「質問に答える」から「画面を作る」へ
2026年の前半まで、Critical ManufacturingのAIは利用者の質問に答える役でした。2月3日付の記事では、MES CopilotとAnalytics Copilotが自然言語でMESのデータを問い合わせ、傾向や実績を確かめる機能として紹介されています。10月20日に発表されたVersion 12.0では、これに加えて、ダッシュボードや画面そのものを生成する「Gen AI Build」エージェントが入りました。
同社はMESを中核製品とするベンダーで、今回の発表では半導体・電子・医療機器・産業機器を対象業種に挙げています。Version 12.0の発表は「Make every decision count」という題目で、AIエージェントのほか、複数工場のマスタデータを同期する追加モジュールと、役割別の作業画面を含みます。
同じ時期、ERPや現場アプリの側からも製造業向けエージェントが相次いで出ています。InforのManufacturing Agent、TulipのAI Agents、PokaのAI Studioです。どれも「エージェント」を名乗りますが、拠って立つデータの場所が違います。以下では、MESの内側から出てきた流れと、業務アプリの側から出てきた流れを分けて並べます。
2本の流れを1枚の年表に並べる
左がMESベンダーであるCritical Manufacturingの動き、右がERP・現場アプリ側の動きです。日付は各社の発表または記事の公開日で、11月12日だけは予定です。
右の流れは4月から10月にかけて間隔が詰まり、10月だけで2件あります。InforはERPの業界データモデルを、PokaとTulipは現場の手順や記録のアプリを足場にしています。左の流れは、2月の時点ですでに「MESと統制されたデータとAIを1つにまとめる」と説明しており、10月のVersion 12.0はその延長線上にあります。
年表に載せたのは、一次情報か業界メディアの記事で日付を確かめられた出来事だけです。Tulipについては10月にもAI機能の追加が報じられていますが、今回は発表元の記事を開けなかったため年表から外し、8月13日公開の解説ページで確認できた事実だけを載せました。PokaとTulipのエージェント基盤の違いは9項目の比較で整理しています。
Version 12.0で発表された4つの要素
発表の中身は、業界メディア2紙(Electronics Media・i4.0 Today)の記事で内容が一致しています。同社サイトのプレスリリース一覧からは、記事執筆時点で原文を確認できませんでした。
| 要素 | 同社の説明(要旨) | MES実装の観点で見る点 |
|---|---|---|
| Gen AI Buildエージェント | 用途に合わせたダッシュボードや画面を生成する。版管理と検証ができ、アップグレード後も引き継がれる。会話で直すことも手で編集することもできる | 生成物がコードではなく「統制された設定」として扱われるとされる。誰が承認して本番に出すかの手順が要る |
| Gen AI Askエージェント | 製品定義・資源・生産の流れといった製造の文脈を使って自然言語の質問に答える。KPIと傾向の分析、シフト引継ぎ向けの専用エージェントがある | 回答の根拠がMESのどの記録かを利用者が確かめられるか |
| 利用者のエージェント | 製造業者が自社のエージェントを同じカタログに追加できる | 自社エージェントがデータモデルのどこまで読めるか、書けるか |
| Global Data Orchestrator(追加モジュール) | 複数拠点のマスタデータを中央で調整・同期する。管理された変更パッケージと、本番前の試行検証(dry-run)を使う。CoE(中核推進組織)の活動を支える | 品番・工程・設備のマスタを拠点ごとに持つ構成で、どこまでを本社管理にするかの線引き |
4つとも、同社が「Canonical Data Model」と呼ぶ共通のデータモデルの上に置かれています。製品・資源・生産の流れ・操業データを1つの構造で持ち、プラットフォームとエージェントがそれを共有する、という説明です。ISA-95の4つの情報モデルで言えば、材料・設備・工程の定義と実績が同じ箱に入っている状態に近いものです。このほか、作業者・監督者・品質管理者など役割別の画面(User Workspaces)も加わり、同社は教育時間と入力ミスを減らせる可能性があるとしています。効果の数字は発表に含まれていません。
MES発のエージェントと業務アプリ発のエージェントは何が違うか
ここからは編集部の見立て(推測)です。
業務アプリ側のエージェントは、足場のシステムに入っているデータの範囲で強く動きます。InforのManufacturing Agentは是正処置の「開始」まで担うと説明されていますが、以前の記事で整理したとおり、ERPに工程実績や停止理由が届いていなければ、見えている範囲の答えしか返せません。PokaやTulipは現場の手順や記録に近い一方、ロットの系譜や工程の定義はMESや別システムからつないで持ってくる構成が多くなります。
