2社の展示は「AIが機械を直す」ではなかった

生成AIを工作機械につなげば、AIが機械の設定を自分で書き換え始める。そう予想して東京ビッグサイトを歩いた来場者は、オークマとファナックのブースで少し違うものを見たはずです。両社とも、AIの答えがそのまま機械に入る形にはしていませんでした。

JIMTOF2026(第33回日本国際工作機械見本市、2026年10月26〜31日)で、オークマは自社のCNC「OSP」と生成AIを組み合わせたAIエージェント機能を参考出展しました。オペレーターがPC・タブレット・スマートフォンからチャットで話しかけると、機械に蓄積された加工履歴や稼働データ、マニュアルを参照して答えを返すものです。MONOistの報道によれば、GPU搭載のPCを社内ネットワークで動かす構成で、同社は今後社外での実証実験を進めるとしています。日刊工業新聞は、立形マシニングセンタ「MB-46VEII」に搭載して出展し、2027年度の商品化を目指すと報じています。

ファナックは「フィジカルAI CNC」というコンセプトを打ち出しました。LLM(大規模言語モデル)がCNCや関連ソフトを操作できるようにするMCPサーバを今後提供し、LLMはこのサーバを介してCNCのデータを参照し、設定変更の案を出せるようになるとされます。ただしLLMの出力は実機に直接送らず、PC上のデジタルツインで検証し、オペレーターが目で見て承認した場合のみ実機に転送する仕組みです。MCPサーバの提供時期は報道では確認できませんでした。

以下では、現場でよく起きる3つの場面に両社の展示を当てはめます。どちらも参考出展やコンセプトの段階で、製品の仕様は確定していません。比べられるのは「展示と報道で示された振る舞い」までです。

場面1:夜間にアラームが出て、朝の担当者が原因を知りたいとき

オークマの展示では、担当者が「今日のアラームをまとめて」と打つと、AIがその日のアラーム履歴を抽出して報告する例が示されました。履歴は機械の中にすでにあるデータです。AIの役目は探して並べることで、どのアラームから手を付けるかは人が決めます。

ファナックの「トラブルからの自動復旧」のデモでは、CNCがアラームを検知すると、AIアラーム診断ナビゲーターがアラームの内容とCNCの状態を確認し、原因を推定して対策を検討します。その対策をシミュレーションで試し、成功したものだけをオペレーターに提案する流れです。

同じアラームの場面でも、オークマは「聞かれたら過去を引いて答える」、ファナックは「起きたら原因と対策を用意し、検証済みのものを差し出す」という違いがあります。前者は既存の保全の流れに入れやすく、後者は復旧までの手数を減らす方向に踏み込んでいます。

場面2:加工面に筋目が出た、外径だけが公差を外れたとき

オークマの例は、オペレーターが「外径の寸法だけが公差から外れている」と伝えると、AIが計測結果を分析して原因を推定し、対処方法を提案するというものです。報道では、ユーザーが持つ加工ノウハウをAIが参照できるようにする構想にも触れています。修正の操作はオペレーターが行う前提で、AIが加工プログラムを書き換えるという説明はありませんでした。

ファナックの「トライ&エラーからの解放」のデモでは、加工面に筋目などの不良が出たとき、AI加工面チューナーにサーボデータや加工プログラムを渡すと、加減速パラメータなどの原因を推定し、シミュレーションで確かめた改善案を示します。プログラムの修正まで自動で行い、反映の前にオペレーターの承認を挟みます。解析の手順やルールをあらかじめ登録しておけば、AIはそのノウハウに沿って検証を進めるとされます。

ここが両社の差が最も大きい場面です。ファナックはAIが機械側の設定やプログラムに書き込む道を用意し、その代わりにデジタルツインと人の承認という2段の関門を置きました。オークマは書き込みに踏み込まず、相談相手としての役割にとどめています。

場面3:週の終わりに、工場全体の稼働と負荷を報告にまとめるとき

オークマは、機械への負荷や温度変化などの詳細データをまとめた加工レポートの自動作成もできるようになるとしています。同社はすでにAI稼働分析として、稼働中・アラーム中・停止中といった状態に加えて停止の理由まで把握する機能を示しており、報告の材料は機械の側にそろっています。

ファナックの今回の展示は、1台のCNCで起きたことを解く場面が中心で、工場全体の報告づくりは主題ではありませんでした。工場単位のデータについては、同社は既存の「FIELD system」で現場データの収集と活用を進めています。フィジカルAI CNCとFIELD systemのデータがどうつながるかは、今回の報道からは読み取れません。

