荆州工場の構成:工厂大脑の下に14エージェント

美的(Midea)の荆州洗濯機工場は、同社が「全球首个智能体工厂」(世界初のエージェント工場)と呼ぶ工場です。工厂大脑(工場の頭脳)の下で14のエージェントが38の業務シーンを担い、人形ロボット「美罗」とKUKAのAMR(自律移動ロボット)81台が協働しています。主要シーンの効率は50%超、検査効率は80%向上したとされます(第一财经、2025年8月28日)。

工厂大脑、14のエージェント、人形ロボット・AMR・作業者の3層構成 工厂大脑(工場の頭脳) 品質エージェント初品検査 計画エージェント生産スケジューリング 設備・保全系TPM巡回など ほか計1438シーン 人形ロボット 美罗初品検査・DMS会議・巡回 KUKA AMR 81台搬送 作業者AIグラスで支援 エージェント名と割り当ては公表情報からの整理。全14エージェントの内訳は公表されていない
美的荆州工場の構成。工厂大脑がエージェントを束ね、エージェントが人・ロボット・AMRに作業を割り当てる。

なお、美云智数(美的系のソフト会社)のソリューション紹介では「14エージェント・44シーン」とされており、報道によってシーン数が異なります(第一财经、2025年8月28日の製品データ)。時点や数え方の違いとみられます。

品質と計画のエージェント:初品検査15分→30秒

科技日报(2026年7月13日)によると、荆州工場ではAIグラスと品質エージェントの組み合わせで、初品検査(段取り替え後の最初の製品の検査)が15分から30秒になりました。生産スケジューリングの応答は90%速くなったとされます。

人形ロボット「美罗」は、初品検査、DMS会議(日々の生産管理の会議)、TPM(設備保全)やEHS(環境・安全衛生)の巡回を自律で行っているとされます(同上)。

初品検査の所要時間
15分→30秒
科技日报(荆州工場、2026年7月13日)
生産スケジューリングの応答の高速化
90%
同上
協働するKUKAのAMR
81台
第一财经(2025年8月28日)

初品検査の短縮は、エージェントが検査項目と基準を自動で呼び出し、作業者がAIグラス越しに確認し、結果をシステムに記録する流れで実現したと読めます。30秒という数字は、検査そのものより、基準の参照・判定・記録の手間を減らした効果と考えるのが自然です(推測)。

グループ全体のAIコスト削減の推移

美的グループ全体では、AIによるコスト削減を次のように公表しています(第一财经、2026年1月15日)。

年AIによるコスト削減区分
2024年1.8億元実績
2025年約6億元見込み
2026年9億元計画

美云智数は2026年1月15日、工業エージェントのマトリクスと「美擎AIGC 3.1」を発表しました。社内の1万超のエージェントから40超を選び、158の業務シーンで展開しているとされます。外販向けの智能体工厂ソリューションでは、OEE 30%向上、検査効率2倍、エンドツーエンドの納期39%短縮をうたっています(新华网、2026年3月9日。企業発表)。

日本の工場が参考にできる設計

美的の工場で参考になるのは、エージェントの数より、構成の考え方です。

  1. 中央の工厂大脑がエージェントを束ねる:個別のAIを部門ごとにばらばらに入れるのではなく、工場全体の司令塔の下に置いている
  2. エージェントは業務シーン単位:品質・計画・保全など、既存の業務の単位でエージェントを切っている
  3. 人とロボットは実行層:エージェントの判断を、作業者(AIグラス)、人形ロボット、AMRが実行する

この構成は、MESが工場の業務の流れを持ち、その上にAIが判断を返す構成と相性が良いものです。エージェントにMESの操作をどこまで任せるかは、AIエージェントにMES・ERPを操作させる権限設計の段階的な考え方が参考になります。

美的の規模だから成り立つ部分

美的は自社でAIプラットフォーム(美云智数)を持ち、ロボットメーカーのKUKAを傘下に持つ企業です(美的は2022年にKUKAを完全子会社化、all-about-industries、2025年12月)。人形ロボットも自社開発です。エージェント・ソフト・ロボットを一社で揃えられる規模だからこそ実現した構成で、一般の工場がそのまま真似できるものではありません。

日本の工場が取り入れるなら、全体の構成(司令塔・業務単位のエージェント・実行層)は参考にしつつ、実行層は既存の作業者とタブレット、司令塔は既存のMESを使う形が現実的です。美的の事例は中国製造業のAI導入事例45件でも他社と並べています。

よくある質問

美罗はどの程度自律で動いているのですか

報道では初品検査・会議・巡回を「自律で」行うとされていますが、人の監督の程度や、作業の範囲の詳細は公表情報からは確認できません。

美的の智能体工厂ソリューションは外部の工場も導入できますか

美云智数が外販向けのソリューションとして紹介しています。日本での提供状況は今回の調査では確認できていません。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。