MCPは「AIと社内システムをつなぐ共通の口」

MCP(Model Context Protocol)は、Anthropicが2024年11月25日に発表したオープン標準です。AIアシスタントを、データが存在するシステムに接続するための共通の仕組みで、仕様、SDK、参照用のサーバー群が公開されています。

これまでは、生成AIをMESやヒストリアンにつなぐには、AI製品ごとに個別の連携を作る必要がありました。MCPでは、データを持つ側が「MCPサーバー」を1つ用意すれば、MCPに対応した複数のAI(MCPクライアント)から同じ方法で使えます。工場のシステム連携でOPC UAが果たしてきた役割を、AIとの接続で担うものと考えるとわかりやすいでしょう。

仕様の要点:3つの機能と、安全は実装者の責任

MCP仕様(2025-06-18版)は、JSON-RPC 2.0でホスト(AIアプリ)、クライアント、サーバーをつなぎ、サーバーが次の3種類の機能を提供する構成です。

機能内容製造業での例
ResourcesAIに読ませるデータや文書作業手順書、設備マニュアル、品質規格
Prompts定型の指示テンプレート「8Dレポートの下書き」「停止分析」の雛形
ToolsAIが呼び出せる処理稼働データの照会、保全依頼の起票

製造業で特に重要なのは、仕様がToolsについて「ツールは任意のコード実行を表す」と位置づけている点です。ホストはツールを呼び出す前にユーザーの明示的な同意を得なければならず、ツールの説明文(注釈)も信頼できるサーバー以外からのものは信頼すべきでないとしています。さらに仕様は、MCP自体がプロトコルのレベルでこれらのセキュリティ原則を強制することはできないと明記し、同意と認可の流れを実装者が作るよう求めています。

製造業の使い方3例

MCPの工場での使い方を、リスクの低い順に3つ示します。

AIアプリからMCPサーバーを経由して工場システムにつながる構成図 AIアプリ(MCPホスト) 文書MCPサーバーResources:手順書・規格 稼働データMCPサーバーTools:照会のみ 保全MCPサーバーTools:起票(承認必須) 文書管理・PLM MES・ヒストリアン CMMS PLC・設備(公開しない)
工場でのMCP構成例。読み取り中心のサーバーをIT側に置き、OTへの書き込みは公開しない。

1つ目は、文書の検索です。作業手順書、設備マニュアル、品質規格をResourcesとして公開し、AIが質問に応じて参照します。読み取りだけなので、リスクは情報の参照範囲に限られます。社内文書RAG(検索拡張生成)をMCP経由で提供する形と考えられます。

2つ目は、稼働データの照会です。MESやヒストリアンの上に「ライン別の停止時間を返す」「ロット番号から工程履歴を返す」といった照会専用のツールを作ります。生のテーブルにSQLを自由に投げさせるのではなく、業務の意味を持った単位でツールを用意するのがポイントです。

3つ目は、保全依頼の起票です。CMMSへの起票をツールとして公開しますが、ホスト側で人の承認を必須にします。起票は取り消しが容易で、影響が限られる書き込みです。

工場に入れるときの5つの設計ルール

  1. MCPサーバーはIT側(L3〜L4)に置き、設備(L0〜L2)に直接つなげない。OTデータはヒストリアンやMES経由で読む
  2. ツールは読み取りと書き込みを別のサーバーに分ける。書き込みサーバーは公開先のAIアプリを限定する
  3. 書き込みツールは、ホスト側で人の承認を必須にする
  4. サーバーごとに認証・認可を設定し、AIアプリやユーザーごとに使えるツールを絞る
  5. ツール呼び出しのログ(呼び出し元、入力、結果、承認者)を保存する

権限の段階的な広げ方はMES・ERPを操作させる権限設計、プロンプトインジェクションなどのリスクはOWASP LLM Top 10を製造業に当てはめるで扱っています。

産業界の動き:OPC UAとの接続、製品の対応

MCPへの対応は産業界でも進んでいます。OPC Foundationは2026年4月20日、430以上のOPC UAコンパニオン仕様をRAG・MCP・AI支援エンジニアリング向けの「AI-ready」形式に変換する取り組みを発表しました(詳しくはMCP×OPC UA)。製品では、LitmusがLitmus MCP Serverを、Sight MachineがMCPサーバー経由での工場インテリジェンスの公開を掲げ、Tulipは2026年10月にネイティブMCPコネクタをプレビューとして発表しています。中国でも、海爾系の卡奥斯(COSMOPlat)の工業エージェント開発基盤がMCPに対応したと報じられました(中国電子報、2025年7月)。

MCPは標準として広がりつつありますが、仕様そのものが安全を保証しない点は変わりません。製品がMCPに対応していることは接続のしやすさを示すだけで、権限設計の代わりにはなりません。

よくある質問

MCPを使わずにAIをMESにつなぐ方法はありますか

あります。各AI製品の独自コネクタやREST APIで個別に連携する方法です。MCPの利点は、一度サーバーを作れば複数のAIから同じ方法で使える点にあります。AIを1種類しか使わないなら、個別連携でも十分な場合があります。

MCPサーバーは自社で作る必要がありますか

文書管理やデータベース向けの汎用サーバーは公開されているものもありますが、MESのデータモデルに合わせた照会ツールは自社またはMES導入ベンダーと作ることになります。精度を左右するのは、この業務単位のツール設計です。

OPC UAとMCPはどちらを使うべきですか

役割が違います。OPC UAは設備とシステムの間でデータと情報モデルをやり取りする規格で、MCPはAIとシステムの間の接続口です。工場ではOPC UAで集めたデータを、MCP経由でAIに渡す組み合わせになります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。