日本企業の4社に3社には評価基準がない

DX・AI人材の評価基準を持つ日本企業は、まだ少数です。IPAの「DX動向2025」によると、DX人材の評価基準がない日本企業は75.7%で、米国の10.0%、ドイツの18.9%と大きな開きがあります。

DX人材の評価基準がない日本企業
75.7%
IPA「DX動向2025」
同・米国
10.0%
同上
同・ドイツ
18.9%
同上

評価基準がないと、次のことが起きます。

  • 工場の推進担当が、AIのテーマに時間を使った分だけ本業の評価が下がる
  • 外部から採用した専門人材を、既存の職能等級に当てはめるしかない
  • 資格を取らせても処遇が変わらず、学ぶ動機が続かない
  • 育った人材が、AI人材を評価する他社に転職する

民間でも、この領域の支援サービスが出てきています。エクサウィザーズは2026年10月2日、AI人材の要件定義から評価・育成までを支援する「AX人材要件定義サービス」を始めました(同社発表)。

3つの仕組みを組み合わせる

製造業のAI人材の評価は、1つの指標では成り立ちません。スキル、実績、資格の3つを組み合わせます。

スキルマップ・プロジェクト実績・資格の3つの仕組み スキルマップできること(等級・昇格) プロジェクト実績やったこと(賞与・表彰) 資格学んだこと(手当・要件)
評価の3つの仕組み。スキルマップで「できること」、実績で「やったこと」、資格で「学んだこと」を測る。

仕組み1:スキルマップで等級を決める

AI人材に必要なスキル(工程の知識、データの所在の把握、データ整備、評価設計、モデル運用、現場への組み込みなど)を項目にし、それぞれを4段階で評価します。スキル項目の例は製造業のAI人材に必要なスキル10項目、配布資料は製造業のAI人材スキルマップを参照してください。

スキルマップは等級や昇格の判断に使います。「データ整備を自分でできる」「評価方法を設計して人に教えられる」といった水準を、等級の要件に組み込みます。

仕組み2:プロジェクト実績を賞与や表彰に反映する

AIのテーマで何をやったかを、賞与や表彰に反映します。評価する実績は、PoCの数ではなく、次のような結果です。

評価する実績評価しない(重視しない)もの
本番に載せたテーマの数と、その効果(不良率・停止時間・工数)PoCを実施した数
他工場・他ラインへの横展開発表資料の数
社内の後任者への技術移転外部セミナーへの登壇
データ整備やマスタ統一など、他のテーマにも効く基盤の整備研修の受講時間

データ整備のように目立たないが後のテーマを支える仕事を評価項目に入れておくことが、製造業では特に重要です。これがないと、誰もデータ整備を引き受けなくなります。

仕組み3:資格を手当や要件に使う

G検定、E資格、データサイエンティスト検定などの資格は、学習の動機づけと、一定の知識の証明に使います。資格手当や、特定の役割に就くための要件にする方法があります。資格の選び方はAI関連資格の選び方で扱います。

ただし資格は知識の証明であって、工場で成果を出す力の証明ではありません。資格だけで等級や処遇を決めると、資格は持っているが現場で動けない人が評価されてしまいます。

兼務の推進担当の評価をどうするか

工場の推進担当は、多くの場合、生産技術や品質保証の本業と兼務しています。この場合、評価者を2人にすることが有効です。本業の上長が本業の成果を、推進責任者(CDOやCoEの責任者)がAIのテーマの成果を評価し、業務時間の割合に応じて合算します。

業務時間の割合(例:本業50%、AIテーマ50%)は、期初に上長と推進責任者が合意して決めます。割合を決めずに兼務させると、本業の上長はAIの仕事を評価に入れにくく、本人も本業を優先せざるをえません。推進責任者の権限についてはCDO・DX推進責任者の役割を参照してください。

専門人材の処遇は別の枠を用意する

外部から採用したデータサイエンティストやデータエンジニアは、既存の職能等級に当てはめると、市場の水準と合わないことがあります。専門職の等級や、職務を基準にした報酬の枠を別に用意する企業もあります。

この場合でも、評価の軸は「本番に載せたテーマ」「社内への技術移転」「データ基盤への貢献」に置きます。専門人材の評価がモデルの精度や論文の数だけになると、工場の成果との結びつきが弱くなります。

よくある質問

AIの効果を個人の成果としてどう切り分けますか

テーマ単位でチームの成果として評価し、その中での役割(データ整備、評価設計、現場展開など)を個人の評価に反映します。効果を個人に完全に割り付けるのは難しいため、役割の評価と組み合わせます。

失敗したPoCは評価でマイナスになりますか

事前に決めた中止条件に沿って早く中止を判断できた場合は、むしろ評価すべきです。マイナス評価にすると、成果の出ないPoCを続ける動機が生まれます。

現場層の作業者もAIで評価すべきですか

現場層は、AIの誤りを記録・報告したことや、改善提案を出したことを、既存の改善提案制度などで評価するのが現実的です。AIの利用頻度そのものを評価項目にする必要はありません。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。