レシピ、計画開始・終了特徴量・キー品質予測、生産計画、需要と能力の分析
2生産実績着手・完了時刻、良品数・不良数、サイクルタイム特徴量・キーOEE分析、サイクルタイム予測、品質予測
3停止理由停止開始・終了時刻、停止理由コード、コメントラベル・特徴量予知保全、チョコ停分析、停止要因分析
4品質判定良否、不良コード、判定者、判定時刻ラベル外観検査AI、品質予測、要因分析
5検査測定値寸法、重量、電気特性などの測定値と規格値ラベル・特徴量回帰による品質予測、工程能力の監視
6設備状態稼働・停止・段取り・故障の状態遷移、設備ID特徴量・キー稼働分析、予知保全の前処理
7作業者作業者ID、スキル、シフト、作業時間特徴量技能差の分析、作業時間予測
8材料ロット・系譜投入部材のロット、供給元、投入時刻特徴量・キー品質要因分析、トレーサビリティ、ドリフト検知

この表で重要なのは、3(停止理由)と4(品質判定)がラベルの供給源になることです。ラベルの質はAIの精度の上限を決めます。どれだけ高度なモデルを使っても、ラベルが「その他」や判定者によって揺れる値であれば、精度はそこで頭打ちになります。

MESデータ8種類を、特徴量、ラベル、紐付けキーの3つの役割に分類した図 特徴量(入力) 作業指示・レシピ生産実績・サイクルタイム設備状態作業者・シフト材料ロット ラベル(正解) 品質判定・不良コード停止理由コード検査測定値粒度と一貫性が精度の上限を決める 紐付けのキー ロットID・シリアル設備ID着手・完了時刻作業指示番号
MESデータの役割の内訳。ラベルになるデータ(停止理由・品質判定・検査測定値)の粒度が精度の上限を決める。

停止理由と品質判定:粒度が精度に効く

停止理由コードは予知保全とOEE分析の主要なラベルです。よくある問題は3つあります。

  • 「その他」「調整」など、原因を表さないコードの比率が高い
  • コードの階層がなく、「チョコ停」と「故障停止」の区別しかない
  • 停止の開始・終了時刻が手入力で、実際の停止とずれている

予知保全AIで「軸受の摩耗による停止」を予測したくても、停止理由が「設備故障」の1コードしかなければ、故障モードの区別ができません。停止時刻が手入力で数分ずれていれば、停止直前の振動波形を正しく切り出せません。停止の開始・終了は設備の信号(稼働信号の立ち下がり・立ち上がり)から自動で取り、理由だけを人が入力する設計が望ましい形です。

品質判定も同様です。不良コードが外観・寸法・機能の3区分しかない、判定者によって同じ傷が「キズ」と「打痕」に分かれる、といった状態は、外観検査AIや品質予測の精度を直接下げます。コード体系の見直し方は不良コード・停止理由コードの設計で扱っています。

作業指示・実績・材料ロット:文脈を与えるデータ

作業指示・生産実績・材料ロットは、時系列データに文脈を与えます。品質予測AIで「この条件のときに不良が出やすい」と学習させるには、プロセスの時系列に加えて、品番・レシピ・材料ロット・作業者が特徴量として必要です。

実装で確認すべき点は次のとおりです。

  • 生産実績の時刻精度:着手・完了が分単位か秒単位か、実際の作業時刻か入力時刻か
  • 作業指示とレシピの紐付け:レシピの版数(改訂番号)まで記録されているか
  • 材料ロットの投入記録:どの部材ロットをいつどの工程に投入したかが記録されているか。連続供給の材料(樹脂ペレット、液体)は切替時刻が記録されているか
  • 作業者の記録:個人IDで記録されているか、班やシフト単位か。個人単位で分析する場合は社内規程と本人への説明が必要

特に材料ロットは、品質の要因分析とドリフト検知の両方で効きます。材料ロットが変わったときに精度が落ちるAIは多く、ロットの切替時刻が分かれば、精度劣化の原因を切り分けられます。材料・部材の系譜を使った分析はトレーサビリティ×AIで扱います。

使う前の確認手順

MESのデータをAIに使う前に、次の手順で状態を確認します。

  1. 対象工程と対象期間を決め、8種類のデータそれぞれの有無と記録方法(自動・手入力・紙からの転記)を表にする
  2. ラベルにするデータ(停止理由・品質判定)のコード別件数を集計し、「その他」や未入力の比率を確認する
  3. 時系列データとの紐付けを試しに100件程度行い、紐付けられない件数と原因を確認する
  4. 過去データの期間中に、品番の改番、コード体系の変更、設備の更新がなかったかを確認する
  5. 個人データ(作業者ID)を使う場合の社内規程を確認する

MESとAIの関係の全体像はMESとAIの関係、データ品質の問題の全体は製造データ品質の10の問題を参照してください。

よくある質問

過去何年分のMESデータがあれば学習に使えますか?

年数より、対象とする事象(不良・故障)の件数が重要です。不良や故障の発生件数が数十件しかなければ、年数が長くても教師あり学習は難しく、異常検知など別の手法を検討します。また、古いデータはコード体系や設備が今と違うことが多い点にも注意してください。

作業者のデータを使うことに問題はありませんか?

作業者IDは個人情報にあたる場合があり、評価や監視に使うと受け止められると現場の協力が得られません。利用目的を限定し、就業規則・社内規程に沿って説明したうえで、分析では個人を特定しない集計単位を基本にしてください。

MESのコメント欄の自由記述は使えますか?

生成AIを使えば、自由記述から不良現象や処置内容を分類・抽出できます。ただし記述の量と質にばらつきがあるため、ラベルとして使う場合は抽出結果を人が確認する工程を入れてください。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。