算力券・模型券は「AIの利用料」を補助するバウチャー

算力券(計算資源のクーポン)と模型券(AIモデル利用のクーポン)は、中小企業がクラウドのGPUや大規模言語モデルのAPIを使うときの費用を、地方政府が一部負担する仕組みです。2026年1月に工信部など8部門が出した「"人工智能+制造"专项行动实施意见」は、地方政府に対して、中小企業向けに算力券・模型券などの方法でAI利用コストを下げるよう奨励しています(人民日报/新华网、2026年1月9日)。

日本の補助金が「設備やソフトの購入費」を主な対象にするのに対し、算力券・模型券は「使った分の利用料」を対象にする点が違います。生成AIや大規模モデルは初期投資より従量課金の比重が大きいため、補助の形もそれに合わせたものと読めます。

地方政府、中小製造業、算力・モデル提供者の3者の関係 地方政府券の発行・審査・精算 中小製造業申請し、券で利用料を支払う 算力・モデル提供者クラウドGPU・大模型API ① 券を交付 ② 券で利用 ③ 券を精算 一般的な構造の模式図。対象・補助率・上限は地方ごとに異なり、本図は特定の制度を表さない
算力券・模型券の基本的な流れ。地方政府がクーポンを発行し、企業は登録された提供者のサービスに使う。

政策の中での位置づけ

算力券・模型券は単独の制度ではなく、中央の方針を地方が具体化する形で出ています。

階層文書・動き算力券・模型券との関係
国务院「人工智能+」行動意見(2025年8月)AIの全産業への普及を目標化
工信部など8部門AI+制造 実施意見(2026年1月7日)地方政府に算力券・模型券の活用を奨励
地方政府深圳市・重慶市などの支援策資金補助・算力・シーン開放を具体化
工信部など6部門智能工厂梯度培育 2026年度通知(2026年7月)地方政府に工業AIエージェント開発支援を要請

经济参考报(新华网、2026年3月9日)は、深圳市と重慶市が資金補助・算力・シーン開放の支援策をすでに出していると報じています。シーン開放とは、地方政府や国有企業がAIの実証の場(業務やデータ)を企業に提供することです。

分かっていること、分かっていないこと

この制度を日本語で紹介するときに最も注意すべきなのは、地方ごとの具体的な条件です。補助率、1社あたりの上限、対象となる提供者、外資企業が対象になるかは、地方ごとに異なり、今回参照した中央レベルの報道では確認できていません。

背景として押さえておきたいのは、需要側の課題です。中国信通院の2025年調査では、AIを使う中小企業(サンプル6,000超)のうち、全業務プロセスにAIを組み込んでいる企業は4%にとどまりました(南方财经、2026年7月15日)。算力券・模型券は、この「使い始めの壁」を下げるための手段と位置づけられます。詳しくは中国AI+製造の壁は技術でなく市場で扱っています。

日系の中小サプライヤーが確認する手順

中国に拠点を持つ日系の中小サプライヤーが利用を検討するなら、次の順で確認するのが効率的です。

  1. 現地法人の所在地(市・区)の工業・情報化部門、または科技部門の公告で、算力券・模型券の募集が出ているかを確認する
  2. 対象企業の要件(登記地、規模、業種、外資の扱い)を確認する
  3. 券を使える提供者のリストを確認する。登録された国内クラウド・モデル提供者に限定されるのが一般的とみられる(推測)
  4. 利用予定のデータが中国国外へ出ないかを確認する。国内の算力・モデルを使う場合でも、結果を日本本社と共有するときにデータ越境の規定がかかる

日本の補助金制度と比べたときの違い

日本の中小製造業向けの支援は、ものづくり補助金や省力化投資補助金のように、設備・システムの導入費を対象にしたものが中心です(製造業のAI導入に使える補助金を参照)。クラウド利用料を補助対象にする場合も、導入初年度などに限られるのが一般的です。

中国の算力券・模型券は、利用料そのものを継続的に下げる発想に立っています。工業インターネット平台の行動方案が「先用后付」「效果付费」型のサービスを支持していることとあわせると、中国はAIを「買うもの」より「使った分だけ払うもの」として普及させようとしていると読めます(推測)。この点は中国が政策で後押しする「效果付费」でも扱っています。

よくある質問

日系企業の現地法人も算力券・模型券を使えますか

地方ごとの要件次第で、一律には言えません。中国国内で登記された法人を対象とする制度であれば、外資の現地法人も対象になり得ますが、外資の扱いを明記していない制度もあるため、募集要項で個別に確認してください。

日本のクラウドや生成AIサービスに券は使えますか

券を使える提供者は発行元の地方政府が指定するのが一般的とみられ、海外サービスが対象になる例は今回の調査では確認できませんでした。中国国内の生成AIサービスは備案(届出)制度の対象でもあります。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。