Forge Cognitionは工場向けの製品なのか?

対象には「産業オペレーション」も含まれていますが、公表された実証先はすべて建物とキャンパスで、工場での成果はまだ出ていません。

もし自社工場の設備アラームの9割が、誰も対応しなくてよいものだとしたら。保全担当がそれを1件ずつ確認して閉じる時間は、どこへ回せるでしょうか。Honeywell Technologiesが2026年10月14日に発表したForge Cognitionは、ちょうどこの問題を前面に出した製品です。同社はこれを、AIエージェントと実時間のデジタルツイン(設備や建物の状態を写した仮想モデル)を組み合わせ、施設の状況把握、運転シナリオの模擬、既存システムをまたいだ対応の調整を行う基盤と説明しています。NVIDIAとDell Technologiesの技術を使って開発されました。

発表文が挙げる用途は3つです。建物管理システム(BMS)のアラームを分類・検証して誤報を減らすアラーム管理、空調(HVAC)の実時間データから不具合の兆候を拾う予知保全、デジタルツインで運転変更を試して省エネ余地を探るエネルギー管理。対象は「建物・キャンパス・産業オペレーション」とされています。

ただ、実証先として名前が出ているのは、NVIDIA本社のVoyagerキャンパス(米カリフォルニア州サンタクララ)、ドバイのFairmont Hotel、シンガポールのNEX Mall、米Vanderbilt University、HoneywellのバンガロールとテキサスRichardsonの自社キャンパスです。ホテル、商業施設、大学、オフィスで、生産ラインを持つ工場は含まれていません。Fortuneの10月14日のインタビュー記事によると、Honeywellは今後6か月の試験先として12業種・12か所を選んでおり、その中にナイジェリアの顧客のプラント運用が入っています。工場やプラントでの結果が出るのは、早くてもその後です。

プロセス産業向けには、同社はすでにForge Production IntelligenceやExperion系のAI機能を出しています。こちらの数字の読み方はHoneywell・ABB・GE Vernovaのプロセス産業AI比較で整理しました。Forge Cognitionは、それらとは別に施設運用の側から出てきた製品と読むのが自然です。両者がどうつながるのかは、発表文からは確認できません。

「不要アラーム最大90%減」はどこで測った数字なのか?

NVIDIA本社Voyagerキャンパスでの建物管理アラームの値で、Honeywellと協業各社の発表によるものです。

発表文がVoyagerでの初期結果として挙げる数字と、その条件を並べると次のようになります。

数字何の値か条件・出所この数字から言えないこと
最大90%不要アラームの平均削減率Voyager。建物管理のアラーム。Honeywell・NVIDIA・Dellの発表工場の設備アラームやプロセスアラームで同じ率になるか
最大10%エネルギー・ユーティリティ消費の削減余地Voyager。「潜在的な」削減と表現。同上実際に削減した量。Fortuneも「見込みで、まだ達成していない」と書いている
95%超快適性スコア各ゾーンの温度・湿度・CO2の加重平均。同上生産設備の稼働や品質への影響
約900台Voyagerで扱う機器の数Fortuneの記事工場の設備点数・タグ数との比較

Fortuneの記事によると、Voyagerのセキュリティ・入退室管理システムでは、もともとアラームの約90〜95%が誤報で、1シフト8〜9人がその処理に当たっていました。発表の「最大90%」がこの系統だけの値なのか、空調などを含む建物管理アラーム全体の値なのかは、発表文と記事からは読み取れません。ただ、少なくとも出発点に誤報が極端に多い系統があったことは確かです。誤報が少ない現場では、同じ仕組みを入れても削れる量は小さくなります。

また、Voyagerは約75万平方フィート(約7万平方メートル)の1棟の建物で、プロジェクトは同社の6月の投資家説明会に間に合わせるため、90日で結果を出す目標で進められたとFortuneは伝えています。NVIDIAは現時点で試験導入の相手であり、有償の顧客にするのは次の段階とされています。協業相手の本社での短期の実証であることは、数字を読むときに外せない前提です。

自律モードがあるなら、エージェントに任せてよいのか?

