2025年に改訂された産業用ロボットの安全規格

産業用ロボットの安全の基本となるISO 10218は、2025年2月に改訂されました。

規格版・発行扱う範囲
ISO 10218-1:2025第3版、2025年2月(2011年版を置き換え)部分完成機械としての産業用ロボット自体の安全設計
ISO 10218-2:2025第2版、2025年2月ロボットのアプリケーション・セルの設計、立ち上げ、運用、保全、廃棄までの統合
ISO/TS 15066:20162025年6月26日付で「改訂予定」(90.92)の段階協働ロボットの技術仕様。開発中のISO/AWI 15066-1に置き換えられる予定

これらはいずれも、固定された台座に設置されたアーム型のロボットを主な前提にしています。協働運転(人とロボットが同じ空間で作業する運転)の考え方も、ロボットの位置が基本的に固定されていることを前提に、接触時の力や速度の上限を定めるものです。

ヒューマノイドで前提が崩れる3つの点

設置位置、停止時の挙動、判断の仕組みの3点で、固定式ロボットとヒューマノイドの安全の前提を比較する表形式の図 観点 固定式の産業用ロボット 二足歩行のヒューマノイド 設置位置 固定。動作範囲を事前に区画できる 移動する。危険区域が場所とともに動く 停止時の挙動 電源を切ればその場で止まる 動力を切ると転倒しうる(動的に安定している) 判断の仕組み ティーチングした決まった軌道 AI(VLA等)が状況に応じて動作を生成
固定式の産業用ロボットとヒューマノイドで、安全の前提が異なる3点。

1つ目は、危険区域が動くことです。固定式のロボットは安全柵やエリアセンサーで危険区域を区画できますが、歩いて移動するヒューマノイドでは区域そのものが移動します。

2つ目は、止め方です。固定式ロボットは非常停止で動力を切ればその場で止まります。二足歩行のヒューマノイドは動的にバランスを取っているため、動力を切ると転倒する可能性があります。「止めること」が安全側の動作にならない場合がある点で、既存の安全の考え方と根本的に異なります。

3つ目は、AIが動作を生成することです。ロボット基盤モデル(VLA)のようにAIが状況に応じて動作を決める場合、事前にすべての軌道を検証することはできません。

実際に、Agility Roboticsは自社サイトで、協調安全を目指すDigitの次期版(Digit 5)について一部の安全機能が開発中であることを明記しています。工場で実証されているヒューマノイドの多くは、人と作業空間を分けた条件で運用されていると考えられます。

NVIDIA Halosが示した「安全ケース」の組み立て方

規格が追いついていない領域で、どう安全を説明するか。その1つの方向を示したのが、NVIDIAが2026年9月21日に解説したフィジカルAI向けのフルスタック安全システム「Halos」のロボティクス展開です。

Halosは次の要素で構成されています。

  • IGX Thor:機能安全アイランドを持つ計算機で、IEC 61508とISO 13849(いずれも機能安全の規格)への適合を目標とする
  • Halos Core for IGX:安全に関わるソフトウェア基盤
  • アウトサイドイン安全のブループリント:ロボット側のセンサーだけでなく、施設の外部カメラで現場全体を監視する構成

NVIDIAは、Halos AI Systems Inspection LabがANABからISO/IEC 17020の検査機関として認定を受けていること、AI固有のリスクを扱う新しい規格ISO/IEC TS 22440にも言及しています。ロボティクスのパートナーにはKION GroupやAgilityが挙がっています。

ここで重要なのは製品そのものより考え方です。AIの判断を直接「安全」と証明するのではなく、従来の機能安全(IEC 61508・ISO 13849)で守る層と、AI固有のリスク(ISO/IEC TS 22440)を評価する層を分け、外部からの監視を重ねて、全体として安全を論証する「安全ケース」を組み立てる、というアプローチです。

層役割根拠となる規格・手段
機能安全の層AIの出力にかかわらず、速度・力・領域の上限を守るIEC 61508、ISO 13849、ISO 10218
AIの評価の層AIの判断の誤り方・データの偏りを評価するISO/IEC TS 22440、試験・検査
外部監視の層ロボットの外から人と機械の位置関係を見る施設カメラ、エリアセンサー
運用の層区画・作業手順・教育・停止手順ISO 10218-2の統合の考え方

導入を検討する企業が今できること

欧州に設備を出荷する、または欧州の工場で使う場合は、EU機械規則(2023/1230、2027年1月20日適用)にも注意が必要です。機械学習で自己進化する挙動を持ち、安全機能を担うシステムは第三者の適合性評価の対象になります。詳しくはEU機械規則と自己進化するAIを参照してください。

国内でのヒューマノイドの安全の論点はヒューマノイドの安全ギャップ、AIを含むロボットセルの安全ケースの作り方はAIロボットの安全ケースで扱っています。

よくある質問

ヒューマノイド専用の安全規格はいつできますか?

公表情報の範囲では、ヒューマノイドに特化した国際規格の発行時期は確認できていません。協働ロボットの技術仕様ISO/TS 15066は改訂作業中で、ISO/AWI 15066-1に置き換えられる予定です。中国では2026年2月に人形ロボットと具身智能の標準体系(2026版)が発表されており、安全倫理を含む6部構成になっています。

車輪型のヒューマノイドなら問題は小さいですか?

二足歩行に比べると転倒のリスクは小さくなりますが、移動により危険区域が動く点と、AIが動作を生成する点は変わりません。既存の移動ロボット(AMR)やモバイルマニピュレーターの安全の考え方を参照しつつ、上半身の動作の安全を別途評価する必要があります。

NVIDIA Halosを使えば安全認証が取れますか?

Halosは機能安全の規格への適合を目標とする計算基盤と、安全設計の参照構成を提供するもので、それを使えば最終製品やロボットセルの認証が得られるわけではありません。認証は、ロボット・アプリケーション・運用を含めたシステム全体に対して行われます。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。