要件定義シートの役割:検査仕様を人の頭から出す

外観検査AIの精度の大部分は、AIのモデルより前の段階で決まります。欠陥が画像に写らなければAIは検出できず、何を不良とするかが人によって違えば正解ラベルが揺れます。このシートは、その前提を25項目で書き出し、ベンダーへの見積依頼とPoC計画の土台にするためのものです。

外観検査AIの導入手順は、検査仕様の明文化、撮像系の検証、データ収集、手法の比較、閾値設計、並行運用、本稼働と再学習の運用設計の順で進みます。このシートは最初の2段階に当たります。全体の流れは外観検査AIのPoC設計で解説しています。

25項目の構成:5分野

分野項目数主な項目主に記入する人
A ワーク5品番数、材質・色・表面状態、寸法、品種切替の頻度、ワークのばらつき生産技術
B 欠陥6欠陥の種類、最小サイズ、限度見本、発生頻度、見逃し許容、良品の自然なばらつき品質保証
C 撮像6検査面の数、搬送方法、位置決め精度、照明の候補、周辺環境(外光・振動・粉塵)、カメラ設置の制約生産技術
D タクトと処理4タクト、1個あたりの撮像枚数、推論の場所、ネットワーク生産技術・情報システム
E 判定後の処理4NG時の排出方法、人の再確認、結果の記録先(MES等)、再学習の担当製造・品質保証・情報システム
ワークから判定後の処理までの5分野の流れ A ワーク何を検査するか B 欠陥何を不良とするか C 撮像写るか D タクト間に合うか E 判定後結果をどう使うか 正解ラベルの質を決める 検出できる上限を決める 本番で使われるかを決める
要件定義の5分野と、それぞれが外観検査AIのどの部分を決めるか。

認識ずれが起きやすい項目と記入例

25項目のうち、発注側とベンダーで認識がずれやすい項目を抜き出し、塗装部品(樹脂製の外装部品)を例にした記入例を示します(架空の例です)。

No.項目記入例ずれが起きる理由
A-5ワークのばらつき成形ロットにより色味がΔE 1.0程度変わる。表面のシボ(凹凸模様)あり良品のばらつきを伝えないと、色ムラやシボを異常と判定して過検出が増える
B-1欠陥の種類ブツ(異物の付着)、タレ、ハジキ、キズの4種類。凹み・寸法不良は対象外対象外を書かないと、ベンダーは全欠陥を検出する前提で見積る
B-2最小の欠陥サイズブツは直径0.3mm以上を不良。0.3mm未満は良品カメラの解像度と視野がここで決まる。欠陥が数ピクセル以上に写る必要がある
B-3限度見本品証の限度見本 QS-021 第3版(実物16点、写真付き)限度見本がないと、ラベル付けの基準が人によって変わる
B-5見逃しの許容客先指定の重要面は見逃し0。裏面は目視の二次検査あり見逃しをどこまで許すかで閾値と過検出率が決まる
C-2搬送方法コンベア上を300mm/sで流れる。停止させての撮像は不可停止できるかどうかで、カメラ・照明・露光の方式が変わる
C-5周辺環境窓からの外光あり。塗装ブースの近くで微粉が舞う外光と粉塵は照明の安定と、レンズの汚れによる精度低下の原因になる
D-1タクト8秒/個。ただし撮像と判定に使えるのは3秒タクト全体ではなく、検査に使える時間を書く
E-1NG時の排出自動排出は不可。表示灯で知らせ、作業者がNG箱へ排出装置の有無で、PLC連携の範囲と費用が変わる
E-3結果の記録先MESの検査実績にロットID・判定・画像ファイル名を登録記録先を決めないと、流出時の追跡と再学習ができない

記入のコツ:写真と実物を添える

要件定義シートは文字だけでは不十分です。シートには項目ごとに「添付資料」の欄があり、次のものを添えます。

  • B-1・B-3:欠陥の種類ごとの写真(良品と並べたもの)と、限度見本の写真
  • A-5:良品のばらつきを示す写真(色味の違う良品、シボの違う良品)
  • C-1・C-6:検査面を示す図と、カメラを設置できる空間の寸法・写真

ベンダーに見積を依頼するときは、可能なら良品・不良品の実物サンプルを貸し出します。実物で撮像テストをすると、C分野の項目(照明の方式、検査面の数)が確定し、見積の幅が小さくなります。照明の選び方は外観検査AIの撮像・照明設計で解説しています。

よくある質問

品番が多い場合はどう書きますか?

品番ごとにシートを作るのではなく、ワークの材質・色・形状が近いものをグループにまとめ、グループごとにA分野とB分野を書きます。品種切替の頻度(A-4)と、新しい品番が追加されたときの対応は必ず書きます。品種追加のたびに再学習が必要になると、運用が回らなくなるためです。

欠陥の最小サイズが決まっていない場合は?

現場の検査員が実際に不良にしている最小のものを、限度見本や過去の不良品から測って決めます。決まらないままPoCを始めると、評価のたびに「これは不良か」の議論になります。品質保証部門と客先の要求を確認したうえで、数値で書きます。

このシートはRFPの代わりになりますか?

外観検査AIの技術要件としてはRFPの中心部分になりますが、予算、納期、保守条件、権利などは別に必要です。このシートをRFPの別紙として添付し、ベンダーへの質問はAIベンダーへの質問リスト60問で補います。

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5分野25項目の記入シートと、塗装部品の記入例、添付資料のチェック欄つきです。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。