まだ任せられません。発表文は手動・半自律・自律の3モードを挙げていますが、同社CTOは自律モードを開放しておらず、当面2〜3年は人が運用するとの見通しを述べています。

発表文は、顧客がForge Cognitionを手動、半自律、自律のいずれのモードでも運用でき、オペレーターが監督の度合いを決め、いつでも介入できると書いています。これだけを読むと、自律運転がすぐ選べるように見えます。

一方、Fortuneのインタビューで、Honeywell TechnologiesのCTO、Suresh Venkatarayalu氏は、自律の機能は今は開けていないと話しています。人が運用するこの形を「おそらく今後2〜3年」続け、その後どこで切り替えるかは顧客が決めるという趣旨です。理由として、自社の制御システムが手元にない状態でこうしたエージェントを動かすことはしない、という考えも示しています。完全な自律に求める水準は「常に10点満点の正確さ」だとも述べています。

製品の仕様として自律モードが存在することと、提供元が自律を推奨していることは別の話です。工場で考えるなら、エージェントが推奨を出し、人が承認して実行する形が当面の前提になります。どこに承認を置くかはHuman-in-the-loopの設計で5つの場所に分けて整理しています。

既存設備に載せられるなら、データの準備はいらないのか?

いります。既存の設備を入れ替えずに使える設計でも、エージェントが判断に使う知識ベースは顧客の資産データとシステムデータから作られます。

発表文によると、Forge Cognitionは既存の導入済みシステムにつながり、ITとOTをまたぐ開放的な構成をとります。そのうえで、Honeywellの領域知識と、顧客の資産・システムのデータから構造化された知識ベースを組み立てるとしています。NVIDIA側はNemotronのオープンモデルでエージェントを動かし(オペレーターの評価で改善する「True Alarm」エージェントを含む)、Omniverseのライブラリで物理的に正確な模擬を行い、CosmosとMetropolis VSS Blueprintで映像を含むセンサーデータの検索・要約を担います。Dellは、PowerEdge XEサーバーとAI Data Platformのストレージなどの基盤を提供します。

ここから先は編集部の推測です。建物では、空調機や照明の点数は多くても、機器の種類と点検の考え方はある程度そろっています。工場では、同じ「温度上昇」のアラームでも、段取り替え中なのか、品種が変わったのか、計画停止に入る直前なのかで意味が変わります。こうした生産側の文脈は、BMSやヒストリアン(設備データの時系列データベース)ではなく、MES(製造実行システム)の作業実績や設備状態に入っていることが多いはずです。アラームを「対応不要」と判定させるなら、その判定に必要な生産側の情報がエージェントから参照できるかが効いてきます。ヒストリアンのデータをAIに渡すときの注意はヒストリアンのデータはそのままAIに使えるかで書きました。

では、日本の工場はいま何をすればよいのか?

工場での実証結果が出るまでは、製品の検討より先に、自社のアラームとデータの棚卸しを進めるのが現実的です。

Forge Cognitionの提供条件は、発表時点では「導入範囲の特定と見積もりについて問い合わせを受け付ける」段階で、価格は公表されていません。施設運用での成果を工場の設備保全や省エネに広げられるかどうかは、先に触れた12業種の試験の結果を見てから判断しても遅くありません。

省エネについては、10%という「見込み」を実際の削減として測るには、生産量で補正したベースラインが要ります。工場では生産量の変動がエネルギー使用量を大きく動かすため、建物の空調の省エネ率をそのまま工場に当てはめることはできません。測り方は生産量で補正するベースライン回帰を参照してください。

アラーム管理と予知保全のどちらから手を付けるかで言えば、誤報の比率を自分で数えられるアラーム管理のほうが、効果を確かめやすいテーマです。予知保全は、故障の記録と保全履歴が十分にないと、兆候を拾えたかどうかの評価ができません。

よくある質問

Forge Cognitionはクラウドで動くのですか、オンプレミスで動くのですか?

発表文では、DellのPowerEdge XEサーバーやAI Data Platformのストレージが基盤として挙げられ、NVIDIAのRTX PRO GPUで動き、DGX Sparkによる現場近くの配置にも広げていくと説明されています。現地に置く計算機で動かす構成が想定されているとみられますが、クラウド版の有無や、データを社外に出すかどうかの条件は発表からは確認できません。

Experionなど、Honeywellの既存の制御・監視製品が必要ですか?

発表文は「既存の顧客の導入済みシステム」につながると書いていますが、DCSやヒストリアンなど具体的な製品名や、他社製システムへの対応範囲は挙げていません。他社製のBMSや監視システムを使っている場合は、対応しているシステムの一覧を個別に確認してください。

不要アラームの判定をAIに任せて、見逃しは増えないのですか?

発表とインタビューの範囲では、見逃し(本来対応すべきアラームを不要と判定した件数)の数字は公表されていません。工場で試すなら、削減率と並べて見逃し件数を記録し、一定期間は人がすべての判定を確認する運用にするのが安全です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。