数字は「出所の性質」で4つに分ける

ベンダーの効果数値は、どこで誰がどう測ったかで信頼度が大きく違います。当サイトでは次の4区分で扱っています。

第三者検証、実測(顧客名あり)、見込み(パイロット・ベータ)、ビジョンの4段の階層図 A 第三者検証監査・論文・公的機関の評価 B 実測(顧客名・条件あり)特定拠点・特定期間の測定値。ただし自社申告 C 見込み(パイロット・ベータ・推定)顧客名なしのパイロット平均、ベータ時点の推定値 D ビジョン(構想・目標)経営者の発言、将来像としての「最大◯%」
効果数値の4区分。上ほど根拠が強く、下ほど将来の構想に近い。

製造業AIの分野では、A(第三者検証)に当たる数値はごくわずかです。多くはBからDに入ります。Bであっても、測定した主体はベンダーか顧客で、外部の監査を経ていない点は変わりません。

主要ベンダーの数値を分類する

公開資料から、欧米大手の代表的な数値を4区分に当てはめました。区分は発表文の書きぶりに基づく当サイトの判断です。

ベンダー数値発表文での位置づけ区分
Siemens顧客の生産性を最大50%向上(2025年5月)Digital Industries CEOのRainer Brehmが「オートメーションの自動化」の将来像として発言D
SiemensSCL(PLCの構造化テキスト)生成が約60%高速化(2025年3月)同社の推定値C
SiemensSenseye Maintenance Copilotで事後保全時間が平均約25%減(2025年3月)パイロットの平均、顧客名なしC
SAPShop Floor Supervisor Agentで監督者の生産性50%向上、計画外停止2%減(2025年10月)ベータ版、SAPの推定C
SAPMaintenance Planner Agentで保全計画者の生産性最大40%向上(2025年7月)ベータ版、見込み値C
SAPSourcing AgentでRFP作成時間最大70%削減(2025年7月)見込み値C
SAPIBPの生成AIで計画者の生産性25%向上(2025年10月)SAPの推定C
ABBGenix Copilotで資産寿命最大20%延長、計画外停止最大60%削減(2023年7月)開発発表時の見込みD
ABBGenix APM Copilotで既存利用者のO&Mコスト最大40%削減、生産効率最大30%向上(2025年5月)ABBの自己申告C
ABBセメント等のプロセスでエネルギー15〜18%最適化、トラブルシュート時間60〜80%削減(2025年11月)ABB自身の事例をMicrosoftが顧客事例として掲載B(自社申告)
Rockwell AutomationFactoryTalk Energy Managerの投資回収は2週間弱(2025年12月)自社工場での説明B(自社申告)
Siemens・NVIDIAPepsiCoで潜在問題の最大90%を物理変更前に特定、スループット20%向上(2026年1月)CES 2026の発表、顧客名ありB(ベンダー発表)

この表から分かるのは、「最大」という語が付いた数値の多くがCかDだということです。また同じベンダーの中でも、区分の違う数値が同じ資料に並んでいることがあります。

用途別スペシャリストの数値はさらに慎重に

大手プラットフォーマーより、用途別のスタートアップのほうが顧客名付きの数値を多く出しています。ただし、これらは自社サイトに掲載されたベンダー申告です。

  • MaintainX(CMMS):Michaelsで平均修理時間(MTTR)70%短縮、Redimixで保全コスト53%削減
  • Instrumental(電子機器の品質AI):Toastで投資対効果5.3倍、Metaで7プログラムにわたり年900エンジニア週超を削減
  • Retrocausal(組立のCVガイド):Siemens向けで初回良品率10%向上、品質問題60%減
  • Augury(予知保全):DuPontの担当者が「これまでの導入で予測精度100%」と発言

顧客名が出ている点で区分Bに近いものの、測定の期間・比較対象・対象範囲は書かれていません。また、成果が出た顧客の事例だけが掲載されるという選択の偏りもあります。

社内資料での書き分けルール

数値を稟議書や比較表に引用する際は、区分が読み手に伝わる書き方にします。当サイトの執筆ルールを社内向けに使える形にまとめると、次のようになります。

区分書き方の例
A 第三者検証「〇〇(検証機関)が〇年に評価した結果、△△が×%改善した」
B 実測「〇〇社の△△工場では、〇年〇月から〇か月の運用で×%改善したと同社が発表している」
C 見込み「〇〇社はベータ版の時点で×%の改善を見込んでいる(同社推定)」
D ビジョン「〇〇社は将来の目標として最大×%を掲げている」。比較表の効果欄には載せない

PoCに進む前の質問としては、「その数値は何社の、どのくらいの期間の結果か」「効果が出なかった顧客はどのくらいあるか」「ベースライン(比較対象)は何か」の3つが有効です。答えが出せない数値は区分Cとして扱います。生成AI製品に固有の論点はベンダーの効果主張の読み方も参照してください。

よくある質問

ベンダーの数値はすべて信用できないということですか?

そうではありません。数値の性質を区別して使うべきだということです。見込み値は製品の狙いを知る手がかりとして有用です。ただし自社の投資判断の効果見積もりには、自社のデータで測った値か、条件が近い顧客の実測値を使います。

第三者検証の数値はどこで探せますか?

製造業AIでは数は少ないものの、学術論文(ベンチマークでの比較)、公的機関の実証事業の報告書、業界団体の調査が該当します。ベンダーの事例でも、顧客側が自社の決算資料や学会で発表したものは、条件が詳しく書かれていることが多く参考になります。

WEFのライトハウス工場の数値はどの区分ですか?

各拠点の自己申告をWEFが公表したもので、区分Bに当たります。ただし数十件以上のユースケースの合計の効果で、AI単独の効果ではない点に注意が必要です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。