禁止より「安全な環境の提供」が漏えいを減らす
生成AIの情報漏えいは、大きく2つの経路で起きます。1つは、入力したデータがサービス側で学習やログに残り、意図しない形で外部に出る経路です。もう1つは、会社が認めていない個人向けサービスに、従業員が業務データを入力する経路です。
全面禁止は1つ目の経路を断ちますが、2つ目の経路を増やします。総務省の令和8年版情報通信白書では、日本企業で生成AIを「積極的に活用」または「領域を限定して利用」する方針の企業が68.9%に達しました(2025年度の企業向け調査)。業務で生成AIを使うことが前提になりつつある中で、会社が安全な環境を用意しなければ、従業員は手元の無料サービスを使います。
対策の基本は、学習に使われない契約の企業向け環境を用意し、そのうえで入力してよい情報の範囲を機密区分ごとに決めることです。
項目1:機密区分ごとに入力してよい環境を決める
製造業で特に注意が必要な情報を、機密区分と対応させます。
| 情報の種類 | 例 | 入力してよい環境の目安 |
|---|---|---|
| 顧客から預かった図面・仕様 | 顧客図面、製品仕様書、試作情報 | 秘密保持契約で許される範囲のみ。原則は閉域・オンプレ |
| 自社の設計・製造ノウハウ | 自社図面、工程条件、レシピ、検査基準 | 閉域クラウドまたはオンプレ |
| 不具合・品質情報 | 不具合報告、クレーム、品質記録 | 学習利用なしの企業向け環境。顧客名・品番の扱いに注意 |
| 個人情報 | 従業員・取引先担当者の氏名、評価 | 目的と範囲を限定。原則入力しない |
| 一般社内文書 | 社内規程、議事録、メール | 学習利用なしの企業向け環境 |
| 公開情報 | カタログ、公開資料 | 制限なし |
区分の考え方と、データを社外に出さない構成の選択肢は図面を社外に出さない4つの構成で扱っています。
項目2〜4:ツール・契約・アカウントの管理
- 使ってよいツールを一覧にする。会社が契約したサービスと、その用途・機密区分の上限を一覧で示し、一覧にないサービスは業務で使わない
- 契約条件を確認する。入力データ・出力データの学習利用の有無、データの保存地域、ログの保存期間、削除要請への対応を契約書で確認する
- 会社のアカウントで使わせる。個人のアカウントではなく、会社が管理するアカウント(シングルサインオン)で使わせると、退職時の停止や利用状況の把握ができる
項目5:プロンプトの外からの漏えいに備える
社内文書RAGやAIエージェントを導入すると、従業員が入力する情報だけでなく、AIが参照する文書からの漏えいも問題になります。
- RAGの検索対象の文書に、利用者のアクセス権を反映させる。権限のない部署の図面や原価情報が回答に混ざらないようにする
- 外部から受け取った文書(取引先のメール添付、Webページ)をAIに読ませるとき、文書に埋め込まれた指示でAIの動作が変えられる「プロンプトインジェクション」の対策をとる
OWASPが公開しているLLMアプリケーションのリスク一覧(2025年版)では、プロンプトインジェクションと機密情報の漏えい(Sensitive Information Disclosure)が上位に挙げられています。製造業に当てはめた解説はOWASP LLM Top 10を製造業に当てはめるで扱っています。
項目6・7:ログ管理と事故時の対応
項目6:ログを残し、定期的に確認する
会社が提供する生成AI環境では、誰が・いつ・どのツールに・何を入力したかのログを残します。目的は従業員の監視ではなく、事故が起きたときに範囲を特定し、ルールの改善点を見つけることです。
- ログの保存期間を決める(例:1年)
- 機密区分の高いキーワード(顧客名、プロジェクト名、図番の書式)を含む入力を定期的に抽出し、ルールの周知が必要な部署を把握する
- ログの閲覧権限を限定し、閲覧の記録も残す
ログの取得と目的は、利用規程に明記して従業員に説明します。
項目7:事故時の連絡と対応を決めておく
誤って機密情報を入力したとき、従業員がすぐに報告できる窓口と、報告した人を責めない方針を決めておきます。報告が早ければ、サービス提供元へのデータ削除の要請や、顧客への連絡などの対応がとれます。報告すると処分される雰囲気では、事故は隠されます。
よくある質問
企業向けの有料プランなら図面を入れても大丈夫ですか
学習に使われない契約であっても、データはサービス提供元の環境で処理され、一定期間ログに残ることがあります。顧客から預かった図面は、顧客との秘密保持契約で第三者への提供が制限されている場合があるため、契約の条件を確認してください。
入力前に機密情報を自動で検知する仕組みは有効ですか
顧客名や図番の書式など、パターンで検知できる情報には有効です。ただし文章の文脈に含まれる技術ノウハウは検知しにくいため、教育と環境の分離を併用する必要があります。
協力会社や派遣社員にも同じルールを適用しますか
適用します。社内環境を使わせる場合は同じ規程に同意してもらい、自社の環境を使わせない場合は、業務データを外部の生成AIに入力しないことを契約や誓約書で定めます。
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