自然言語で工場データに問い合わせるエージェント

Factory Operations Agentは、OT(設備・制御系)とIT(業務系)のデータを統合し、自然言語の質問に対して生産の洞察を返すMicrosoftのエージェントです。2024年のIgniteでAzure AI Foundryの一部としてパブリックプレビューになり、2025年3月のHannover Messe 2025にあわせて、Copilot Studio経由で使える版がパブリックプレビューとして公開されました。同時に、労働安全衛生のガイドラインへのアクセスや安全点検・教育を支援する「Factory Safe Agent」も発表されています。

前身にあたるのは、2024年4月のHannover Messe 2024でプライベートプレビューとして発表された「Copilot template for factory operations on Azure AI」です。現場の作業者が自然言語で工場データに質問できるテンプレートとして示されていました。

項目内容(公開情報)
提供形態Copilot Studio版(ローコード、Teamsにワンクリックで追加可能)と Azure AI Foundry版
提供状況パブリックプレビュー(Foundry版は2024年11月、Copilot Studio版は2025年3月)
参照データMES・QMS・サプライチェーンのデータ、Microsoft Fabric上の製造データ
仕組みLLMが質問を解釈し、セマンティックグラフ(データの意味と関係を表したモデル)からデータを取得

仕組み:セマンティックモデルが答えの正しさを決める

このエージェントの要は、LLMそのものではなく、LLMとデータの間にあるセマンティックモデルです。「不良率」「ライン2」「昨日」といった言葉を、どのテーブルのどの列、どの集計方法に対応させるかが定義されていて初めて、正しい数字が返ります。

現場担当者からLLM、セマンティックモデル、Fabric、MESや品質システムまでの構成図 現場担当者(Teams) LLM質問の解釈・回答作成 セマンティックモデル用語とデータの対応 Microsoft FabricISA-95モデルで統合 MES QMS ERP・SC 設備・IoT 工場側の準備が必要な範囲
Factory Operations Agentの構成。LLMは質問を解釈し、セマンティックモデル経由でFabric上のデータを取得する。

Microsoftは2024年4月、ISA-95の情報モデルでOTとITのデータを統合する「Manufacturing data solutions in Microsoft Fabric」をプライベートプレビューで発表しています。Factory Operations Agentは、このFabric側のデータ統合を前提にした製品と読むのが正確です。Fabricの製造業向けソリューションの中身はMicrosoft Fabricの製造業向けデータソリューションで詳しく扱っています。

前提となるデータ整備:4つの条件

MESとデータ基盤の実装経験から、このエージェントが正しく答えるために工場側で整える条件を4つ挙げます。

  1. 階層の統一:工場・エリア・ライン・設備の階層が、MES・品質システム・設備データで同じIDで表されていること。ISA-95の資産モデルに沿って揃えるのが基本です
  2. 用語の定義:「不良率」「稼働率」「停止」などの指標を、どのデータからどう計算するかを1つに決めていること。部署ごとに定義が違うと、エージェントの答えと現場の感覚がずれます
  3. 鮮度の明示:データがリアルタイムか、日次バッチかを、回答に表示できること。昨日の不良を聞かれて一昨日までのデータで答えると、現場の信頼を失います
  4. コードの整備:不良コードや停止理由コードが、分析できる粒度で入力されていること。「その他」が多い工場では、原因を聞いても答えようがありません

現場での使いどころ

Microsoftの業界ブログでは、Husqvarnaがチェーンソーの外観品質確認にAI Vision Companionを使い、Azure IoT Operationsを2工場から2025年夏までに40工場へ拡大する計画が紹介されています。Husqvarnaは夜勤作業者のトラブルシュートにAIチャットボットを使っているとも報じられました。

こうした例から見ると、自然言語での問い合わせが効くのは、次のような場面です。

  • 夜勤や休日など、専門の担当者がいない時間帯のトラブル初動
  • 朝礼前に、前日の停止・不良の傾向を把握する
  • 品質の問い合わせに対して、該当ロットの工程履歴をすぐ確認する

一方で、数値の判定(規格内か外か)や、品質上の処置(ホールド・出荷可否)をエージェントの回答だけで決めるのは避けます。数値はMESやデータベースからの引用として示し、判断は人が行う設計にします。

他社の類似製品との違い

自然言語で工場データに問い合わせるエージェントは、Microsoft以外も提供しています。Siemensは Insights Hub向けのOperations Copilot、Google CloudはManufacturing Data Engine上のGeminiエージェント(品質・保全・生産スケジューリング)、Sight MachineはMicrosoftのAzure AI Copilotテンプレート上で構築したFactory CoPilotを提供しています。いずれも、データ基盤側で工場データを意味づけして統合していることが前提という点は共通です。Microsoftの製品群全体の関係はMicrosoftの製造業向け生成AIで整理しています。

よくある質問

Fabricを使っていなくても導入できますか

公開情報では、MES・QMS・サプライチェーンのデータやFabric上の製造データを参照する構成が示されています。Fabric以外のデータ基盤との接続方法は、Microsoftまたは導入パートナーに確認が必要です。

日本語で質問できますか

LLM自体は日本語を扱えますが、工場固有の用語や略語がセマンティックモデルに定義されているかで精度が変わります。日本語での提供条件は、最新の提供情報で確認してください。

Factory Safe Agentは何に使いますか

Microsoftの発表では、労働安全衛生のガイドラインへのアクセスや、安全点検・教育の支援が挙げられています。安全に関わる判断そのものをAIに任せるのではなく、情報の参照と教育の補助として使う位置づけです。

この記事に出てくる用語

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。