MES発のエージェントは逆の性格を持ちます。製品定義、工程の流れ、ロットの実績がもともと同じデータモデルにあるので、「この品番のこの工程で、先週から不良が増えたのはどのロットか」という問いに、つなぎ込みの作業なしで答えられる見込みがあります。その代わり、MESの外にある受注・在庫・原価や、MESに載っていない設備データは見えません。Critical Manufacturingが「より良いモデルではなく、統制されたデータが答えだ」と打ち出しているのは、この性格を売りにしているからだと編集部は見ています。
もう1つの違いは、エージェントが作ったものの扱いです。Buildエージェントが作る画面は、同社の説明ではMESの設定として版管理されます。現場アプリ側でノーコードのエージェントや画面が増えると、11月25日予定のポッドキャスト回の題目にあるような「管理されないAI製アプリの乱立」が起きやすくなります。MES側で版管理する方式はこの点で有利ですが、設定の変更管理をMESの手順に乗せる分、作ってから使うまでの手続きは重くなります。
年表から読み取れる今後の日程
確定している日程は、11月12日(中央ヨーロッパ時間9時)に始まる同社のポッドキャスト「The Thinking Factory」だけです。同社のページでは、第1回が「The Moment After Data」で、続く回として11月18日に「AIに要るのはプロンプトではなくデータモデル」、11月25日に「統制を失わずに拡張する」、12月2日に「カスタマイズは決断である」という趣旨の題目が並んでいます。ページに年の記載はありませんが、10月21日付のi4.0 Todayの記事が第1回を11月12日開始と書いています。
Version 12.0の一般提供の時期、価格、既存顧客のアップグレード手順は、確認できた資料に記載がありません。日本の販売・導入体制についても、今回の発表には触れられていません。MESの更新計画がある工場では、メジャーバージョンの切り替えがエージェント機能の前提になるかどうかを、提供元か導入パートナーに確かめてください。
よくある質問
Critical ManufacturingのVersion 12.0は、いつから使えますか?
10月20日・21日付の業界メディアの記事は、エージェント機能がVersion 12.0に含まれると伝えていますが、一般提供の日付や地域は書かれていません。Global Data Orchestratorは追加モジュールとされており、標準機能とは別の扱いです。契約と提供時期は同社か導入パートナーへの確認が必要です。
AskエージェントとMES Copilotは同じものですか?
2月の時点ではMES CopilotとAnalytics Copilotが自然言語で問い合わせる機能として紹介され、10月のVersion 12.0ではAskエージェントが製造の文脈を使って質問に答えると説明されています。両者の関係(名称の変更か、別機能か)は、確認できた資料には書かれていません。
他社のMESを使っている工場にとって参考になる点はありますか?
エージェントの精度をデータモデルの側で担保するという考え方は、製品を問わず使えます。自社のMESで品番・工程・ロットの定義と実績が1つの構造で取り出せるかを確かめておくと、どのベンダーのエージェントを評価する場合でも比較の土台になります。
- Critical Manufacturing Version 12.0(Electronics Media、2026年10月20日)
- Critical Manufacturing Expands Industrial Operations Platform with Purpose-Built AI Agents(i4.0 Today、2026年10月21日)
- The Thinking Factory/Make every decision count(Critical Manufacturing、2026年10月閲覧)
- Product Demonstration: Critical Manufacturing to Showcase AI-Ready Manufacturing Operations Platform(Medical Design Briefs、2026年2月3日)
- Infor and AWS Bring Agentic AI to Manufacturing at Enterprise Scale(Infor、2026年4月20日)
- Built to execute, not just advise: AI innovations in the Infor 2026.10 release(Infor、2026年10月6日)
- Tulip AI Agents(Tulip Knowledge Base、2026年8月13日)
- Poka's New Platform Brings Industrial AI to Shop Floors(Advanced Manufacturing、2026年10月15日)
この記事に出てくる用語
AIは「データ基盤」で決まる
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