「学習・入力」と「出力の利用」を分けて考える

生成AIと著作権の問題は、どの段階の話かを分けると整理しやすくなります。

生成AIと著作権の3段階 1 モデルの学習AI開発者が行う自社でモデルを追加学習する場合は自社も当事者 2 入力・参照プロンプトへの貼付RAGへの文書登録社内ルールで決める 3 出力の利用社内文書として使う顧客・社外へ出す社内ルールで決める
生成AIと著作権の論点を段階で分ける。製造業の社内ルールは、入力と出力利用の2か所で決めるのが実務的。

日本の著作権法では、AIの学習のための著作物の利用について第30条の4が議論の中心になっており、文化庁は「AIと著作権に関する考え方」などの資料を公表しています。ただし、どの利用が許されるかは利用の目的や態様によって判断が分かれる論点があり、本サイトは法的な解釈を示しません。個別の判断は、文化庁の最新の資料と、知的財産に詳しい弁護士で確認してください。

製造業の多くは、モデルを自ら学習させるより、ベンダーの生成AIに文書を入力したり、社内文書検索(RAG)に登録したりする立場です。そこで本記事では、2と3の段階で社内ルールとして決めておくべき点に絞ります。

社内ルールで決める5点

1. 他社製品のマニュアル・カタログをRAGに入れてよいか

設備メーカーの取扱説明書や部品メーカーのカタログを社内のRAGに登録し、保全担当者が質問できるようにする使い方は効果が大きい一方、文書の提供元が利用条件を定めている場合があります。登録する前に、次を確認します。

  • 文書の入手経路(購入した機器に付属、ウェブで公開、会員サイトからダウンロードなど)
  • 提供元の利用規約や契約で、複製・社内共有・システムへの登録に制限がないか
  • RAGの利用範囲が社内に限られるか

2. 規格書(JIS・ISO・業界規格)の扱い

規格書は有償で販売されているものが多く、購入時のライセンスで利用範囲(利用者数、複製の可否など)が定められています。規格書をRAGに登録して全社で検索できるようにすると、購入したライセンスの範囲を超える可能性があります。規格の販売元のライセンス条件を確認し、必要なら社内の利用者数に合わせたライセンスを取ってください。

3. 顧客・取引先から預かった図面と仕様書

顧客から受け取った図面や仕様書は、著作権の問題に加えて、秘密保持契約の対象であることがほとんどです。生成AIへの入力やRAGへの登録が、秘密保持契約の「目的外利用」や「第三者への開示」に当たらないかを、契約書で確認します。クラウドの生成AIに入力する場合は、データの保存場所と、入力データが学習に使われない設定になっているかも確認が必要です。営業秘密の扱いは営業秘密・ノウハウを守るAI活用を参照してください。

4. 生成した文書を社外に出すときの確認

生成AIが作った作業手順書や技術資料を、顧客への提出物や製品のマニュアルとして社外に出す場合は、次を確認する手順を決めておきます。

  • 出力が、特定の他社の文書と酷似していないか(参照させた文書の文章がそのまま出ていないか)
  • 図や表が、他社の資料から取り込まれたものでないか
  • 内容の正確性を、担当者が原典と照らして確認したか

社内でしか使わない下書きと、社外に出す文書とで、確認の重さを変えるのが実務的です。

5. 生成した文書の権利と表示

生成AIで作った文書を、自社の著作物として扱えるかどうかは、人がどの程度創作に関わったかで判断が分かれるとされる論点です。社内ルールでは、少なくとも次の運用を決めておきます。

  • 社外に出す技術文書は、担当者が内容を確認・編集したうえで、責任者の承認を得る
  • 生成AIを使ったことの記録(どのツールで、何を参照させたか)を残す

ルールを運用に落とす

5点を社内ルールにするときは、生成AIの利用ルールの一部として定めるのが効率的です。

決める項目例
RAGに登録してよい文書の区分自社作成の文書は可。他社マニュアルは利用条件を確認したもののみ。規格書はライセンスの範囲内。顧客図面は原則不可
登録時の記録文書名、提供元、入手経路、利用条件の確認者
社外提出前の確認内容の正確性、他社文書との類似、承認者
相談窓口法務部門または知財担当

生成AIの利用ルール全体は生成AIの社内利用ルールの作り方、RAGの構成は製造業の社内文書RAG入門を参照してください。

よくある質問

自社の過去の技術文書をRAGに入れるのは問題ありませんか

自社が作成した文書は、一般に自社の判断で利用できます。ただし、過去の文書の中に他社の資料や顧客の図面が引用・添付されていないかは確認が必要です。

生成AIで作った図面に著作権の問題はありますか

図面は機能的な表現であることが多く、著作権の扱いが一般の文書と異なる論点があります。また、顧客の図面を参考に生成させた場合は、秘密保持契約の問題も生じます。個別の判断は専門家に確認してください。

ベンダーの生成AIの利用規約で確認すべき点は何ですか

入力データが学習に使われるか、出力の権利が誰に帰属するとされているか、データの保存場所と期間です。企業向けプランでは、入力データを学習に使わない設定が用意されていることが多くあります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。