政策に書かれた3つの課金モデル

工信部が2026年1月に印発した「推动工业互联网平台高质量发展行动方案(2026—2028年)」は、工業インターネット平台のサービスモデルとして、次の3つを支持すると明記しました。

中国語意味特徴
先用后付先に使って、後で払う導入時の初期費用を抑え、効果を確認してから支払う
订阅服务サブスクリプション月額・年額の定額。小規模に始めやすい
效果付费成果報酬削減額や改善量に応じて支払う

同じ方案は、木兰许可协议による平台のオープンソース化も支持しています。政策文書が課金の形まで踏み込むのは、中小企業へのAIの普及を進めるには、初期費用の高い受託開発では広がらないという認識があるためと考えられます(推測)。2026年1月の「AI+製造」専項行動が、地方政府に中小企業向けの「算力券」「模型券」でコストを下げるよう奨励しているのも、同じ方向の施策です。

中国市場で見える価格の例

中国の公開情報では、中小企業向けの工業AIの価格の例が報じられています。

  • AIによる生産計画・進捗管理のツール(中小企業向け):年費約1万元で、納期遅延率を25%から5%未満に下げたとされる(ベンダー側の数値、天下工厂产业研究院 2026年7月)
  • 宁波のプラスチック金型工場:ERPと連携したエージェントで、在庫資金が800万元から500万元に減り、納期遅延率が15%から2%未満になった(36氪 2026年1月)

年費約1万元という価格帯は、人月で見積もる日本の製造業AIの受託開発とは、価格の考え方そのものが違います。これらはベンダー側の口径の数字であり、機能の範囲も日本の受託開発とは異なる点に注意が必要です。

日本のSIer型受託との構造の違い

受託型は導入時に大きな費用が発生し効果のリスクは発注側が負う。成果報酬型は初期費用が小さく、効果が出た分だけ支払いが発生し、リスクの一部をベンダーが負う 受託型(日本で一般的) 構想・PoC 本番開発 保守 保守 効果が出なくても費用は発生(リスクは発注側) 成果報酬・サブスク型 導入 1年目 2年目 3年目 効果に応じて支払い(リスクの一部はベンダー)
受託型と成果報酬型で、費用の発生時期とリスクの負担者が異なる。

日本の製造業AIは、構想・PoC・本番開発をそれぞれ人月で見積もる受託型が主流です。この形では、効果が出なかった場合のリスクは発注側が負います。成果報酬型やサブスク型では、初期費用を抑える代わりに、効果や利用量に応じて継続的に支払い、効果が出ないリスクの一部をベンダーが負います。

総額で見ると、成果報酬型が安いとは限りません。効果が大きく出た場合、受託型より支払いの総額が大きくなることもあります。料金体系の比較はAIサービスの料金体系の3方式で扱っています。

成果報酬の契約で決めておく項目

成果報酬型の提案を受けた場合、契約前に次の項目を決めておくと、後の紛争を減らせます。

  1. 成果の指標と算式:不良率、停止時間、エネルギー原単位など、指標と計算式を契約に書く
  2. ベースライン:導入前の何か月分の、どのデータを基準にするか
  3. データの出所:成果を測るデータは、MES・設備・計量器のどれから取るか。発注側のシステムのデータを使うのが原則
  4. 除外条件:設備の更新、生産品目の変更、需要の急変など、成果の算定から除く事象
  5. 上限と下限:支払額の上限、最低料金の有無
  6. 契約終了時のデータとモデルの扱い:学習済みモデル、蓄積したデータの帰属と返却

成果報酬型を受け入れる場合でも、すべてを成果連動にする必要はありません。初期のデータ接続とモデル構築は固定料金、運用後の改善分だけを成果連動にする、という組み合わせにすると、ベンダー側の採算と発注側のリスクの両方を調整しやすくなります。

日系企業への影響

中国に工場を持つ日系企業にとっての影響は2つあります。

1つ目は調達の側です。中国の地場ベンダーから成果報酬・サブスクの提案を受ける機会が増えます。初期費用が小さいため試しやすい反面、上の契約条件を詰めないまま導入すると、成果の算定やデータの扱いで問題になります。

2つ目は提供の側です。中国市場でAIやシステムを提供する日系のベンダー・SIerは、受託型の見積もりで地場ベンダーの成果報酬型の提案と比べられることになります。価格の構造が違う提案を比べる発注側に対し、総額とリスクの負担の違いを説明できる準備が必要です。受託型の見積もりに、3年間の総額の比較と、効果が出なかった場合の負担の比較を添えると、価格の構造の違いを発注側が判断しやすくなります。

よくある質問

成果報酬型のAIは日本にもありますか?

日本でも、エネルギー削減や保全の領域で、削減額に応じた料金体系を採るサービスはあります。ただし製造業のAI全般では受託型とライセンス型が主流で、中国のように政策が成果報酬を後押ししている状況ではありません。

サブスク型と成果報酬型はどちらが発注側に有利ですか?

効果が読みにくいテーマでは、効果が出ないリスクを分担できる成果報酬型が有利になりやすく、効果がほぼ確実なテーマでは、総額が予測しやすいサブスク型が有利になりやすいと言えます。どちらも、成果やサービスの水準を測るデータを発注側で持つことが前提です。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。