ユーティリティ設備は最適制御の効果が出やすい
空調、熱源(冷凍機・ボイラ・ヒートポンプ)、コンプレッサは、工場の中でも最適制御AIの効果が出やすい設備です。理由は3つあります。
- 品質への影響が間接的で、設定値を変えても製品の不良に直結しにくい
- 台数制御や設定値の選択肢が多く、人が経験で決めている部分に改善余地がある
- 負荷(冷房需要、圧縮空気の使用量)が生産計画や外気温から予測できる
最適制御AIは、負荷の予測と、設備の効率特性のモデルを組み合わせ、需要を満たしながらエネルギーが最小になる運転(どの機器を何台、どの設定値で動かすか)を計算します。手法としてはモデル予測制御(MPC)や強化学習が使われます。
公開事例の数字と、その条件
| 事例 | 対象 | 公表された効果 | 条件・注意 |
|---|---|---|---|
| 東京ガス×エイシング | 熱源機器 | COP向上と約5%の省エネ | 基礎研究段階での確認(エイシング公式) |
| 卡奥斯(Haierグループ)の能源双碳大模型 | エアコンプレッサー等 | 調度効率50%超向上 | 中国电子报(2025年7月)。省エネ率そのものではない |
| ABB Genix Copilot | セメント等の重要プロセス | エネルギー15〜18%最適化 | Microsoftの顧客事例(2025年11月)。プロセス全体の数字 |
| Google DeepMind | データセンター冷却 | 冷却エネルギー40%削減 | 2016年発表。工場とは条件が大きく違う |
DeepMindの事例はよく引用されますが、条件が工場とは違います。Googleのデータセンターでは、数千個のセンサ(温度、電力、ポンプ速度、設定値)の履歴があり、冷却という単一の目的に対して深層ニューラルネットのアンサンブルで将来のPUEと温度・圧力を予測しました。工場のユーティリティは、計測点が少なく、生産工程からの負荷変動が大きく、品質の制約も絡みます。40%という数字を工場の期待値に置き換えるのは無理があります。国内の熱源の約5%という数字のほうが、工場で期待できる水準に近いと考えるのが妥当です(推測)。
設備別の要点
空調は、外気温と生産エリアの発熱(設備の稼働状態)から冷暖房負荷を予測します。クリーンルームや恒温室では温湿度の許容範囲が狭く、制約の設定が最重要です。
熱源は、複数台の冷凍機・ボイラの台数と負荷配分の最適化が中心です。機器ごとに効率の良い負荷率があり、少ない台数を高負荷で回すか、多い台数を低負荷で回すかで効率が変わります。
コンプレッサは、圧縮空気の使用量の予測と、吐出圧力の設定値、台数制御が対象です。吐出圧力を下げると電力は減りますが、末端の設備で圧力不足が起きないかの確認が要ります。エア漏れは使用量のベースラインとの比較で検知できます。ベースラインの考え方は省エネ効果の正しい測り方を参照してください。コンプレッサ自体の状態監視はポンプ・ファン・コンプレッサの状態監視AIで扱います。
必要なデータと計測の粒度
最適制御のモデルを作るには、設備ごとの電力量に加えて、負荷を表すデータが要ります。空調なら送風・還気の温湿度と室内の温湿度、熱源なら冷温水の往還温度と流量、コンプレッサなら吐出圧力と流量です。電力だけでは、設備がどれだけの仕事をしたか分からず、効率のモデルが作れません。
計測の間隔は1分〜15分が一般的で、台数制御の切替のように短い現象を見たい場合は短い間隔が必要です。既存の中央監視システムやBEMSにデータがあることも多いので、まずはそこから取り出せる項目と間隔を確認します。生産計画や設備の稼働状態はMESにあるため、ユーティリティの負荷予測にMESのデータを使えるかも確認しておきます。
制約の設定と導入の手順
最適制御AIが品質や安全の制約を無視した設定値を提案するのは、典型的な失敗です。たとえば空調の設定温度を上げれば電力は減りますが、精密加工の寸法や塗装の品質に影響することがあります。
4の段階で人が推奨値を確認する期間を設けると、AIの提案がどのような条件で外れるかが分かり、現場の信頼も得やすくなります。工場全体の省エネAIの進め方は工場の省エネAIで扱っています。
よくある質問
DeepMindのように40%削減を期待できますか
期待できません。データセンター冷却は計測点が多く目的が単純で、工場とは条件が違います。国内の熱源の最適制御では約5%の省エネが報告されており、こちらのほうが工場の期待値に近いと考えられます。
既存の中央監視・BEMSがあればAIは不要ですか
既存の監視システムはデータの収集と台数制御のルールを持っていることが多く、AIはその上で負荷の予測と最適な運転条件の計算を担います。既存システムから設定値を変えられるかどうかが、導入の可否を左右します。
コンプレッサの省エネでまず見るべき点は何ですか
吐出圧力の設定と、生産していない時間帯の圧縮空気の使用量です。休日や夜間の使用量はエア漏れの目安になり、AI以前に運用改善で効果が出ることが多いです。