報告の場面では、AIが書いた数字をそのまま会議資料に貼ってよいかが問われます。元の稼働実績や停止理由のコードがMESや日報の記録と食い違っていれば、AIは食い違ったまま文章にします。この点は生成AIを工場データにつなぐ前提条件で整理した問題と同じです。

データの置き場所と、機械に書き込む人の違い

3つの場面を並べると、両社の設計の違いは2点に集約されます。生成AIがどこで動き何を読むのか、そして機械の設定を書き換える権限をどこに置くのかです。

オークマとファナックのCNC向けAIの流れの比較。上段オークマ:対話で質問、機械内の加工履歴などを参照、社内のGPU搭載PCで生成AIが回答、回答と提案とレポート、判断と操作は人。下段ファナック:要望やアラーム、LLMがMCPサーバ経由でCNCデータを参照し案を作る、デジタルツインで検証、オペレーターが承認、承認後のみ実機へ転送。 オークマ:OSPのAIエージェント機能(参考出展) ①対話で質問 PC・タブレット・ スマホから ②参照するもの 加工履歴・稼働 データ・マニュアル ③生成AI 社内ネットワークの GPU搭載PC ④回答 原因推定・対処案 加工レポート ⑤人が判断 機械の操作は オペレーター ファナック:フィジカルAI CNC(コンセプト) ①きっかけ アラーム検知・ 加工面の不良 ②LLMが案を作る MCPサーバ経由で CNCデータを参照 ③デジタルツイン で検証(CNCガイド 2など) ④承認 オペレーターが 画面で確認 ⑤実機へ転送 承認された ものだけ いずれも参考出展・コンセプト段階。図は報道と展示説明から編集部が整理したもので、製品仕様ではない。
展示と報道から読み取れる両社の流れ。オークマはAIの答えを人が受け取って操作し、ファナックはAIの案をデジタルツインで検証し、オペレーターの承認後にだけ実機へ送る。
比べる点オークマ(OSPのAIエージェント機能)ファナック(フィジカルAI CNC)
段階参考出展。2027年度の商品化目標と報道コンセプト。MCPサーバは今後提供、時期は報道で確認できず
AIが読むデータ機械に蓄積された加工履歴・稼働データ・マニュアルMCPサーバ経由のCNCデータ、サーボデータ、加工プログラム
生成AIの置き場所GPU搭載PCを社内ネットワークで動かす報道からは確認できない
機械への書き込み展示の説明には含まれない設定変更やプログラム修正の案を作り、承認後に反映
安全の関門人が答えを読んで操作するデジタルツインでの検証とオペレーターの承認の2段
他社が乗れるか自社機の中で完結する構成ファナックCNCを使う工作機械メーカーやソフト会社が独自アプリを作れる

最後の行は、データ基盤の側から見ると意味が大きい点です。ファナックのCNCは多くの工作機械メーカーの機械に載っているため、MCPサーバが公開されれば、機械メーカーごとの調整ノウハウを組み込んだアプリが同じ口から出てくる可能性があります。MCPの仕組みはMCPを工場に入れるで整理しました。一方でオークマは、機械とCNCと熱変位制御などの知能化技術を自社で一体に持つ強みを生かし、機械の中のデータで答えを閉じる設計に見えます。これは編集部の推測で、両社が戦略として説明したものではありません。

よくある質問

オークマのAIエージェント機能はいつ買えるのですか?

JIMTOF2026では参考出展の扱いで、発売日は公表されていません。日刊工業新聞は2027年度の商品化を目指すと報じています。MONOistの報道では、同社は今後社外での実証実験を進めるとしています。既存のAI機械診断機能(主軸・ミーリング主軸・送り軸を1軸あたり約2分で診断し、正常・経過観察・精密検査の3段階で表示)は、同社がすでに提供している別の機能です。

ファナックのMCPサーバを使えば、どのメーカーのAIでもCNCを操作できるようになりますか?

報道によれば、MCPサーバはLLMがCNCのデータを参照し設定変更できるようにするもので、ファナックのCNCを搭載する工作機械メーカーやソフト会社が独自のAIアプリを作れるようになるとされています。提供時期、対応するCNCの機種、どのLLMで動作を確認しているかは、今回の報道では確認できませんでした。実機への反映にはデジタルツインでの検証とオペレーターの承認を挟む設計です。

自社の工場データを外に出さずに使えますか?

オークマの展示は、GPU搭載のPCを社内ネットワークで動かし、機密性の高いデータを社外に出さない構成として説明されています。ファナックのフィジカルAI CNCでLLMをどこで動かすかは、今回の報道からは読み取れません。社外のクラウドのLLMを使う構成になる場合は、加工プログラムや加工条件が社外に出るかどうかを契約と構成の両面で確かめる必要があります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。

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