Siemensが示したオーケストレーター型の構成

Siemensは2025年5月12〜13日のAutomate 2025で、Industrial Copilotの背後にAIエージェントを導入する構想を発表しました。Q&A型を超えて多段の工程を実行するもので、オーケストレーター(全体の指揮役)が専門エージェント群を配備・統括する構成です。同時に、サードパーティ製を含む産業AIエージェントのマーケットプレイスをSiemens Xcelerator上に設ける計画も示しました。設計上の特徴として、Siemensは「ユーザーがどのタスクを委ねるかを選ぶ」としています。

この型は、エンジニアリング(TIA Portal)、設計(NX)、運用(Insights Hub)、保全(Senseye)と、すでに製品ごとに分かれていたCopilotを束ねるための構成です。自社でエージェントを作る製造業が、この構成をそのまま真似る必要はありません。むしろ、Siemensのように専門ごとに分割できるだけの製品とデータ基盤がそろっていることが、オーケストレーター型の前提だと読むべきです。

オーケストレーター型と単一エージェント型の比較図 オーケストレーター型(将来) オーケストレーター 設計エージェント 運用エージェント 保全エージェント PLM・MES・ERP・CMMS・ヒストリアン 単一エージェント型(最初の構成) 保全調査エージェント 停止実績照会 保全記録検索 手順書検索 MES・CMMS(読み取り専用) ツール3本・読み取りのみ・結果は人へ
オーケストレーター型の構成と、自社で始めるときの最小構成。最初は右側から始める。

5つの設計原則

原則1:単一エージェント+少数のツールから始める

最初は1つのエージェントに3〜5本のツールを持たせる構成にします。エージェントが選べるツールが多いほど、どのツールを呼ぶべきかの判断を誤りやすく、失敗したときにどこが原因かを追えなくなります。保全なら「停止実績の照会」「保全記録の検索」「手順書の検索」の3本で、原因調査の下書きまでを担わせるのが一例です。

原則2:読み取り系から書き込み系へ広げる

ツールは、読み取り(照会・検索)と書き込み(起票・更新・操作)に分けて設計します。最初は読み取りだけにし、提案の採用率と誤りの傾向を数か月測ります。書き込みを加えるのは、その後です。書き込みを加えるときも、CMMSへの保全依頼の起票案のように、取り消しが容易で影響が限定的な操作から始めます。MESの実績計上やロットのホールド解除のように、品質記録やトレーサビリティに影響する操作は最後に回します。

原則3:ツールは業務単位で作り、生テーブルを渡さない

エージェントにSQLを自由に書かせてMESのデータベースを直接参照させると、テーブル定義の意味を取り違えて誤集計が起きます。「ライン別・日別の停止時間を返す」「ロット番号から工程履歴を返す」のように、業務の意味を持った単位でツール(API)を用意します。これはMESのデータモデルを知っている人にしか作れない部分で、エージェントの精度を最も左右します。つなぎ方の選択肢はMESとAIをつなぐ3方式で比較しています。

原則4:承認ゲートと監査ログを最初から組み込む

どの操作に人の承認が必要か、承認者は誰か、承認画面に何を表示するかを、ツール設計と同時に決めます。あわせて、エージェントが呼んだツール、入力、結果、最終的な判断を時系列で記録します。品質監査や不具合調査で「なぜその起票をしたのか」を後から説明できる状態にするためです。承認ゲートの置き場所はHuman-in-the-loopの設計で扱います。

原則5:専門エージェントに分けるのは、評価できるようになってから

単一エージェントが安定し、成功率や介入率を測れるようになってから、専門エージェントへの分割を検討します。分割の単位は、保全・品質・計画のように、参照するデータと承認者が異なる業務の境界に合わせます。オーケストレーター型に移るのは、複数の専門エージェントが個別に評価できる状態になった後です。

データ基盤の視点:エージェントの前にコンテキストを整える

エージェントの判断は、渡されたデータの文脈に依存します。センサーの時系列だけでは「どの品番・どのロットのときか」がわからず、正しい原因推定ができません。ISA-95の階層で言えば、L3(MES)が持つ作業指示・ロット・実績・品質判定が、エージェントにとっての文脈になります。工場のデータをISA-95の4つの情報モデルで整理し、品番・設備・工程のキーでつながる状態にしておくことが、どの構成を選ぶにしても先に必要な作業です。

よくある質問

マルチエージェント構成はいつ必要になりますか

参照するデータと承認者が異なる業務を1つのエージェントで扱うと、ツールが増えすぎて判断を誤るようになったときです。それまでは単一エージェントのほうが評価も原因追跡も容易です。

SiemensやSAPの製品を使う場合も、この原則は当てはまりますか

当てはまります。製品側がオーケストレーター型でも、自社で有効にするエージェントや権限は選べます。読み取りと提案の機能から有効にし、書き込みの機能は評価後に段階的に広げてください。

ツールの数はどれくらいが適切ですか

決まった上限はありませんが、最初は3〜5本程度に絞り、エージェントが正しいツールを選べているかをログで確認しながら増やすのが安全です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。