国务院が示した「人工智能+」の全体像

中国の国务院(日本の内閣に相当)は2025年8月26日、「关于深入实施"人工智能+"行动的意见」(「人工智能+」行動を深く実施することに関する意見)を公表しました。AIを経済・社会の各分野に組み込む方針を示した上位文書です。

数値目標は次の3段階です。

2027年の新一代智能终端・智能体の普及率
70%超
国务院「人工智能+」行動意見(2025年8月)
2030年の同普及率
90%超
同上
「全面步入智能经济和智能社会」とする目標年
2035年
同上

ここでいう「智能终端」は、意見の中で智能网联汽车(コネクテッドカー)、AIスマホ・PC、智能机器人、スマートホーム、ウェアラブルが例示されています。「智能体」はAIエージェントを指します。普及率の定義(分母が何か)は意見の本文では詳細に定められておらず、70%という数字は工場のAI導入率を直接示すものではない点に注意が必要です。

意見は6つの大きな行動で構成されています。

行動内容
AI+科学技術研究開発へのAIの適用
AI+産業発展工業・農業・サービス業へのAIの適用(製造業はここ)
AI+消費の質向上消費財・サービスでのAI
AI+民生福祉教育・医療・雇用など
AI+ガバナンス能力行政・社会統治
AI+グローバル協力国際協力

工業分野の3項目

産業発展の中で、工業分野は「推进工业全要素智能化发展」(工業の全要素の智能化を進める)を掲げ、次の3項目を挙げています。

  1. 設計・中試(試作・パイロット生産)・生産・サービス・運営の全工程での智能連携
  2. 工业软件(産業用ソフトウェア)の突破
  3. 智能制造装备(スマート製造装置)の発展

1は、AIを個別の工程の点ではなく、設計から運営までの流れ全体に入れることを求めています。2は、CAD・CAE・MES・PLCなどの産業用ソフトを国産で強化する意図を含みます。中国では海外製の工业软件への依存が長く課題とされており、AIを国産化の機会と位置付けている点が読み取れます。

下位政策への流れ

この意見は方向を示す上位文書で、具体的な目標や措置は各省庁の実施計画に落とされます。製造業に関係する主な流れは次のとおりです。

国务院の行動意見から、AI+製造専項行動、工業インターネット×AI融合方案、智能工厂梯度培育へと流れる図 国务院「人工智能+」行動意見2025年8月26日 上位方針 「AI+制造」専項行動工信部など8部門2026年1月7日 工業インターネット×AI融合賦能行動方案工信部 2025年12月29日付 智能工厂梯度培育6部門 2026年度通知2026年7月15日付 地方政府の支援策:算力券・模型券、資金補助、シーン開放(深圳・重慶など)2026年3月5日の政府活動報告も「AI+」の深化と智能体の普及加速を要求
「人工智能+」行動意見から製造業向けの下位政策への流れ(2025年8月〜2026年7月)。

意見の公表直後の2025年9月、工信部の张云明副部長は国新办の記者会見で、製造業向けの専項行動を策定すると予告しました。同じ場で、2025年の製造業のデジタル化転換の浸透率が68%、智能工厂による重点業界の生産効率の向上が平均25%超と説明しています。予告どおり、2026年1月7日に工信部など8部門が「"人工智能+制造"专项行动实施意见」を印発しました。この専項行動の詳細は中国「AI+製造」専項行動の全解説で扱っています。

工信部長の李乐成も、『党建』誌への寄稿で、大模型と智能网联新能源汽车・数控机床(NC工作機械)との融合を深めると書いています。自動車と工作機械という、日本の製造業と競合・取引の両面で関係の深い分野が名指しされている点は注目に値します。

日系企業にとっての意味

中国に工場を持つ日系企業にとって、この意見が直接の義務を課すわけではありません。影響は主に間接的なものです。

1つ目は、取引先と競合の変化です。中国の地場の顧客やサプライヤーは、下位政策の補助や認定を受けるためにAI導入を進めており、取引の中でデータ連携やAIを前提にした要求が出てくる可能性があります。

2つ目は、提案を受ける側としての変化です。中国の工業インターネット平台やAIベンダーは、政策の後押しを受けて日系工場にも営業をかけています。成果報酬型の課金など、日本とは違う価格の提案も出てきます。

3つ目は、データの扱いです。AIの導入が進むほど、工場のデータを中国国外に出すかどうかの判断が増えます。中国のデータ越境の規制は中国のデータ越境ルールと工場データで扱っています。

よくある質問

「意見」は法律ですか?

法律ではなく、国务院が示す政策の方針文書です。拘束力のある義務は、下位の部門規章や地方の規定、補助・認定の要件として具体化されます。

外資企業も「人工智能+」の支援を受けられますか?

意見そのものは対象を国内企業に限定していませんが、支援の具体的な要件は下位政策や地方の制度ごとに異なります。外資の中国工場がAI活用で国際的に評価された例(WEF灯塔工場に選ばれた西门子数控・南京や施耐德电气・武汉など)はありますが、国内の補助・認定制度の対象になるかは、個別の制度の要件で確認する必要があります。

この記事に出てくる用語

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。