結論:「正解が文書にあり、人が確かめられ、誤りが安い」業務から

生成AIに向く業務の条件は3つにまとめられます。正解(あるいは正解の根拠)が社内文書やデータとして存在すること、出力を人が最終確認する工程があること、誤ったときの損失が小さいことです。逆に、設備の制御値や製品の合否のように、出力がそのまま物や安全に影響する業務は、生成AIに直接決めさせる用途には向きません。

この条件を実務で使える形にしたのが、次の5つの判定基準です。

5つの判定基準

基準問い高得点(向く)低得点(向かない)
1. 根拠の所在正解の根拠が文書・データにあるか手順書、過去報告書、規格書に書いてある熟練者の頭の中にしかない
2. 確認工程出力を人が確認してから使うか担当者が読んでから送付・承認する出力がそのまま設備や顧客に届く
3. 誤りのコスト誤ったときの損失は小さいか手戻り数分で済む品質事故・安全事故・リコール
4. 頻度と量同じ種類の作業が繰り返し発生するか週に数十件の問い合わせ・報告年に数回の特殊業務
5. 評価可能性出力の良し悪しを測る基準を作れるか正解付きの質問セットを作れる良し悪しが人によって違う

各基準を1〜3点で採点し、合計12点以上を第一候補、9点以下を見送りの目安にします。ただし基準3(誤りのコスト)が1点の業務は、合計点にかかわらず「生成AIに決めさせない」扱いにします。

候補業務を誤りのコスト、合計点の順で判定するフロー 候補業務 誤りのコストが致命的か 生成AIに決めさせない(検索・下書き補助のみ) 5基準で採点(各1〜3点) 12点以上第一候補 10〜11点条件整備後 9点以下見送り はい いいえ
判定の流れ。誤りのコストで先にふるい、残りを合計点で並べる。

製造業の典型業務を判定した例

以下は一般的な工場を想定した採点例です。自社の状況で点数は変わるため、実際には現場と一緒に採点してください。

業務根拠確認誤り頻度評価合計判定
過去トラ・不具合報告の検索3333315第一候補
作業手順書の検索3223313第一候補(版管理が前提)
8Dレポートの下書き3322212第一候補
海外工場向け指示の翻訳2323212第一候補(安全文言は人手)
設備故障の原因候補の提示2322211保全記録の整備後
MESデータへの自然言語質問2223211マスタ整備後
PLCコードの生成23122—決めさせない(検証ループ前提で補助のみ)
外観検査の合否判定11133—決めさせない(予測AIの領域)

手順書検索が満点にならないのは、旧版の手順書を参照した回答を現場がそのまま使う危険があるためです。この点は作業手順書RAGの作り方で扱う版管理で補えます。

「向かない」と判定した業務の扱い

向かないと判定した業務でも、生成AIを周辺で使う余地は残ります。外観検査の合否判定を生成AIにさせるのは避けるべきですが、不良画像の分類ルールの文書化や、検査員向けの判定基準書の下書きには使えます。PLCコードも、生成AIに書かせたコードをそのまま設備に入れるのではなく、既存コードの説明やコメント付けから始める使い方があります。

判定に入れておきたいデータ基盤の観点

基準1(根拠の所在)は、文書だけでなくデータの状態も見ます。不具合報告がExcelとメールに分散している、MESの不良コードが「その他」に偏っている、といった状態では、生成AIは根拠を見つけられません。この場合の点数は低く付け、先にデータを整える計画を立てます。

ベンダーが示す効果の数字も判定の参考になりますが、前提に注意が必要です。SAPは2025年7月の発表で保全計画エージェントの「生産性最大40%向上」を示しましたが、これはベータ版時点の見込み値です。Siemensの「生産性最大50%」は将来の構想として示されたもので、実測ではありません(各社発表)。数字の読み方は生成AIベンダーの効果数値の読み方で整理しています。全体の用途マップは製造業の生成AI活用の全体像を参照してください。

よくある質問

熟練者の頭の中にしかないノウハウは、生成AIの対象外ですか?

そのままでは対象外です。インタビューや作業動画で文書化し、熟練者が内容を確認した後であれば、検索や質問応答の対象にできます。文書化の工程自体に生成AIを使うこともできます。

採点の結果、候補がすべて10点以下になりました。どうすればよいですか?

多くの場合、基準1(根拠の所在)と基準5(評価可能性)が低いことが原因です。生成AIより先に、不具合報告や手順書のデジタル化と版管理を進めるほうが効果的です。

誤りのコストが高い業務で、生成AIを使ってよい場面はありますか?

検索結果の提示と下書き作成に限れば使えます。最終判断は人が元文書や測定値に基づいて行い、生成AIの出力を判断の根拠として記録しない運用にします。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。