半導体前工程はデータが最も揃った業種

半導体の前工程では、ウェハ1枚ごとにIDが振られ、数百の工程を通る履歴が装置ログ(FDC:装置の稼働パラメータを監視する仕組み)や計測データとともに記録されます。工程と装置の自動化も進んでおり、他業種でAI導入の壁になる「データがない」「紐付かない」という問題は比較的小さい業種です。

その代わり、工程数が多く、1つの工程の変動が数十工程後の歩留まりに表れるため、原因の特定が難しくなります。AIの役割は、検査や計測を全数化・高速化すること、そして工程をまたいだ歩留まり要因を絞ることにあります。

前工程の4つのAI用途

用途何をするか主なデータ課題
ウェハ欠陥検査・分類検査装置の画像から欠陥を検出し種類を分ける光学・電子線検査画像新しい欠陥モードへの追従
バーチャルメトロロジー(VM)装置データから膜厚・寸法などの計測値を推定するFDCログ、計測サンプル装置の保守後のドリフト
装置の予知保全チャンバーやポンプの劣化を検知する装置センサー、保守記録故障事例が少ない
ファブのスケジューリング数百工程・再入工程の投入順を最適化する装置状態、WIP、レシピ規模が大きく最適解が出にくい

バーチャルメトロロジーは、全数を計測すると時間とコストがかかる工程で、装置のセンサー値から計測値を推定する手法です。抜き取りの計測値を正解データにして学習し、推定値で全数を監視します。仕組みと精度管理はバーチャルメトロロジー(VM)で解説しています。

TSMCとGlobalFoundriesの公開事例

NVIDIAは2026年6月、TSMCがNVIDIA Metropolis・TAOでナノメートル級の欠陥を検出し、CUDA-Xを計算リソグラフィ、工程制御、ファブスケジューリングに使っていると紹介しました(Interesting Engineering報道)。同社は2025年10月にも、TSMCがアリゾナのファブ設計・建設にOmniverseとIsaacを使っていると発表しています。

WEFの2025年9月の発表では、GlobalFoundriesのシンガポール拠点がライトハウスに選ばれ、試作期間を30%短縮したと報告されています。

TSMCのAIによるウェハ欠陥検出(NVIDIA Metropolis・TAO)
ナノメートル級
Interesting Engineering(2026年6月)
GlobalFoundries(シンガポール)の試作期間短縮
30%
WEF Global Lighthouse Network(2025年9月)
半導体工場のクリーンルームでPPE装着不備をAIで検知し警報
15秒前
36氪(2026年1月、研华の事例)

中国では、研华(Advantech)の事例として、半導体工場のクリーンルームでPPEの装着をAIで検知し15秒前に警報を出す仕組みが報じられています(36氪、2026年1月)。品質以外の安全・環境管理にもAIが使われ始めています。

精度より「モデルの管理」が課題になる

半導体の工程は、装置の保守、部品交換、レシピの変更が頻繁に起こります。そのたびにデータの分布が変わり、VMや欠陥分類のモデルの精度が落ちます。AIを工程管理に使うなら、モデルの版を装置とレシピの変更履歴と結びつけて管理する必要があります。

装置ログと計測サンプルからVMモデルを学習し、推定値で全数監視し、装置保守やレシピ変更をトリガーに計測値と比較して再学習するサイクル 装置ログ(FDC) 抜き取り計測値 VM・分類モデル 全数の推定・監視 保守・レシピ変更で精度確認と再学習
半導体前工程でAIモデルを運用する流れ。装置保守やレシピ変更をトリガーに精度を確認し、再学習する。

日本の半導体工場が取れる手

日本の前工程・後工程の工場は、海外の最先端ファブほどの計算資源やデータ規模を持たないことも多いです。その場合でも、次の順で進めると成果を出しやすくなります。

よくある質問

バーチャルメトロロジーで計測をなくせますか

なくすことは想定しにくく、計測の頻度を減らす、あるいは全数の監視を補うのが現実的な使い方です。推定モデルの学習と精度確認には実計測の値が欠かせません。

半導体の欠陥分類AIはどれくらいのデータが必要ですか

欠陥の種類ごとに一定数のラベル付き画像が必要で、まれな欠陥は集まりにくいのが課題です。新しい欠陥モードが出たときに人が分類して追加学習する運用を最初から組み込んでおくと、精度の低下を抑えられます。

ファブのスケジューリングに強化学習は使えますか

研究では成果が出ていますが、実務では工程数と再入の多さから、数理最適化やルールベースのディスパッチと組み合わせることが多いです。強化学習の適用条件は強化学習による生産スケジューリングで解説しています。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。