VLMと従来モデルの3つの違い

VLM(Vision-Language Model)は、画像と文章をあわせて扱える生成AIです。画像を見せて「この部品に傷はありますか」と聞けば、文章で答えます。従来の外観検査AIで主流の異常検知モデル(PatchCore、PaDiM、EfficientADなど)は、良品の画像を学習し、良品から外れた度合いを数値で出します。両者の違いは次の3点に整理できます。

観点VLM従来の異常検知モデル
必要なデータ良品画像が0〜数枚でも動く(ゼロショット・少数ショット)良品を数十〜数百枚。ばらつきを代表する画像が必要
説明性「左上に5mm程度の擦り傷」のように文章で説明できる異常度の数値とヒートマップ。理由は文章にならない
速度と安定性1枚の処理に時間がかかり、同じ画像でも答えが揺れることがある1枚数ミリ秒〜数十ミリ秒。同じ入力には同じ出力

外観検査の現場の要件は、多くの場合「タクトタイム内に、毎回同じ基準で、見逃しなく判定する」ことです。この要件に対しては、3つ目の速度と安定性の差が決定的になります。

公開ベンチマークで見る精度と速度

研究で使われる公開データセットの数字で、両者の差を見ます。いずれも条件が整ったデータセットでの値で、実際のラインの精度とは違う点に注意してください。

WinCLIP(CLIPベース)のゼロショット分類性能(MVTec AD、画像AUROC)
91.8%
WinCLIP論文(CVPR 2023、arXiv 2303.14814)
PatchCoreの画像AUROC(MVTec AD、最大値)
99.6%
Roth et al.(CVPR 2022、arXiv 2106.08265)
EfficientAD-Sの1枚あたり処理時間(RTX A6000)
2.2ms
Batzner et al.(arXiv 2303.14535)

WinCLIPは、画像と言語を対応づけるCLIPというモデルを使った異常検知の手法で、良品画像を1枚も使わずに判定できます。MVTec AD(産業用の異常検知で標準的なデータセット)で分類91.8%、セグメンテーション(不良箇所の特定)85.1%、より難しいVisAでは78.1%・79.6%でした。良品を1枚だけ使うWinCLIP+では、MVTec ADで93.1%・95.2%に上がります。

これに対し、良品画像を学習するPatchCoreはMVTec ADで画像AUROC最大99.6%を出しています。ただしPatchCoreでもAUROC 99%台で誤判定はゼロにならず、論理的な異常(部品の欠落や配置違い)を含むデータセットでは性能が下がります(EfficientAD論文の3データセット平均で91.1)。

速度では、EfficientAD-Sが1枚2.2ミリ秒(614枚/秒)、PatchCoreが32ミリ秒(76枚/秒)と報告されています(RTX A6000上の実測)。汎用の大型VLMは、1枚の画像を処理して文章を返すまでに、これより桁違いに長い時間がかかるのが一般的です。

AUROCは閾値に依存しない指標で、実運用での見逃し率や過検出率とは別物です。数字の読み方は外観検査AIの精度の読み方、ゼロショット手法の詳細はゼロショット異常検知(WinCLIP)で扱っています。

VLMが効く使い方:インライン判定の外側

以上から、VLMをライン上の合否判定(インライン判定)に使うのは、現時点では適しません。一方、検査の周辺業務では、データが少なくても動き、文章で説明できるVLMの強みが活きます。

立ち上げ期の教師データ作成支援、ラインの合否判定、判定後の不良の一次分類と報告の3段階で、VLMと従来モデルの役割分担を示す図 立ち上げ期教師データ作成支援不良候補の抽出・ラベル案 ライン上合否判定(インライン)ms単位・同一基準 判定後NG品の一次分類不良内容の文章化 VLMが効く 従来の異常検知モデル VLMが効く 判定結果・不良分類をMESの検査実績に紐づけて記録
外観検査の工程とVLMの使いどころ。インライン判定は従来モデル、その前後の業務にVLMを使う。
  1. 教師データ作成の支援:立ち上げ期に大量の画像から不良らしいものを抽出し、「傷」「汚れ」「欠け」などのラベル案を付ける。人が確認して確定させれば、ラベル付けの工数を減らせます。
  2. NG品の一次分類:従来モデルがNGと判定した画像について、不良の種類を分類し、文章で説明する。再検査の担当者が見る順番を決めたり、不良の傾向を集計したりするのに使えます。
  3. 不良報告の下書き:不良画像と検査記録から、品質部門向けの報告文の下書きを作る。
  4. 多品種少量のスクリーニング:品種が多く、品種ごとに学習データを集められない工程で、人の目視の前段として「明らかな異常」を拾う。この場合も最終判定は人が行います。

どの使い方でも、判定結果と不良分類は、ロット・品番・工程と結びつけてMESの検査実績に残すことが重要です。VLMで分類した不良の傾向が、工程条件と結びついて初めて品質改善に使えます。

よくある質問

汎用の対話AIに検査画像を送ってもよいですか?

製品画像は機密情報に当たることが多いため、社内の利用ルールで送信先が認められているかを確認してください。外部クラウドに送れない場合は、オンプレミスで動く小型のVLMや、CLIP系の手法を自社環境で動かす選択肢があります。

VLMを追加学習すれば、インライン判定に使えるようになりますか?

特定の用途に追加学習すると精度は上がります。図面の情報抽出の研究では、注釈付き図面400枚で小型VLMを追加学習し、汎用の大型モデルより大幅に良い結果を得た例があります。ただし処理速度と判定の安定性の課題は残るため、インライン判定に使うかは、タクトタイムと見逃しの許容度で個別に判断する必要があります。

従来モデルとVLMを組み合わせる方法はありますか?

従来モデルで高速に合否を判定し、NGになった画像だけをVLMに渡して不良の種類と説明を付ける構成が現実的です。VLMに渡す枚数がNG品だけに絞られるため、処理時間と費用も抑えられます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。