中小企業はトップダウンで進める
中小製造業のAI推進は、社長が直接旗を振る形が最も進みやすい体制です。2025年版ものづくり白書の関連記事では、大企業はDXをボトムアップで、中小企業はトップダウンで進める傾向があるとされています。中小企業では、予算、人の配置、業務の変更を社長が一度に決められることが、そのまま強みになります。
一方で、社長が「AIをやれ」と指示するだけでは進みません。誰が何を担うかを決め、兼任者の時間を確保し、足りない専門性を外部で補う設計が必要です。
兼任2〜3人の役割分担
中小製造業のAI推進チームは、次の3つの役割で構成します。1人が複数の役割を兼ねてもかまいませんが、役割そのものは分けて考えます。
| 役割 | 担う人の例 | 主な仕事 | 時間の目安 |
|---|---|---|---|
| 現場リーダー | 製造課長、品質担当、班長 | 課題の選定、良否の判定基準、現場での試行と定着 | 週に数時間 |
| データ担当 | 生産管理、品質管理、若手の技術者 | データの所在の確認、収集、整備、効果の測定 | 週に数時間〜半日 |
| IT担当 | 総務兼務の情報担当、外部の保守業者 | ツールの契約、アカウント、ネットワーク、セキュリティ | 必要なとき |
社長は、テーマの優先順位を決め、兼任者の時間を業務として認め、成果を評価する役割を担います。兼任者の時間を本業の残業でまかなわせると、半年ほどで止まります。
内製で成果を出した中小製造業の例
中小製造業でも、現場の社員が自ら仕組みを作り、成果を出している例があります。
- 山岸製作所(群馬、金属加工)は、Claris FileMakerで指導書管理アプリを内製し、梱包ミスによるクレームを0件にしたほか、材料探索を1日約2時間短縮した。今後はローカルAIとの連携を構想している(@IT、2026年10月)
- 大本染工(京都、捺染、従業員32人)は、受発注と生産管理をデジタル化し、繁忙月の残業を半分以下にした。従業員はアプリを内製できるようになった(中小機構 省力化ナビ事例)
- 天昇電気工業(三重工場、従業員140人)は、動画マニュアルと動画比較ツールで、組立人員を約75名から約50名に、熟練者レベルまでの習熟期間を約7分の1にした(同)
いずれも、いきなり高度なAIから始めたのではなく、データを記録しデジタルで扱える状態を先に作っています。中小製造業のAIは、この段階を飛ばすと進みません。始めやすいテーマは中小製造業のAI導入を参照してください。
外部の使い分け
兼任チームに足りない専門性は、外部で補います。外部には大きく3種類あり、それぞれ得意なことが違います。
| 外部 | 得意なこと | 使いどころ |
|---|---|---|
| 公的支援機関(よろず支援拠点、公設試験研究機関など) | 無料または低額の相談、検証設備、補助金の情報 | テーマの相談、技術的な検証、補助金の活用 |
| 外部の伴走者・ITベンダー | モデル構築、実装、運用の支援 | 社内でできない技術部分 |
| ツールの販売事業者 | 既製ツールの導入と使い方の支援 | 既製のAIツールで済むテーマ |
公設試験研究機関の例として、PFUの外観検査設計技術は、2024年度に石川県の成長戦略ファンド事業で石川県工業試験場と検証されています。地域の公設試には、カメラや照明などの検証設備を持つところもあり、AI導入前の検証に使えます。資金以外の公的支援の使い方は補助金以外の公的支援で扱います。
補助金の手続きも体制に組み込む
中小製造業のAI投資では、補助金を使う場面が多くなります。補助金の申請には事業計画書の作成、交付決定後の発注、実績報告、効果報告など、数年にわたる手続きが伴います。この事務を誰が担うかも、体制の一部として決めておきます。制度の全体像は製造業のAI導入に使える補助金・助成金8選を参照してください。
よくある質問
社長がITに詳しくなくても推進できますか
推進できます。社長に求められるのは技術の判断ではなく、テーマの優先順位、兼任者の時間の確保、投資の判断です。技術の判断は外部の伴走者や公的支援機関に相談します。
若手1人にAIを任せるのはどうですか
若手1人に任せると、工程の知識が足りず、現場の協力も得にくくなります。現場リーダーとの組み合わせにし、社長が後ろ盾になることを社内に示してください。
まず何から始めればよいですか
紙の帳票や手入力のデータをデジタルで記録する仕組みから始めるのが現実的です。データが残るようになってから、AIのテーマに進みます。
