3つの領域でAI機能を展開

PTCは、製品ライフサイクルの「デジタルスレッド」(要件から設計、製造、サービスまでをつなぐデータの流れ)全体にエージェント型AIを展開する戦略を掲げています。2026年10月時点の公開情報から、主な機能を領域別に整理すると次のとおりです。

領域製品・機能主な内容提供状況(公開情報)
要件管理(ALM)Codebeamer AI(生成AI Copilot)要件の作成・管理の支援Microsoft・Volkswagen Groupと共同開発。ベータは2025年初頭予定とされた。PTCニュースルームでCodebeamer AI 1.2を告知
PLMWindchill AIWindchillの製品データを使う生成AIアシスタント。文書から品質情報・部品仕様・試験結果を抽出する Document Vault AI Agentを含む2025年3月にプレビュー
サービスServiceMax AI、Servigisticsマルチエージェント実行とKnowledge API、トラブルシュート・根本原因分析のエージェント型AI2025年9月発表。Servigistics AI Assistantは2025年10月に一般提供
CADOnshape(FeatureScript MCP Server、Onshape Labs)クラウドCADのMCP対応、AI早期アクセスプログラムPTCニュースルームで告知
保全PTC OrbitAI搭載の保全資産インテリジェンスPTCニュースルームで告知

サービス領域の発表(2025年9月30日)は、日本語版も2025年10月2日に公開されています。

要件・設計・PLM・製造・サービスのデジタルスレッドとPTCのAI機能の対応 要件Codebeamer AI 設計Onshape(MCP) PLMWindchill AI 製造MES・ERP(他社) サービスServiceMax AI デジタルスレッド 製造領域との接続(設計変更・品質情報の受け渡し)は利用企業側の設計に依存
PTCのAI機能をデジタルスレッド上に配置した図。重心は設計の前後(要件・製品データ・サービス)にある。

Codebeamer Copilot:Volkswagenとの共同開発の位置づけ

PTCは2024年12月、MicrosoftおよびVolkswagen Groupと、要件管理・ALM(アプリケーションライフサイクル管理)ツールCodebeamer向けの生成AI Copilotを共同開発すると発表しました。Microsoft Azure AIを活用し、ベータ版は2025年初頭の予定とされていました。PTCは2025年3月にCodebeamer 3.0を発表しています。Codebeamerは、PTCが2022年5月に約2億8,000万ドルで買収したIntland Softwareの製品です。

自動車メーカーが要件管理の生成AIを共同開発する背景には、ソフトウェア定義車両の開発で要件の数と変更が急増していることがあると考えられます(推測)。要件の記述、整合性の確認、トレーサビリティの維持は、文書の生成と照合が中心で、生成AIが比較的使いやすい領域です。一方、要件の妥当性や安全要求の判断は人が担う領域で、機能安全規格(ISO 26262など)の対象となる要件では、生成された記述のレビューが前提になります。

Windchill AI:PLMの文書から情報を抽出する

Windchill AIは、Windchillに蓄積された製品データを使う生成AIアシスタントで、2025年3月26日にHannover Messe 2025にあわせてプレビューが発表されました。中でもDocument Vault AI Agentは、文書から品質情報・部品仕様・試験結果を抽出するとされています。

製造業の実務では、図面、仕様書、試験報告書、設計変更通知がPLMに大量に保存されていても、必要な情報を探すのに時間がかかっています。PLMの版管理と承認状態を前提に検索・抽出できる点は、一般的な文書RAGより有利です。旧版の混入を防ぐ考え方は作業手順書RAGの作り方でも扱っています。

サービス領域:ServiceMaxとServigistics

PTCは2025年9月30日、フィールドサービス管理のServiceMaxにマルチエージェント実行とKnowledge APIを、サービス部品計画のServigisticsにトラブルシュートと根本原因分析のエージェント型AIとAI Assistantを追加しました。Deloitteは、アフターマーケットサービスの利益率が製品販売の約2倍であることを、エージェント型AIを適用する経済的な根拠に挙げています(2025年9月)。装置メーカーにとっては、サービス領域がAIの投資対効果を出しやすい領域の1つです。

製造現場とつなぐときの論点

PTCのAI機能は、要件・設計・PLM・サービスに重心があり、製造実行(MES)は他社製品と組み合わせる前提です。MicrosoftとPTCはFabric内でマルチエージェントモデルを開発中とされ、データ基盤側での接続が想定されています。

MESの実装経験から見ると、設計と製造の接点で重要なのは、設計変更(ECO)がMESの作業手順や検査基準に反映されるまでの流れと、製造の品質情報(不具合・手直し)が設計にフィードバックされる流れです。Windchill AIやCodebeamer AIの効果を製造側まで広げるには、PLMとMESの間で、品番・版・工程のキーが一致していることが前提になります。

よくある質問

Creoにも生成AI機能はありますか

本記事の調査範囲では、Creo単体の生成AI機能に関する公式発表は確認できませんでした。PTCのCAD領域では、クラウドCADのOnshapeでMCP対応やAI早期アクセスプログラムが告知されています。

Codebeamer AIは自動車業界以外でも使えますか

CodebeamerはALMツールとして自動車以外の業界でも使われています。AI機能の提供条件は、PTCに確認してください。

ServiceMax AIの効果数値は公表されていますか

本記事の調査範囲では、ServiceMax AIの定量的な効果について第三者が検証した数字は確認できませんでした。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。